06:日ごろの行い
「あれえ、希くん? どうしたのー?」
ちょっと大きめの紙袋を手に、亜矢が戻ってくるなり若原を見つけた。レジ最中の若原が「お〜」と軽く片手を上げてそれに答える。
小走りにあたしに駆け寄る亜矢の手の紙袋から、赤いリボンがこぼれている。
「決めたの?」
「うん! 可愛い置時計があってね。それにしちゃった〜」
「あーよかった、これでゆっくり出来る」
わざと溜息をついてそう言うと、亜矢はニッコリ極上の笑顔になった。
「あはっ、ありがと結ちゃん、お礼にケーキセットご馳走する!」
「……クロスハウスのね」
「え〜〜、あそこ高いよ〜。でもおいしいよね、クロスのチーズケーキ!」
このあたりで一番人気のあるカフェの名前を挙げると、亜矢は唇を尖らせて抗議したあと、思い出し笑いをふふ、とした。
「亜矢ちゃん、もしかして亮輔の?」
レジを済ませた若原が亜矢の手の紙袋を覗き込んでそう聞いた。
「そう! 来週だもんね、亮くんの誕生日。希くんは? もしかしてひとり?」
亜矢がわざとらしく周囲をキョロキョロと見回す。大概、若原は誰かと一緒だ。それも女の子。学校でも、登下校でも。……しかも、同じ子じゃないのがすごい。
「何その意外そうな顔。たまにはひとりがイイときもあるんだって」
「ふう〜ん……んじゃ結ちゃん、二人でカラオケ行こっ」
亜矢があたしの腕に自分の腕を絡めてそう言うと、若原が「ツメタイ……」とがっくり肩を落とした。
「たまにはひとりがいいんでしょー?」
「んーなつれないこと言わないで、亜矢ちゃーん」
「そーだよね、若原っていつも女の子と一緒だし」
「ちょちょ、紺野ちゃんまで!」
「あたしたちが相手しなくても、いーっぱいいるんだもんねぇ〜」
「うわあオレ、何気に酷い言われよう……」
「残念、若原。日ごろの行いって大事だね」
「ううう、酷い誤解だ……」
泣き真似をする若原を亜矢と二人でクスクス笑って、あたしたちは腕を組んだまま歩き出す。途中でくるりと亜矢が振り返る。
「希くーん、ホントに置いてっちゃうよーお?」