1 名付け
「着いたぞ」
全能神さんが謎の力で連れてきてくれた場所は奇妙なところだった。
辺り一面真っ白で、壁がなく柱のみのデザイン、正に『神殿』という感じだ。
どうやらこの場所は雲の上にあるらしい。
柱の間からは限りなく広がる雲海と丸裸の二つの太陽が見える。
とても神秘的だ。
「いきなり驚かせてしまったな。俺の力で移動しただけだから心配するな」
そう言って再び頭を撫でてくれた。
「ここは俺の家みたいなところだ。お前もここで過ごすことになる」
そう言うと彼はどこからか椅子を二つとテーブルを取り出して置き、椅子に座った。
「まあ座ってくれ」
お言葉に甘えさせてもらい、その椅子に腰かけた。
雲のように柔らかく、体が沈んでしまいそうだ。
ものの価値をよく知らない僕にでも、この椅子がかなりの値打ちがあることはわかる。
そんなことを考えていると全能神さんは咳込みを一つして、話し出した。
「さて、改めて自己紹介をしよう。俺はこの世界で神をしている"全能神"メルガノスという。どうとでも呼んでくれ」
そういうと彼は軽く頭を下げた。
「で、お前の名前は何だ?」
「あ…実は僕、自分の名前を知らないのです」
生まれてから名前らしきもので呼ばれたことは記憶には一度もない。
「…そうか、では俺が名前をつけよう」
そして彼は数秒考えて、
「よし決めた、お前は『タロス』だ。よろしくな、タロス」
彼がそう言った途端、僕の中の何かが漲るような感覚が僕を襲った。
一体何が起きたのかわからない。
ただ、何だかあたたかかった。
「・・はい!よろしくお願いします!」
こうして、神と暮らす僕の生活が始まった。