05:ひとりなの?
「す、みません……!」
「あー、ゴメンゴメン、大丈夫?」
聞いたことのある声だ、と思った瞬間、あたしの手から紙袋が滑り落ちる。かしゃーんと床に落ちた音が、妙に大きく聞こえた。
「あっれー、ぐうぜーん。お買物? ひとり?」
落ちた紙袋より先にそうかけられた声の主を見あげた。――わかはらのぞみ。
驚いて咄嗟に返事が出来ずにいると、若原はちょっと笑って肩を竦めて床の紙袋に手を伸ばす――落ちた拍子に止めてたテープが剥がれて、銀色の一部がちらりと見えている。
「あ、ごめんごめん」
若原が拾おうと腰をかがめようとした一瞬前に、あたしはばっと紙袋ごと拾い上げた。
「だ、いじょぶ」
ぎこちなくそう言うと、若原はちょっと驚いたように何度か瞬きをして、「あー、うん」と生返事を寄越す。でもすぐに、「ひとりなの?」っていつもどおりの軽めな口調で聞いてきたけど。
「亜矢の付き添い」
さっき亜矢が消えた方角を指してそう答え、ちょっと溜息をついてみる。若原が振り返って遠目に亜矢を認めると、頷きながらニッコリ笑った。
「そっかそっか、仲良しだねー、二人してさ。オレなんて、淋しくひとりでお買い物」
若原が何かを探すようにしながら店の中をゆっくり歩くのへ、あたしはなんとなく付いて歩く。さっきキーホルダーを見つけた棚で若原は立ち止まり、ひょいと一番下の棚に気づいて覗き込む。
「あー、こんなトコに置いてんだ! オレ、超ラッキ」
言いながら若原は手を伸ばしてそこから銀色のキーホルダーを取り出した。さっき買ったばかりの流線型をしたキーホルダーと同じシリーズ、でも丸みを帯びた優しいフォルムのついたもの。
若原がそれを摘み上げ、あたしに良く見えるように「ほら」と差し出す。
「これさー、前亮輔と来たときに一目惚れしたんだけど、目の前で買われちゃったノヨ。もう入荷しないかもって聞いてたから、ひやひやしたぜ」
嬉しそうに、大事そうにその丸い飾りを手のひらにのせた若原は、ふと気づいたようにもう一度、棚を覗き込んだ。
「あー、もいっこの方は売り切れか〜」
「もう一個?」
「うん。こーゆー形の、綺麗な流れる感じのヤツ。亮輔はそっちのが気に入ってたんだよね。もうねーや」
言いながら、若原の指があの流線型をなぞる。あたしのバッグに今入っている、あのキーホルダー。空に描かれた流線型のさきに、本宮の顔が浮かぶ。
嬉しそうにレジに向かう若原を苦笑で見送って、あたしはバッグにしまった包み紙をもう一度覗き込む。……もしかしたら本宮、喜んでくれるかも?