04:インスピレーション
五月、本宮の誕生日。亜矢に言われる前に知ってたけど、何か出来る筈もなく。
――ただこうして、亜矢の買物に付き合うだけ。
「ねえ結ちゃん、コレどうかなあ?」
「……それはちょっと……本宮には可愛過ぎるんじゃない?」
「えーじゃあ、こっちは?」
「うーん、ちょっと子供っぽいかな?」
亜矢は嬉しそうにあれこれと手にとってその都度訊いてくる。
まあ、そんな風に一生懸命なとこが可愛いとも思うんだけど、でも、もうそろそろ決めて欲しいかなあ。朝から出かけてもうすぐ十五時、回った店は何軒か数える気力も、もうない。
「結ちゃん、あたしちょっとあっち見てくるね!」
返事を返すより先に、亜矢の残り香だけがそこに残る。ふんわりと女の子の香り。亜矢は普段香水使ってないはずなんだけど、何故かいっつもいい香りがするんだよね。シャンプーかなあ…女の子っぽい香り。
ちょっと溜息をついて、改めて店をぐるりと回る。まさかあたしから本宮に何か贈るわけに……いかないよね。そんなわけにいかないのは勿論わかってるけど、つい、本宮に似合いそうなものを探してしまう。
さっきから亜矢が選ぶのは可愛いものばかりだけど、本宮にはなんていうか……もう少しシックなものが似合うと思うんだよね。
眼で店内を探して回ると服屋さんの棚の一番下に小物が並べられているのに惹かれてあたしは立ち止まり、ていねいに眺める。そのなかのひとつ、銀色のキーホルダーに手を伸ばした。
光り過ぎない銀色に、軽過ぎない重み。流れる水の線のようなデザインに埋め込まれているのはたぶん、クリスタルの粒。
きれい、欲しい、ってまず思った。それから次に、ああこれ、本宮のイメージだ、って。落ち着いていてしっかりした、そんな本宮のイメージに似合ってる。
手のひらに載せて重みを確かめながら、迷う。一瞬で買うことは決めたけど――それを誰のためにするのか、まだ決めかねてる。どうしよう。買うのはいいけど、あたし、これ本宮に渡せる?
――ううん、いいや。もし渡せなかったら気に入ったんだもの、自分で使おう。
あたしは銀色のキーホルダーを握り締めて、レジに向かう。亜矢は、まだ戻ってこない。もし亜矢に買うところを見られたら……本宮には、渡せない。
妙にドキドキしながらレジを済ませ、ラッピングはせずに小さな紙袋に入れてもらう。そしてその袋をバッグに滑り込ませようとしたとき……慌てて身体を捻った拍子に、誰かにぶつかった。