表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/71

1、関ヶ原古戦場跡での出会い

初めましての皆様、はじめまして。

よろしくお願いします。

 初めて訪れた、関ヶ原古戦場跡。


 もう、この世には未練はない。そう、後悔しかない。死ぬまでに一度は行ってみたかったこの場所に、いま私は立っている。


 意外に、自然が残ってるんだな。


 少しぬかるんだ細い道を歩きながら、私は、昔、この地で起こった大戦に思いを馳せていた。急な坂道を進むと、パッと景色がひらけた。ここは、誰かの陣があった場所のようだ。


 すごく見晴らしがいい。


 大戦の最中、ここに立った武将は、この景色を眺めて何を考えていたのだろう。きっと勝つ、そう信じていたのかな。


 なんだか気持ちいい風。


 だけど、私の決意は変わらなかった。アパートも解約したし、どうしても捨てられなかった僅かな荷物は、実家に送った。ごめんなさいの手紙を添えて。


 この旅の途中で、私は……この世界から消える。




「お嬢さん、お嬢さん、島左近が好きか?」


 突然、背後から声をかけられ、私はビクッとした。死を覚悟しているのに、こんなことで恐怖を感じる……そんな自分が滑稽に思えた。


「お嬢さん、ワシは悪いお兄さんじゃないぞ?」


 真横に並び景色を眺める男性は、どう贔屓目に見ても、お兄さんとは程遠い年齢に見えた。それに、珍しい和服姿だ。近くの農家のお爺さんなのかな。


「えっと、あの……」


「なぬ? 島左近の陣跡にいるのに、島左近を知らぬのか?」


 何も言っていないのに、考えていることを言い当てられて、私は戸惑いを隠せなかった。このお爺さん、何?


「ここが誰の陣跡かは、知らなかったです」


「じゃ、島左近は好きか?」


 お爺さんは、私の顔をしげしげと覗き込み、なんだか落ち着かない様子だった。急いでいるのか、せっかちなのか、左右に身体を揺らしている。


「あまりよく知らないです。石田三成の家臣だったってことくらいしか……」


「ぬぅぅ、では、島左近は嫌いか?」


「いえ、嫌いではないですけど」


 すると、お爺さんは、パァァッと晴れやかな笑顔を浮かべた。ちょっとかわいい無邪気な顔だ。


「なかなか良い奴なのじゃ。きっと気に入る。お嬢さんが、ここにいるのがその証拠じゃ」


「は、はぁ」


 何を言われているのか、全く理解できない。お爺さんの言葉は、まるで、島左近に会ったことがあるみたいに聞こえるけど。


「お嬢さん、名前は?」


「えっ? いや、知らない人にそんな……」


「ふむ、由利ゆり 奈津なつさんか。お奈津ちゃんじゃな」


「な、何も言ってませんけど!?」


「気にするでない。たいしたことではないのじゃ」


 ますます怪しい。私、どこかで個人情報を抜き取られたのかな。まぁ、もう、どうでもいいんだけど。



「ワシは、ちょっと困っておってな」


「あの、私には……」


 新手の詐欺かもしれない。


「ワシは、悪いお兄さんではないのじゃ」


「は、はぁ」


「お嬢さんは、この世界から消えるのじゃろ? ならばワシに、力を貸してくれぬか?」


 ちょっと何? 私は、心底怖くなってきた。このお爺さんって一体、何者?


「ワシは、悪いお兄さんではないから心配はいらぬ。サポートもバッチリじゃ」


「何の話ですか? 失礼します!」


 くるりと向きを変えて立ち去ろうとすると、急に、足がおかしくなった。歩けない?


「失礼しないでほしいのじゃ。島左近を攻略してくれぬか?」


「はい?」


「うるさい決まりがあってな……扉の間には、ワシは付き添えないのじゃ。受付嬢に何か言われても無視するのじゃぞ? そして必ず、青い扉を開くのじゃ。その先で、ワシは、カッコいいアバターに身を包んで、お奈津ちゃんを待っておるからな!」


 青い扉? カッコいいアバター?


 何のことかを質問しようとしたけど、もうお爺さんは居なかった。足のしびれも消えている。何だったのかな。


 次の瞬間、視界が真っ白になった。えっ? 立ちくらみ? いや、違う。なんだか変な浮遊感も感じる。


 私は、その場から一歩も動けなくなった。



毎日更新予定です。

序盤は、複数回投稿する日もあるかもしれません。

ブックマークをして継続して読んでいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ