002.異世界転生とスキル
「うっ……んー……」
何時間寝ていたか分からないが、僕は目覚めた。
何故かいつもよりベットの寝心地が悪かったので身体が痛く、僕は垂直に伸びをする。
全身に日差しが当たっている。こんなのは何年ぶりだろうか。やっぱり日が当たるほうのが気持ちが安らぐなー。
ん? ということは朝なのか?
僕が寝たのは夕方なんだけど……めちゃくちゃ寝とるやん!
しかし寝たというのに頭痛が痛い――じゃなくて頭が痛い。やばい心の中じゃなかったら恥ずかしくて赤面してたわ。
もしかしたら寝すぎて悪化したかもしれない。
全く。人生どん底だというのに気楽なもんですよ。
ん? でも待てよ。
僕ってカーテン閉めっきりにする人種だよな。どうして日が当たってんの?
それに木造? いやいや違うでしょ僕の部屋。
それに僕の本棚もゲーミングPCも無いぞい。
あと何これ、ベットの周りが木製の柵で囲まれているんだが?
「あっ……」
僕は自分の身体を見て状況を悟る。
いや……現に視界には移っていたんだよ。でも見ないふりをしていた。
だってさ――
「あっ、赤ちゃん……!?」
キュートでラブリーでチャーミングな赤ん坊ですぜ。
うん、僕の下半身可愛い――って待て待て! 夢ではない。たぶん。
だってここまで鮮明な夢は一度もないし、五感もはっきりしている。
なんか僕、異世界転生したラノベ主人公と似たようなことを言っている気がするな。
てか、この展開が異世界転生モノだよね。
という、ことは?
「勝った――」
自分でもあまりに自然と発せられた言葉なので一瞬、自分でも何を言ってるんだ? みたいな感じになったのが、おそらく人生に勝ったということだろう。
でも異世界と決まったわけではない。もしかしたら同じ世界の違う国に生まれただけかもしれないからな。
家の構造は西洋風だから日本ではないのだろう。
でもな――
「月って三つもなかったよなー」
馬鹿でも、そこら辺は理解できるからね。
そうなると、ここは異世界だということが確定した。
「来たな、これ……」
また何を言っているのか一瞬分からなかったが、おそらくチャンスが巡って来たということだろう。
もしかしたら神様がチャンスをくれたのかもしれない。
異世界モノによくある神様との会話シーンはなかったが、異世界転生って神様以外に誰がやってくれるんだろうか?
もしかして自然現象?
いやいや、人生に悩んでいてこの展開だぞ。偶然ではなくて必然のはずだ。
うーん、考えても100%答えはでないな。だけど何かしらの存在が僕にチャンスを与えたのは確かだろう。
そう、チャンスが巡って来たのは確かなのだ。
僕は人生をやり直すことができる。
それも、前とは違った世界で。
異世界といえば、戦闘だ。
どうも僕は頭脳系が苦手だし、頭脳系ってアイデアとか出したり運とか必要じゃん?
それならパワーで考えなしに道を切り開いていくほうが僕に向いている気がする。
そう、僕は圧倒的なパワーで勝ち進むスタイルが好き。
前の世界だと頭の良いやつが勝つのが当たり前だったもんな。
それに、僕には前世での大きな失敗経験があるんだ。
人生は失敗した方がいい、とか誰かが言ってたけど本当だな。失敗してなきゃ気づかなかったよ。
今回こそはしっかりしなくては。
そうだ。同じ失敗を繰り返すなんてこと、絶対にしてはならない。
今回は一切妥協はしないからな。
寝る前に決心したように、心が揺らいでも一つのことをやり続けよう。
例え、しょぼいことであってもだ。
僕は継続力がないんじゃないくて、色々なことを手に入れようとしすぎていたのが問題だったんじゃないか? という一つの仮説が僕の中にあった。
これだけは誓おう。
僕は、この世界では一つの才能しか手にしない。
そして、それを極める。
一つの才能だけでも極めれば無敵の武器になるだろうしな。
でも今、色々と考えても意味がない。
だって――
「ばぶー」
赤ん坊の状態で何をすればいいねん!
◇◇◇
あれから約三年後。
僕は三歳になった。
まあ色々と苦労をしたよ。だって自分が赤ん坊の頃なんて覚えていないんだから自分の想像で行動しなきゃいけないだよ?
前世であまり泣いてなかったからどうやって泣けばいいのか分からないしさ。でも色々と大変だったけど、なんとか乗り越えることができた。
それと、言語取得が大変だったな。
まあ文法は日本語と同じ。でも単語だけが古代文字みたいな感じで意味不明だったから単語を頑張って覚えた。
でも一番つらかったのは、高校生活と同じくらいの期間を赤ん坊として過ごさないといけなかったことだな。
さすがに精神年齢も小学生レベルまで到達していただろうから赤ん坊はキツイ。
あと、夢ではないことは確かだと証明できる。だって三年近くもこの世界にいるし、この世界でも寝ていて夢も見るだよ。
これで夢なんてことはないだろう。
「まあ、どうでもいい報告だろうけどね」
そんなことは一旦置いておいて、この世界についての話だ。
僕は言語を習得するついでに、色々とこの世界について知るため本を読んだが、この世界には魔法は存在するらしい。
だけど魔法よりも『スキル』というもののほうが重要だそうだ。
魔法系のスキルを習得すれば魔法が使えるとのこと。もちろん魔法以外のスキルも沢山あり、条件をクリアすれば習得することができるらしい。
スキルも色々とランク付けとかされており、S級スキルが一番価値があり、初級スキルが一番価値がない。その間がA~Dまである。
だからこの世界は、どれだけ多く、そしてどれだけランクの高いスキルを持っているかが勝負らしい。
ちなみにこの世界のざっくりした僕の解釈的には、戦闘能力があれば勝ち組という世界。
でも運の要素がそれなりにあったりする。
世界にはS級スキルを簡単に習得できる存在――うーと、そうだな……前世で言う『天才』のような者がいるらしい。
それに僕の三つ上の兄――ディーブは、『スキルポイント』というスキルを習得するのに必要なものを凡人より多く貰えるスキルが生まれつき備わっている。
これはかなりチート級だろう。
スキルの量や質がものを言う世界なのだから、スキルが多く手に入るのはかなり反則級。
ちなみに僕は特別なものは何もなかった。
まあスキルの存在がある世界に転生したのだから何かしら特別なスキルを持っているかもしれない、と期待したのだが……異世界転生できただけでも感謝しろということなのだろう。
だから父親はかなり兄に期待をしているし、甘やかしている。
そのおかげ兄の僕に対する扱いがひどく、色々と大変なのだがな……まあ仕方ない。異世界転生した副作用と考えるべきか。
でも今はそんなことよりも大切なことがある。
僕は今日という日を身体が疼くほど待ちわびていた。
今日は僕の人生の中で最も重要な日であることは確かだろう。
「よし、ディラン。今日はスキル習得の日だぞ」