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009.王族様




 僕はまさか自分が巨大虎型モンスターを倒せてしまうなんて思っていてなかった。

「どうしよう」

 こんなに自分が強いとはな。

 でも、そんなことよりも美少女をどうにかしなければ。

 そして僕は少女のもとへ駆け寄る。

「大丈夫?」

 おしっこを漏らしているようだから大丈夫ではないのだろう。白いワンピースが地味に濡れている。

「あ、貴方は何物?」

 何物と言われましてもね……。

 人間ですなんて答えたらウザいと思われるだろうし、転生者ですなんて言ったら信じてもらえないだろう。

「ここから少し近くにある村の住民です」

 これが一番的確な答えだと思う。

 何一つ嘘はついていないしウザい要素がない。

「村人? いや、そんなはずありません! 王都のエリート育成施設の出身などではないのですか?」

 なんじゃ、そのエリート育成施設とやらは。格好良すぎではないか?

 そんな施設の存在は初めて知ったし、めちゃくちゃ憧れるんですけど。

「そう言われてもね。それに僕ってそんな強いの?」

「あのモンスターの危険レベルはBクラス。王都の兵士が十人掛かりでも倒せるか倒せないかのレベルですよ!」

「ま、マジ?」

 そこまで強いのは知らんかったわ。

 だから森のモンスターが少なくて、スライムが逃げ回っていたのね。

「それに私と同い年くらいでその力……全く説明がつきません。どのようなスキルをお持ちで?」

「えっ? 身体強化スキルだけど……」

「……それと?」

 それと? ってそれしかないのだが。

「それだけです」

「そうですよね。そう簡単に教えてくださるほど甘くはないと」

 いやいやいや、本当にこれだけなんですって。

 なに、僕が誰も知らないようなスキルを持っていてそれを秘密にしている的な感じで納得されているのでしょうか。

 誰もが知っている超有名スキル『身体強化』ですよ。

「教えてくださらないのなら、これを」

 そう言って少女は胸元をさらけ出そうとする。

 おい、急に何をやっているんだ! その歳で身体を武器にして情報を得ようなんて……まあ、ありかな。

「これで分かりましたわよね?」

 乳首までさらけ出すことはなかったが、まだ谷間もできていない胸元の中心から肩にかけてキラキラとした白銀と黄金が混じったよな色のアザがあった。

「あっ、あれね……うん知ってるよ、常識だもんね。最近これを知らないのは人類としてどうかしてると思っていたくらいだよ」

「ならば、ねっ?」

 人類としてどうかしている僕には分からないです。

 なんなんですか、これは。

 王都で流行しているファッションかなにか? いや、絶対に違うな。

「凄いねそれ、似合ってると思うよ」

 現に似合っているし、分からないのだから話の進めようがない。

 ここは正直に「分からない」というべきだろうか。それだと人類としてどうかしている男と思われるだろう。せっかく助けて、僕へのイメージが最高潮の状態なのに台無しだ。

「ま、まさか知らないなんてこと……」

「あるわけがない。たまたま思い出せないだけです」

「思い出せないのも問題だと思いますが……」

「そ、そうなの?」

「やっぱり分からないんじゃないですか!」

 嘘がバレた。

 馬鹿が見栄を張ろうとするとロクなことがない。

「そんなに凄いの、それ?」

 王都から距離のある村に住んでいる僕にとっては、王都の常識なんて通用しないからな。たぶん村のやつらも知らないだろうに。

「これは王家の血を継ぐ者に刻まれる紋章。要するに私は王家の人間です」

「……」

 驚きすぎて言葉がでない。

 凄い人なのは確かだったが、凄すぎはしないかい?

「命の恩人ですので無理にとは言いませんが」

 確か王家の人間は色々な特殊スキルを持っていて、逆らうと天罰が下るやらなんやらで絶対に無礼があってはいけないらしい。

 無礼とはいっても色々と遅いし、敬語の使い方とか知らんのですけど。

「本当に身体強化スキルだけなんですよ」

 嘘偽りがないのだから何も問題ない。

 逆にこれ以外に何を言えば正解なのだろうか。

「王家の人間だと分かっても口は裂けられないと」

「嘘は言っていませんからね。それに失禁した姿で王家の人間と言われてもねー」

「なっ!? これは違います! グラルタイガーの唾液がかかったんですよ!」

「はいはい」

「その顔は信じていませんね! それにその態度、無礼です!」

「そっちも命の恩人に対して無礼だな」

 もう無礼を重ねすぎたし、普通でいよう。

 もしも天罰が下るなら受けてたとうではないか。

「ん…………本当に身体強化スキルだけなんですね?」

「そうだ」

 そう言って少女は考え込む。

 これで王都まで連行されて死刑なんてことには……なりかねない。

「いいでしょう、信じます」

「マジで!?」

「で・す・が! 貴方もこれがグラルタイガーの唾液だと信じますね!」

「そんなサラサラしてるかな?」

「王国最強の騎士の方に死刑執行を頼んでもよろしいのですよ?」

「すいません。グラルタイガーの唾液はサラサラしているんですよね、常識です」

 さすがに死にたくはないので信じることにしよう。

 あっ、そういえばこの子の名前聞いてなかったな。

「君の名前なんて言うの?」

「私の名前も知らないのですか?」

「知らん」

 少女は呆れた顔をする。

 僕がこの子のことを知らないのに名前を知っているわけがない。

「私の名前はレイア。私も教えたのですから貴方もどうぞ」

「僕はディラン、七歳だ。レイアは?」

「呼び捨て? まあいいでしょう。ディランと同い年です」

 王族だからさん付けなのかと思ったが、僕への対抗心からか呼び捨てらしい。

 でもレイラって口悪いもんな。

「これからどうするんですか?」

「危険を伝えるため鳩は飛ばしてあります。明日には騎士団が駆けつけるはずです」

「そうか、ならよかったな。王族様にはこんな機会二度とないだろうから野宿楽しめよ!」

 そう言い残して立ち去ろうとする。

 すると何故か腕を掴まれた。

「私を一人にする気?」

「そうだけど」

「それじゃあ助けた意味がなくなりますよ?」

「ここら辺はモンスターが弱いから、特殊スキルをお持ちであろうレイラ様にとっては自室同然だと思うけどな」

「そうかもしれませんが、またあのようなモンスターが現れるかもしれません」

 これは絶対に逃がしてくれなさそうな展開だ。

「でも僕は家に帰らないと親に怒られるんだよ」

「そんなの私と一緒にいたと言えばいいでしょ」

「レイラと一緒にいたなんて言えるわけないだろ! 絶対に信じないって」

「それでも私は一人にはなりたくありません!」

「なら良いアイデアを考えてくれよ」

 僕みたいな馬鹿はこの状況を打破する方法を考えられない。

 だったら王族で多少は頭がいいであろうレイラに考えさせるのが一番だと思った。

 そしてレイラは犬が自分の尻尾を追いかけるようにクルクル回りながら必死にアイデアをひねり出そうとする。

「なら貴方はご両親に「野宿がしたい」と言いなさい」

「却下されそうだな」

「ここら辺に村は一つしかない。ディランはそこに住んでいるのよね?」

「そうだよ」

「でしたら周りの森はモンスターが現れないし、村の周辺で犯罪者が出没したこともない。それならばご両親も許可を出してもらえるのではないですか?」

「まあ……僕ならいけるかもしれない」

 あんな雨の中でもトレーニングに行くくらいだ。

 野宿ごときで許可がもらえない可能性は低い。

「そうしよう」

「でも往復するのに時間が掛かるわよね?」

「それなら心配ない。往復三十分程度だろうから。あっ、でも崖とか登らないといけないし、交渉の時間もあるだろうから一時間は掛かるかも」

「そんなに早く!? そんなスピードを持つ人物を耳にしたことすらありません」

「耳にするより先に見ちゃったな」

「そうですね。では一時間あるのならば私は兵士を成仏させます」

 成仏ってなんやねん!?

 これも王族の特殊スキルか何かなのだろうか。興味があるし、見たい。

「行かないのですか? もうすぐ日が暮れてしまいますよ」

「あっ、そうだな」

 そして僕は全力で走り出す。

「スタートダッシュでこの暴風…………おそらく王国で一番かもしれません」




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