表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/40

13:合わない視線

 若原と、目が合わない。声は普通だけど、いつもの楽しげな若原じゃない。

「んで、何?」

「今日、学校来なかったから……」

 若原の様子がいつもと違うことが、があたしの言葉を押しとどめていた。そして――まだ、あたしをまっすぐに見てくれない。

「たいしたことじゃないっしょ、サボるのなんて」

「そー、だけど」

 若原が調理場のほうへ顔を上げると、「モリさーん」とさっきの人を呼んだ。

「店開けとくよー?」

「ほーい」

 『モリさん』の声が奥から聞こえて、若原はそのまま店の入口の鍵を外して外の明かりをつける。その背中へ、あたしは勇気を出して呼びかけた。

「若原、あたし、昨日、言い過ぎた。ごめんね」

 一気に言うと、若原はそのまま入口でかちゃかちゃと何か作業を続けている。あたしに背中を向けたままだ。反応が怖くて、あたしはその背中を見ていられない。

「あの……」

「昨日って何のこと?」

 若原の声が、いつもみたいに軽くそう返ってきた。俯いてたあたしが顔を上げると、若原はくるりと振り返ってあたしの傍を通り抜け、空いたカップを手に調理場へ向かってく。

 目は、合わない。

「昨日、あの…」

「オレ物覚え悪いからさ」

 かちゃかちゃと奥で食器の音がする。会話にはなってるけど、若原の声は軽いけど……なんでだろう、なんだか違う。

「若原、あたし――」

「希」

 カウンターから乗り出すようにして呼んだあたしの声に、後ろから他の女の子の声が重なって、あたしはびっくりして振り返った。

 さっき若原が鍵を開けてた入口から入ったらしいその子は、どこかで見たことがある。たぶん、同じ学校の子。名前は、ええと……

 その子はあたしを見て――いや、正確にはあたしの制服を見てちょっと眼を瞠ったけど、じろりと一瞥だけ寄越すとフイと顔を背けた。

「ハイ、これ」

 いつのまにか若原がカウンターまで出てきていて、その子からなにやら受けとると「サンキュ」と笑った。その笑顔はいつもの若原だったけれど――あたしには、さっきから一度も向けられていない。

 つい二人を見つめていたあたしに、女の子が振り返ってきっと睨んだ。

「帰ったら? そんな格好でこのあたりうろついてて、先生にでも見つかったら困るから――希が」

 最後、若原の名前のところをまるで念を押すようにゆっくりと、はっきりと発音した彼女の口調は明らかに攻撃的だった。

「雪緒」

 若原の低い声が、たしなめるように彼女の名前を呼ぶ。そしてやっとあたしは思い出す。

 そうだ、A組の内沢さん。内沢雪緒。若原とよく一緒にいるよねって、亜矢が言ってた。あたしもそれはそう思ってた。付き合ってるんじゃないかって噂も、あったっけ。

 若原はあたしを見ずに、そのまま奥へ入ってしまう。内沢さんの冷たい視線がまだあたしを見てるのが、わかる。そのままくるりと踵を返してそこから駆け出す以外、あたしには選択肢がなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ