11:夕刻の繁華街
当然、その日の放課後、あたしはカフェバー『シャンテ』に向かった。
繁華街の一本裏手、夜はあまり使わない通りの角の店がそこだった。夕方でまだ暗くなる前だったのもあって、制服姿のあたしでもそんなに目立たない。
本宮が書いてくれた地図は正確で、あたしは迷いもせずに『シャンテ』の看板を見つけた。入口のドアだけで、中は見えない。外の明かりはまだ点いていない。
「……誰もいないのかな」
独り言を呟いて、店の前を通り過ぎる。角を曲がってちょっと立ち止まり、もう一度ゆっくりと店の様子をうかがうけれど、わからない。
「どうしよう……」
勢いで来ちゃったはいいけど、どうしよう。やっぱり着替えてくればよかったかな。店に入って若原のこと聞くにしても……コレじゃ、無理かも。
制服のスカートの裾をつまんでそんなことを考えてると、通りを行く中年男にじろじろ見られてあたしは慌てて角を曲がった先で壁にもたれかかる。はあ、と溜息をつくも中年男は無遠慮にあたしを観察し、そして足を止めると近寄ってきた。
「ねえ、誰か探してるの?」
ニッカリ笑う男に、あたしは「えっ、あ、はい……」と思わず頷く。
「そっかー」
男はそう言ってまたもあたしを頭のてっぺんからつま先までじろじろと見る。逃げ出そう、と思った瞬間、左手をぐいっと掴まれた。
「なにすんのよ……!」
「まあまあ、探してるんでしょ、お相手」
お相手って……ちょっと、何勘違いしてんのよこのオヤジ!
「違う! 離してください!」
「だいじょーぶ、オレの店、けっこ健全よぉー」
「違うったら! 離してよ!」
ずるずる引きずられるように連れて行かれそうになったとき、すぐ傍の扉が開いた。
誰か――!
「……何してンの、女子コーセーに手出しちゃダメでしょーが」
扉から出てきた背の高い男の人があたしとオヤジを見るなり、呆れたように言った。
オヤジがぴたりと足を止め、あたしを掴んでた手から力が抜ける。急いで手を引っ込めると、あたしは二歩あとずさった。
そんなあたしの前に、すいっと男の人が入ってくれる。これで、オヤジが直接あたしに何かすることはない。
「コウダさーん、またもめちゃったらマズいでしょ? ほら、行った行った」
「違うってぇー、オレはさあー、カノジョが誰か探してるって言うから〜」
「ハイハイハイ、未成年に手出したらダメダメ〜」
男の人はオヤジをくるりと回れ右をさせてぽんと背中を押した。オヤジはぶつぶつ言いながらも渋々歩いていく。あたしは男の人の背に隠れながら、ほっと息をついた。