006.極めるための説得
「なあディラン。お前もそろそろ他のスキルを習得したらどうだ?」
「ん?」
「そうよ。スキルポイントが良い感じに貯まったころなんじゃないかしら? それに毎日頑張っているようだしね」
おお、ヤバい。一番来てほしくなかった瞬間がやってきたぞい。
まあ適当に切り抜けるしかないか。
「そうだ、俺様なんて十個もスキルを習得したからなー」
何故か高笑いをする兄。
野獣みたいな容姿だから似合っている。
「さすがだな。お前は父さんの誇りだ」
野獣通し通じ合うものがあるのだろう。
そんな二人を見てママも苦笑い。
「ディラン。次は何を習得したいんだ?」
「いや……まだいいかなって」
「「はあ?」」
父親と兄がハモる。
兄も驚く必要はないだろう。
そんなにスキルを習得しなのはおかしいことなのだろうか?
「なんでスキルを習得しないんだ」
「バカだから以外にないでしょ」
何言われてもいつも通りだから気にしないけど。
ムカつく。
「まだ習得できるスキル弱いのばかりだし、どうせなら強いスキルをガツンと手にしたいから、かな?」
何故か最後が疑問形になってしまった。
「まあ確かにその方がいいかもしれないわね」
おおママは納得してくれたようだ。
しかし他の二人は違うらしい。
「だがな、早めにスキルを獲得したほうがレベルが上がる。早いうちから色んなスキルを習得してレベルを上げたほうが強くなれるぞ。ちなみにオレもそうだった」
「そうだ。お父さんの言う通りだ。無能は無能らしくお父さんの言うことを聞いていろ!」
まあ、だろうとは思っていたよ。
これでママの考えが揺らがないことを祈るばかりなのだが……。
「でも人それぞれスタイルがあるわ。試してみる価値があるんじゃないかしら」
「いや、でもだな――」
「なにか反論でも?」
久しぶりにママの殺気が父親に向かって発動する。
もしかしたら殺気スキルみたいなのがあるのか?
「でもお父さん。身体強化スキルをずっと極めるのって無意味でしょ」
「まあな。所詮はサブスキルだからな。やっぱり他のスキルも得といたほうがいいだろう」
どんだけ自分の意見曲げたくないんだ? まあ僕もそうだけど。
でも、この世界に正しい方法なんて無いだろうに。
「まあ、子供がやりたいと言っているんですから」
「しかし息子である以上強くなってほしいだろ?」
「そうですけど、ディランは努力家です。なにせ雨の日でも山に行って修行してくるくらいですからね?」
おお、今度は僕に向けた殺気が飛んでくる。
僕が雨の日にトレーニングに行って帰ると、ママはいつも怒るというよりも叱るほうだから毎日殺気を飛ばされてたけど。
でも、この習慣はすでに切れないくらい強固なものになった。もう時すでに遅しだ。
「もしかしら身体強化スキルの新たな可能性を見つけ出すかもしれません」
「お前も頑固だな」
「あなた程ではないわよ」
これは納得したということでいいんだろうな。
それなら僕の執行猶予期間は延長されたということになるのか。
いや~、よかったよかった。これでママの助けがなかった家を追い出されるかもしれなかったからな。
◇◇◇
そうして僕は今まで以上にトレーニングをするようになった。
「強くなって、誰にも文句を言われないくらいの次元まで到達してやる」
しかし、この頃の僕はすでに前世でオリンピック全競技金メダルを獲得できてしまうほどの身体能力を手に入れていた。
だけども全然成長しきった感覚はない。トレーニングをすればするほど身体の底からまだまだ深い成長の可能性が沸き上がってくる。
「本当にどこまで成長するんだろうな」
めちゃくちゃ興味がある。
下手したら世界一強くなれるんじゃないか?
そしたら絶対文句も言われないな。
でも、それから半年が経った頃の僕は伸び悩んでいた。
「全然ゲージが上がらない」
かなり成長具合が遅くなっていた。
いつもならトレーニングの負荷を上げるのだが……。
「これ以上やったらなー」
今の僕は森の深いところにいるのだが、周りあった木は無くなっている。
そして僕が腕立て伏せをすると、その振動が村まで伝わり地震が頻発しているとのことらしい。
「場所を変えるしかないか」
こんなパワーを手に入れてしまったんだ。こんな場所でずっと使い続けるわけにはいかない。
新たなトレーニングステージが必要だ。
「でも、どこにすっかな」
モンスターがいるところに行きたいのだが、そこにはかなり強めのモンスターが出没することがあるらしい。
前世では異次元の強さだろうが、今の世界で地震を起こすなんて普通のことだろう。だって魔法があるんだよ?
「でも弱いモンスターもいるらしいからな」
それを絶滅させるほど狩りつくせば強いモンスターも狩れるかもしれない。
そうだよ。僕の目的はさらに強くなることだ。強いモンスターを恐れてどうする?
そうとなったら行くしかないな。
「でも親に伝えといた方が……」
いや、面倒なだけだからいいや。