005.スキルトレーニング
「あー、身体が痛い。死ぬー」
朝、僕はベットの上で身体をゆっくりと伸ばし、筋肉をほぐしていた。
昨日、色々とチェックしたのは良いが、頑張りすぎて死ぬほどつらい筋肉痛状態だ。
「もう少しセーブしたほうが良かったな」
なんかせっかく人生をやり直せるんだから妥協できない、なんて思いながら頑張ってたら限界を超えちゃったらしい。
「でもスキルレベル1つ上がったし、まあいいか」
そうスキルレベルが上がったのである。
スキルレベルが1つ上がった報酬としてスキルツリー機能がアンロックされた。
これは身体強化スキルを高めるミニスキルみたいなもの。
その中には《ヒーリング・マイセルフ》という自分自身を自動回復するスキルがあった。
自分で自分を癒せるんだったら、こんな風に筋肉痛で悩むこともないよね?
これは是非とも獲得したいものだが、スキルのレベルを10まで上げなければいけないらしい。
ちなみにスキルレベルの上限は判明していない。
最高記録として『剣士』のスキルを持っていた人が425くらいまで上げたらしい。
スキルレベルの上がり具合は、そのスキルのランクによって決まるから高いランクのスキルほど上がりにくくなっている。
僕の身体強化スキルは最底辺のランクだから最高に上がりやすいということ。
「ある意味、最高だよな」
上がりやすいなら、僕が目標とする『極める』という次元まで早く上がってくれるということになる。
できるだけ早く目標を達成して、自信を持ちたいところだ。
「さて、今日から本格的にトレーニング開始だ!」
僕はベットから降りパジャマから洋服に着替えて、朝食を食べる。
この世界の飯も大して前世と変わらない。唯一の違いは和食が出てこないことかな。まあ、前世でグルメだったわけじゃないから、前世には無かった食事が出てても分からないけど。
「じゃあ行ってきます!」
「気負付けてね!」
僕は勢いよく家を飛び出し、森に向かって全力ダッシュ。
筋肉痛だからって無理せず動かさないより、無理して動かしたほうが痛みって薄れていくような感じがする。
「でも痛いよな」
でも極めるために代償は付きものだ。
しばらくすると僕は森に到着する。
「よしっ、やるか!」
僕は前日に考えたメニュー通りに進める。
まずは腕立て伏せ。これは攻撃力を上げてくれるらしい。正直言って僕は攻撃力が一番欲しい、だから回数は多めにしている。
次に上体起こし。これは防御力を上げてくれるようだ。まあ防御力も必要だが、上体起こしは少し苦手で腕立てより回数は少なくした。
そしてスクワット。これはスピードを上げてくれる。この中では一番やりやすい項目だから一番回数は多めだ。
僕はこの3つの項目を身体強化スキルを発動した状態で淡々とこなす。
「よしっ……良い感じに上がってる」
スキルゲージを見ると良い具合に上がっていた。
おそらく筋肉が慣れたりすると上がりにくくなるだろうか、毎日数回ずつは増やしていった方がいいだろう。
「でも、まだ終わりじゃないんだよな……」
三歳児の身体だとすぐに疲れる。
でも、これだけのメニューだといまいちなのだ。
「走るか」
最後の項目、体力を上げるために走る。
体力は他の筋トレたちでも上がることには上がる。でもランニングをしたほうが上がり具合が良かった。
まあ、いくら強くても体力がなくて即行ばてたら格好悪いもんな。
「つらたん」
ランニングって昔から苦手だったんだよな。中学の時のマラソンなんてビリから数えたほうがいいくらいの順位だったし。
「でも前世は前世だ」
ランニングを毎日続ければこれが当たり前になるだろう。
もはや呼吸をするかのようにトレーニングをするようになるかもしれない。
もしかしたら麻薬レベルの依存度まで到達できるかも。
「そう考えると継続って恐ろしいな」
でも良い習慣なら問題ないだろう。
むしろトレーニングがしたくて禁断症状が出る自分とか想像するだけでワクワクする。
「こりゃあ面白くなりそうだ」
なんか自分の人生の中で一番トレーニングを楽しんでいる感じがする。
◇◇◇
あれから四年以上経ったかな。毎日雨が降っても親の目を盗んでトレーニングをしていた。
最近はトレーニングをしないと不安になって発狂するようになり、目標通りこの次元まで到達できた。
普通こんな僕のような人間がここまでならないだろう。
こうなったのはミニスキルのおかげだ。
僕がトレーニングを始めて丁度三年が月日が経った時、突然スキルツリーからのメッセージが届いた。
『トレーニング・ホリックを獲得しました』
最初はなんだこれって感じだったけど、効果を見て理解した。
簡単に言うとトレーニング依存症状態になれるミニスキルらしい。
どうやら三年間全てを身体強化スキルに費やしたことによってアンロックされたようだ。
ついでにもう一つの条件があって『毎日行うこと』だったらしい。
まあ、継続すると何かしらいいことはあるだろうと思っていたが依存症状態になるなんてね。
「よしっ、今日も土砂降りだけど頑張りますかね」
そして僕は大雨の中を走り抜けるのだった。