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くっころ女騎士さんが鬱で死にそう。  作者: 呑竜
「第三章:女騎士さんジャス〇行こうよ」
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「女騎士さんには意外と向いている」

こんな風に、しばらくは旅館業プラス厄介なお客的な感じで続いていきます(*´ω`*)

 ~~~タカミチ~~~




 翌日の昼に、初めてのお客さんがやって来た。


 僕がフロント対応をするのに、メディも一緒になってついて来た。

 来なくていいよと言ったのだけど、是非行きたいと言って譲らなかった。


 あんな飲み会のあとで大丈夫なのだろうかと思ったけど、足取りはしっかりしてる。

 背筋はぴんと伸びているし、顔色もいい。

 何より目にやる気が満ちている。

 

 せっかくの気持ちを無下むげにしたくもないので、けっきょくは僕が折れた。

「陽だまりの樹」のロゴを背中に白く染め抜いた藍染あいぞ半纏はんてんを着て、一緒に並んで出迎えた。


 東京から来た山根さん一家は、ご夫婦と喘息ぜんそく持ちの七歳の息子さんがひとりという構成だった。

 一週間の滞在予定で、息子さん──翔太くんの負担にならない田舎暮らしを模索しているそうだ。

 ご夫婦共に東京の生まれで、そういった不安の解消も目的としているらしい。


「わかる、わかるぞ。形は違えど、異邦での暮らしには不安や恐れがつきものだからな……」


 異世界から東京へ来た自分と重ね合わせるところがあったのだろう。

 メディは山根さん一家に心をこめて接した。

 よく話を聞き、深く同調した。それだけにとどまらず、畑作業や渓流歩けいりゅうあるきにまで同行した。ご飯の席を共にすることもあった。


 明らかに業務を逸脱した行為であり、管理者としては止めるべきなのだろう。

 だが、僕は止めなかった。

 山根さん一家の不安を解消することは、一家はもちろんメディにとっても大いに意味のあることだと思ったからだ。


 管理責任を問われるならばとるだけだ。

 その時はまた、メディと一緒にどこかに旅に出ればいい。


 そして一週間の期間が過ぎた。

 山根さん一家は心の底から田舎暮らしを満喫してくれた……だけではない。

 上代かみしろにほど近い住居の購入を、「陽だまりの樹」の協力企業と相談して決めることにしたそうだ。


 望外ぼうがいの大成功に、皆はどっと沸いた。


「陽だまりの樹」はガチガチの営利企業ではないけれど、成果を出すことにまったく意味がないというわけではない。

 不動産や建築関係からの協力が厚くなるのは間違いないし、それは長期的には確実なプラスとなって返ってくる。


「よくやったな。偉いぞ、メディ」


 僕が褒めると、メディはくすぐったそうに微笑んだ。

 去り際に翔太くんが贈ってくれた朱色のヤマツツジを髪に差しながら、初夏の風が吹きゆく空を仰いだ。





 次の週も、その次の週もお客はやって来たが、メディの接客はおおむね良い評価を得られていた。

 花を贈られるなんてことはさすがにないものの、帰り際に提出してくれるようお願いしているアンケート用紙には、田舎暮らしの感想にプラスして、必ずメディへの感謝の気持ちが記されていた。


「……なんでだべ。接客自体はあんなボロボロなのに……。ほら、また噛んだ」


 アンケート用紙と接客するメディを交互に見ながら、信じられないといったようにノッコ。


「ウチって、通常の旅館業とはちょっと違うからね。それほど完璧な接客を求められてないというか、お客さんに自主性があるでしょ。だからしくじり(・ ・ ・ ・)も含めてメディさんの個性だと認めてくれてるんだよ。ほら、メイドカフェのドジっ子店員枠みたいな?」


「……メイドカフェなんて、キッコは行ったことあんのげ?」

 

「え? うん? いやいやいや、そういうわけじゃなくてね? ほら、たとえばの話ね? たとえばの話」


 ノッコの質問に、なぜかキッコは慌てた。


「そういやあんた、漫画書いてるとか言ってたけど、それってまさかそういう感じの……」


「はああーっ? うんん? はああああーっ? ノッコはいったい何を言ってるのかなーっ?」


 よくわからないことで盛り上がっているふたりはさておき、僕は少し違う考えを持っていた。


 メディが受け入れられているのはたしかに業態のおかげでもあるけれど、最も大きいのは心持ちの部分だと思う。

 誠心誠意接遇(せつぐう)しようという熱意が伝わるので、相手はそれ以外の多くのマイナスをお目こぼししてくれているのだ。


「……これは案外、天職だったりするのかもな」


 騎士とは180度違う仕事だけど、ひょっとしたらひょっとするのかもしれない。


「このまま仕事に慣れて、いくつもの成果をもたらして、それが自信に繋がって……。一気に鬱解消……となったらいいなあ……」


 そんな風に願っていた矢先に、その事件は起きた。

 なんと、メディが誘拐されたのだ。



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