10:不在の理由
翌日、あたしは珍しく寝坊した。……というか、ぜんぜん眠れなかった。朝方うとうとしたような気がしたけど、若原のあの冷たい視線が思い出されてすぐに飛び起きた。
もちろん自分が悪いのは百も承知してる。あんな風な言い方ってない。たとえ相手が若原だからって――ううん、あたし、甘えてたんだと思う。若原ならきっと、『しょーがねーじゃん、聞こえちゃったモンはさ〜』とか、そんな風に軽く受け流してくれるって思ってた。
溜息をついてる間も惜しく、あたしはダッシュで学校へ向かう。あーんもう、出来るなら朝イチで若原に謝ろうと思ったのに!
後悔しながら教室に着くと本鈴ぎりぎりで、亜矢に口パクで『おはよう』というのが精一杯だった。ちらっと見ると――若原が、いない?
一時限目が終わるのをじりじりしながら待った。チャイムと同時にあたしは立ち上がってずんずんと本宮の席に向かう。もちろん亜矢もすぐに寄ってきて、「結ちゃんおはよう〜」とにこやかに言った。
「おはよ、本宮」
「遅かったな、紺野。寝坊した?」
ニコニコしている本宮の笑顔にちょっとどきりとしたけど、今はそれよりも。
「若原、休み?」
唐突なあたしの質問にも、本宮は落ち着いて若原の席を振り向くと、「さあ」と言った。
「聞いてないんだ。連絡もなかったみたいだし」
「サボリかな?」
亜矢がいたずらっぽい笑顔でそう付け足した。確かに、時々若原は学校を休むけど――でも、昨日の今日、だもんね……
「またバイトがキツくてサボりかも。どうかしたのか?」
本宮がぽろりと零したそれを、あたしは鸚鵡返しに問う。
「バイト?」
「ああ、夜ね。見つかるとやばいから辞めろって言ったんだけど」
本宮がちらっと周囲に目をやったのは、先生の耳に入るとまずいから。バイトそのものは禁止されていないはずだけど、学校に来ないとなれば問題になる。当然、深夜は法律的にもNGだし。
「人がいないと閉店までいなきゃいけないみたいで」
「ああー、だから希くん、時々おっきな欠伸してるよね!」
確かに、亜矢の言うとおり。授業中寝てる人も少なくないけど、若原は突然一限サボったりしてる。一度、『何してるのよ、サボって』と呆れて聞いたら『睡眠学習』とか言ってたっけ。
「バイト先、知ってる?」
あたしがそう訊ねると、本宮は軽く頷いてノートの最後のページに地図と、店の名前を書いてくれた。