15:素直さが足らない
足が重い。当然だ、昨日あんな風に亜矢の前から逃げ帰って、あたしは結局逃げてるばっかりだった。
今日亜矢に会って、ちゃんと謝らないと。気持ちはちゃんと言葉にして伝えないと、いけない。はぁ、ともうひとつ溜息をつくともう昇降口だ。
「結ちゃーん、おはよっ!」
いつもどおりの声、いつもどおりの亜矢。ぶんぶんと手を振って駆けてきた亜矢はあたしの隣で靴を履き替える。
「結ちゃん、昨日ごめんね」
おはよう、と返事をする前に亜矢がちょっと低い声でそう言った。咄嗟に亜矢を見ると、ちょっと照れくさそうに笑う。
「あたし、嬉しくって何度も結ちゃんに同じ話してたよね。ホントごめんね」
ぱん、と目の前で両手を合わせると、亜矢はペコリと頭を下げた。
例えばあたしが亜矢に敵わないと思うのはこういうところもだ、と思う。顔のつくりや身体のつくりは仕方ないにしても、亜矢は素直だ。嬉しかったら笑うし、淋しかったらきちんと淋しいと言う。喧嘩しても、自分が悪いと思えばこうやってまっすぐ謝れる子だ。
あたしは――こんな風には言えない。謝ったとしても今の亜矢みたいに会うなりすぐに自分の悪かった点を挙げて頭を下げるなんて、出来ない。
「ううん、いいの。昨日はあたしが悪かった」
やっとでそれだけ言える。亜矢がぱっと頭をあげて、嬉しそうに微笑むのを見て、あたしは勇気を奮い立たせた。
「ごめんね、亜矢」
たった一言のその言葉が、あたしにはとても重くて堅かった。ぎこちなかっただろうとは思うけれど、あたしは真正面から亜矢に謝罪の言葉を告げたのは、もしかしたらこれが初めてだったかもしれない。
「ありがとう結ちゃん! だからあたし、結ちゃん大好き!」
腕を絡めながら満面の笑みを浮かべてそんな台詞をさらりと言うのは、まだ追いつけない。亜矢のことは好きだしいい子だと思ってるけど――そこまで素直な台詞は、あたしにはまだ無理だった。
教室に入っても、亜矢はぱっとかばんだけ自分の席に置くとあたしの傍に駆け寄ってきて「あのね」と耳元で囁く。
「希くんがね、今度皆で遊びに行かないかって」
「皆?」
「うん。希くん、中学の友達を結ちゃんに紹介したいんだって。どうかな?」
「ふうん……」
亜矢の屈託のない聞き方は、亜矢が素直だからだ。もし同じ話を若原から持ち込まれたらあたしは、それってつまり、と若原を追及したくなるだろう。
ホント、お節介なんだから。それにこんな話、亜矢からされたら断る理由が思いつかない。
「まあ、いいけど」
「ホント? やったぁ! ねね、この日とこの日、どっちが都合いい?」
早速手帳を取り出して日付を示す亜矢に、あたしは苦笑しながら自分のスケジュールを思い浮かべた。