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02:彼女の親友

 あたしが本宮と初めて会ったのは、一年の時の委員会。お互いがクラスの文化祭実行委員になったことで知り合い、委員会のたびに顔を合わることになった。

 そしてある委員会で、気の強いあたしが三年生の先輩の理不尽なやり方に反発して険悪なムードにになった中、穏やかながらもきっぱりと本宮は言ったんだ。

「紺野の言い方はともかく、主張は正しいと僕は思いますが……紺野、言い方は考えた方がいい」

 あたしに注意をすることで、先輩の面子を立てながらも筋を通すやり方に、あたしは素直に従うことが出来たのを今でも覚えてる。けど、あたしが本宮に惹かれたのは、そのあとのことも含めてだった。

 その委員会が終わったのはもう日も暮れて下校時間ぎりぎりだった。あたしは本宮の言い分にも一理あると思ってその場で謝りはしたけど、結局翌週に持ち越された話合いに満足がいくはずもなく、ぶすっとした顔のまま学校を出た。

 校門を出たところで突然、闇から「紺野」と呼び止められてびっくりして足を止めた。振り返ると本宮が立っていて――

「今日は、悪かったな」

「別に……いーよ、本宮の言うこと正しいもの」

「来週、うまく行くといいよな」

 不機嫌に答えるあたしとは裏腹に、本宮は笑っていた。

 今日の嫌なことを考えているあたしと、来週うまくいくことを考えてる本宮。

 ああ、もしかして、とそのとき初めて思った。本宮は元々女子に人気があったけど、あたしはその理由を外見だとばっかり思ってた。

 すらりとした長身、短く切られた髪、整った顔立ち――たまに笑うと、あどけなさが残る。本宮は優しい。ただ優しいだけじゃなくて、しっかりと主張も出来る。人の気分を害さずにうまくまとめることが出来る。嫌味じゃないし、それをひけらかすこともしない、どちらかというと遠慮深い方だ。たぶんそういうところが、女子たちにも好かれるんだろう。

 結論から言うと、翌週その先輩の主張に言い負かされはしたものの、文化祭はそれなりに楽しかった。委員会が解散するときはその先輩ににっこり笑って握手を求められたし、そんな風に人間関係をもうまくいったのは本宮が仲裁してくれたからだとあたしは思ってる。

 気になり始めたのは、それから。いつのまにか、目で追っていた。

 クラスが違うから廊下でとか、体育館でとか、それから例えば、弓道場を盗み見たりして。目が合うと本宮はいつも、「お、おはよう」とか「もうすぐテストだなー」とか「気をつけて帰れよ」とか、他愛ない言葉をかけてくれた。

 軽口にも気安く付き合ってくれて、たまには真面目に話をしてみたりして、あたしは、いつのまにか、本宮のことを―――

 亜矢が、サッカー部の先輩と別れたのはその頃だった。

 あたしが知るところの亜矢は、彼氏を欠かしたことがない。亜矢自身が乗り換えることもあれば、別れた噂を聞いた男子にすぐに告白されることもある。

 あたしと亜矢が仲良くなったきっかけのトラブルも実はその辺にあって、聞くところによるとどうやら中学の頃からそれはずっと、らしい。亜矢の家は両親がうまくいってなくて、って言う話は誰かから聞いたことがある。

 そのせいなのかどうか、とにかく亜矢は毎回、付き合っている彼氏にべったりになる。学校の行き帰り、お昼休み、休日。だから皆、亜矢の彼氏が変わったことがすくわかる。時々信じられない早さで変わるときもある。それがあからさま過ぎて女子には不評なのもわからなくはない。

 ただ、亜矢は――どうやら淋しいらしいのだ。あたしにわかるのはそこまでで、それ以上の踏み込んだ話はまだしたことがない。

 でも、あたしにとっての亜矢はいい友達だ。傍から見ている限り、確かに恋愛のサイクルは早いけれど――でも、二股をかけることはないし、都度都度、付き合ってる相手のことを思ってるのもわかる。それが気に入らないというわけじゃない。でも、さすがにあの時はあたしもちょっと絶句した。

「結ちゃん、知ってるかな……弓道部のネ、本宮亮輔くん。ちょっと大人っぽい、優しい人なんだー」

 サッカー部の先輩の次に亜矢の彼氏になったのは他でもなく、本宮だった。

 それを亜矢から聞かされたとき、あたしはうまく笑えていたかどうかわからない。でも、口はきちんといつもどおりの反応を返していた。

「へーえ、今度は随分また……」

 サッカー部の先輩のときは確か、『すっごく明るくって面白いんだよ!』だったかな。

 あたしが濁した言葉を亜矢は敏感に感じ取って、拗ねて頬を膨らませる。

「もう、結ちゃんたら……!」

 そう言いつつも嬉しそうに笑う亜矢はいつもの「恋する亜矢」だった。

 噂じゃ、本宮が結構押したとか聞いた。あたしは自分の思いを押し殺して、「彼女の親友」の立場を貫いている。――たぶん、今も。


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