1、関ヶ原古戦場跡での出会い
初めましての皆様、はじめまして。
よろしくお願いします。
初めて訪れた、関ヶ原古戦場跡。
もう、この世には未練はない。そう、後悔しかない。死ぬまでに一度は行ってみたかったこの場所に、いま私は立っている。
意外に、自然が残ってるんだな。
少しぬかるんだ細い道を歩きながら、私は、昔、この地で起こった大戦に思いを馳せていた。急な坂道を進むと、パッと景色がひらけた。ここは、誰かの陣があった場所のようだ。
すごく見晴らしがいい。
大戦の最中、ここに立った武将は、この景色を眺めて何を考えていたのだろう。きっと勝つ、そう信じていたのかな。
なんだか気持ちいい風。
だけど、私の決意は変わらなかった。アパートも解約したし、どうしても捨てられなかった僅かな荷物は、実家に送った。ごめんなさいの手紙を添えて。
この旅の途中で、私は……この世界から消える。
「お嬢さん、お嬢さん、島左近が好きか?」
突然、背後から声をかけられ、私はビクッとした。死を覚悟しているのに、こんなことで恐怖を感じる……そんな自分が滑稽に思えた。
「お嬢さん、ワシは悪いお兄さんじゃないぞ?」
真横に並び景色を眺める男性は、どう贔屓目に見ても、お兄さんとは程遠い年齢に見えた。それに、珍しい和服姿だ。近くの農家のお爺さんなのかな。
「えっと、あの……」
「なぬ? 島左近の陣跡にいるのに、島左近を知らぬのか?」
何も言っていないのに、考えていることを言い当てられて、私は戸惑いを隠せなかった。このお爺さん、何?
「ここが誰の陣跡かは、知らなかったです」
「じゃ、島左近は好きか?」
お爺さんは、私の顔をしげしげと覗き込み、なんだか落ち着かない様子だった。急いでいるのか、せっかちなのか、左右に身体を揺らしている。
「あまりよく知らないです。石田三成の家臣だったってことくらいしか……」
「ぬぅぅ、では、島左近は嫌いか?」
「いえ、嫌いではないですけど」
すると、お爺さんは、パァァッと晴れやかな笑顔を浮かべた。ちょっとかわいい無邪気な顔だ。
「なかなか良い奴なのじゃ。きっと気に入る。お嬢さんが、ここにいるのがその証拠じゃ」
「は、はぁ」
何を言われているのか、全く理解できない。お爺さんの言葉は、まるで、島左近に会ったことがあるみたいに聞こえるけど。
「お嬢さん、名前は?」
「えっ? いや、知らない人にそんな……」
「ふむ、由利 奈津さんか。お奈津ちゃんじゃな」
「な、何も言ってませんけど!?」
「気にするでない。たいしたことではないのじゃ」
ますます怪しい。私、どこかで個人情報を抜き取られたのかな。まぁ、もう、どうでもいいんだけど。
「ワシは、ちょっと困っておってな」
「あの、私には……」
新手の詐欺かもしれない。
「ワシは、悪いお兄さんではないのじゃ」
「は、はぁ」
「お嬢さんは、この世界から消えるのじゃろ? ならばワシに、力を貸してくれぬか?」
ちょっと何? 私は、心底怖くなってきた。このお爺さんって一体、何者?
「ワシは、悪いお兄さんではないから心配はいらぬ。サポートもバッチリじゃ」
「何の話ですか? 失礼します!」
くるりと向きを変えて立ち去ろうとすると、急に、足がおかしくなった。歩けない?
「失礼しないでほしいのじゃ。島左近を攻略してくれぬか?」
「はい?」
「うるさい決まりがあってな……扉の間には、ワシは付き添えないのじゃ。受付嬢に何か言われても無視するのじゃぞ? そして必ず、青い扉を開くのじゃ。その先で、ワシは、カッコいいアバターに身を包んで、お奈津ちゃんを待っておるからな!」
青い扉? カッコいいアバター?
何のことかを質問しようとしたけど、もうお爺さんは居なかった。足のしびれも消えている。何だったのかな。
次の瞬間、視界が真っ白になった。えっ? 立ちくらみ? いや、違う。なんだか変な浮遊感も感じる。
私は、その場から一歩も動けなくなった。
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