13、全体イベント、川中島の戦い?
昨日の個人イベントの結果は、いつ出るの? 私、ちゃんとできたのかな。
「結果は、出ておる。知りたいのか?」
私は知る権利があるんじゃないの? これって、私がプレイヤーなら、私のゲームなんでしょ。
「お奈津ちゃん、ちと違うのじゃ。ワシのゲームなのじゃ。昨日のミニイベントでは、関わった攻略対象に一律に10ポイント、行動を共にした攻略対象には、さらに10ポイントが入ったのじゃ」
ということは、秀吉さんが10ポイント、三成さんが20ポイントということ?
「うむ、他にも攻略対象は居たのじゃ。お奈津ちゃんが気付いていないから言えないが、一律で10ポイントなのじゃ」
一律ポイント? それって、私が薬草をたくさん手に入れたかどうかは、関係なかったの?
「たくさん手に入れたから、一律10ポイントじゃ」
ふぅん。
「つ、冷たいのじゃ。この話はやめて、全体イベントの説明をするのじゃ」
着物の袖の中で、ゴソゴソと動くモモンガ……。ふふっ、なんだか、ドンヨリと肩を落としている姿が見えるようだわ。
「個人の行動によるミニイベントは、お奈津ちゃんの日常生活の中で発生するが、全体イベントは、別のストーリーじゃ」
別のストーリー?
「うむ、時間軸も攻略対象との関係性も変わるのじゃ。親愛ポイントは引き継がれるが、それ以外は、日常生活とは全くの別世界なのじゃ」
なんだか混乱しそう。
「ワシがフォローするのじゃ」
うーん……。全体イベントはどんなことをするの?
「いろいろじゃ。始まってみなければわからないのじゃ。もうすぐ、何かの騒ぎが起こる。それをキッカケにして、全プレイヤーは、全体イベント会場へ移動するのじゃ」
えっ、たくさんの人が居なくなると、騒ぎにならない?
「大丈夫じゃ。イベント終了後は、出発したのとほぼ同じ時刻に戻ってくるのじゃ」
そう。
グラッと、突然、大きく揺れた。地震かしら。何かが割れる音が聞こえた。
その次の瞬間、ふわっと浮き上がる感覚のあと、景色が真っ白になった。
ちょっと、寒い。ここはどこ?
景色が見えるようになると、私は別の場所にいた。
「うぎゃぁぁ〜、おろろん……ひどいのじゃ!」
お爺さん、どうしたの?
「今回のイベントは、川中島の戦いなのじゃ」
えっと、島左近は登場しないよね?
「全キャラは、どこかに出てくるはずじゃが、ワシらがどの場所に降り立ったかが問題じゃ」
周りを見渡しても、どう考えても山の中だ。川中島って、川よね?
「こ、これは、さらに貧乏くじを引いたやもしれん。プレイヤーが多すぎるのじゃ。メイン会場に入れなかったかもしれぬ」
そのとき、山道をガタガタと進む荷車の音が聞こえてきた。
「おや、お嬢さん、こんな場所でどうされました?」
振り返ると、荷車を引く二人の男性と、それを護衛するかのような数人の女性がいた。
「えっと、ちょっと迷ってしまいまして」
「甲斐に向かわれるのですか? それとも越後かな?」
どうしよう、山の中だから、遠い方を言う方がいいかな。
「越後へ」
「おや、奇遇ですね。これを届けたら越後に戻りますから、ご一緒しましょう。お一人ではなにかと物騒ですからね」
「ありがとうございます」
えー、ちょっと待って。私は川中島に行きたいのに。でも、そんなことを言うと、何か疑われるかな。
「ここから先は、我々だけで大丈夫です。軒猿も近くにいてくれますから」
「うん、そうだね。じゃあ、よろしく。私が途中で所用ができたため直接届けられなくなったと、アイツに伝えておくれ」
「かしこまりました」
荷車を引く二人の男性は、私にペコリと頭を下げ、そのまま山道を進んでいった。
「さて、お嬢さん、越後はこちらですよ」
そう言ってにこやかに微笑む女性は、頭に被っていた布を外した。す、すごい美人!
凛とした気品のある三十歳前後に見える女性だ。誰?
すると別の同行者が、ホッとした様子で、私に話しかけた。
「よかった、お嬢さんは女神だ。いくら言っても聞き入れてくださらなくてな。このまま甲斐のあの方の館に乗り込むのではないかと……」
「直接、私が届けてあげる方が面白いじゃない」
「いや、奇襲だと勘違いされますから」
私がポカンとしていたのだろう。凛とした女性は、クスクスと笑った。女性の私から見ても惹きつけられる魅力がある。
「お嬢さん、名は?」
「あ、はい、私は奈津と申します」
「お奈津さんね、見た感じは武家ではなさそうだけど、越後に何の用事かな」
えっ……何て言えばいいのかな。
「は、はい。ちょっと捜している人がいまして」
「そう、それは大変だ。早く会えればいいね」
「ありがとうございます」
この人は、誰なの?
モモ爺は、袖の中でジッとしている。プレイヤーが居るのかな。