07:モテる男のスケジュール
結局、あたしと亜矢と若原っていう異色の組み合わせで行ったカラオケで散々笑い、時間はあっという間に過ぎる。途中、若原がケータイを持って部屋から出て行ったときに亜矢がその背中を見送りながらあたしの隣にくっついて、囁くように言った。
「また女の子だよー、きっと。希くんてマメだよね〜」
あたしがドアの外でケータイを耳に当てている若原をちらりと見ると、横顔が楽しそうに笑ってる。
「一種の才能かもね」
「ホストの?」
呆れたようなあたしの返事に亜矢が悪乗りしてそう答え、二人で顔を見合わせてニヤリと笑う。
亜矢がソファの背もたれにもたれてうーんと伸びをした後、「でもさー」と続けた。
「希くん、カッコいいしマメだからモテるのもわかるよねーえ」
「カッコいいかは置いといて」
すかさず突っ込みを入れると、亜矢が肩を揺らして笑う。
「確かにいっつも女の子と一緒なイメージだね」
「わかるー! 特にA組の内沢さんとかね!」
亜矢がはしゃいで口にした名前はあたしも聞いたことがあった。同じクラスになったことはないけど、若原と付き合ってるんじゃないかって噂のあった人。
……確かに若原と内沢さんはよく一緒にいるのを見かけるけど、結局のとこどうなのかはよくわからない。
「この前は三年の先輩とごはん食べてたし、一年生にもファンが多いみたい」
間口広いなあ、若原。
「ごめんごめーん」
噂の主はパタッとケータイを折りたたみながら戻ってくると、ひょいと上着に手をかけた。
「悪い、オレ、一抜けな」
言いながら財布を尻ポケットから出すと、紙幣を数枚無造作にテーブルに置いた。
「あー、また女の子だなー?」
「まーね、モテるオトコって辛い」
亜矢が横目で睨んでそう言うと、若原はニカッと笑って片手を上げ、「んじゃな、また明日!」と言って出て行った。あっけにとられて見送ってたあたしは、そこでふうっと溜息をつく。
「忙しい人だねー」
「ねー。亮くんでさえなかなかつかまらないってボヤいてたよ」
唐突に亜矢の口から本宮の名前が出て、咄嗟に返事に詰まった。
「そ、う、なんだ」
ぎこちない返事に、亜矢は気づかない。
「うん。『俺、希の中で優先度最下位だから』って言ってた」
「でも、若原って本宮と一番仲いいよね?」
「男子ではね。それより女子の方がはるかに仲良しだって、亮くん呆れてた」
そのときの本宮との会話を思い出したのか、亜矢はくすくすと笑った。