「魔王の娘が可愛すぎる件」
いつもお読みいただきありがとうございます(*´ω`*)
エンディングまであと2話でございます。
~~~タカミチ~~~
「ふうー……さすがに疲れたな」
警察への事情説明や、マスコミへの取材対応。
同時並行で始まった村人たちの宴会の進行。
一通り終わってひと息ついた頃には、すでに深夜になっていた。
ノッコとキッコはまだ宴会場の後片付けをしていて、食堂には僕とメディとラフィーニャの三人だけがいた。
「いやまったくだ。けーさつもますこみも、あんなにしつこい組織だとは思わなかったぞ……」
『ヒグマを倒せるブロンド美人』として一躍脚光を浴びることとなったメディは、もうぐったりといった様子で、食堂のテーブルに突っ伏している。
「にしてもメディはすごい人気だったな。明日も朝から取材が入ってるし……こりゃホントにアイドルみたいになっちゃうかもなあ。どうする? そのうちステージに上がって歌でも歌うようになっちゃったら」
「……冗談でもやめてくれ」
僕の軽口に、しかしメディはぶるぶると恐れるように身を震わせた。
「知っているぞ? アイドルになった女騎士の末路を。訓練で培った頑健な肉体や実践で鍛え上げられた勘でもって一気にトップアイドルへの階段を駆け上がっていくのだが、ライバル事務所の社長の卑劣な罠に掛かってジュースと称した睡眠薬を飲まされ拉致されるのだ。気がついた時にはやたらと露出の多いはしたない衣装に着替えさせられていて、さらに闇の競売にかけられているのだ。落札者は女騎士のファンだった中年男で、今まで貯めていたドス黒い欲望を晴らそうと大金をつぎ込んで……」
「はいストーップ」
「くぉおおおっ? ひさしぶりの感覚がーっ?」
せっかく治りかけてる鬱が悪化したら大変だ。
僕はメディの頭をぐぅりぐぅりと撫で回してくっころモードを無理やり止めた。
「ごめんよメディ、僕が浅はかだった。体調不良ってことでなるべく断る方向でいくからさ。今のは無かったことにしてくれ」
「わかった……わかったが……うう……っ」
ラフィーニャの前で撫で回されたことが恥ずかしかったのだろう、メディが顔を真っ赤にして呻いている。
「……ふん。はしたない奴め」
「なっ……貴様今なんと言った!? その口でいったい、誰を貶したつもりだ!?」
ラフィーニャの一言に、ガタンと血相を変えて立ち上がるメディ。
「骨の髄まで淫乱メス豚だなこのくっころ女騎士めと言ったのだ」
「≧○%&¥@¥§*¢◎▽★ー!? §★~◇&£¢≦!?」
あまりの暴言に、顔色がとんでもないことになるメディ。
口をパクパクさせて盛んに何かを言っているのだが、興奮しすぎて何を言っているのかわからない。
「落ち着け! 落ち着けメディ!」
「ううーっ! ううーっ! ううううーっ!?」
「ベロベロベーだ」
「ううううううーっ!?」
「ラフィーニャ!」
声を上げて叱ると、舌を出してメディをからかっていたラフィーニャはぷいとそっぽを向いた。
「もうメディに突っかかるのはやめてくれないか。たしかに遺恨はあるけど、僕らは日本で協力して生きていかないと……」
「悪いとは思ってる」
え。
一瞬何を言われたのかわからなくなって、僕は硬直した。
メディも完全に虚を突かれたようで、拳を振り上げたまま固まっている。
「悪いと思ってる、と言ったのだ」
ラフィーニャは顔を赤らめると、まったくリアクションのない僕らをにらみつけてきた。
「聞・こ・え・て・る・かっ?」
バンバン!
バンバン!
テーブルを叩いて反応を求めてくるのに、僕らはあわててうなずき、椅子に座り直した。
「いいか? 一度しか言わないからちゃんと聞けよ?」
そう前置きをすると、ラフィーニャは早口で言った。
「今回の事は申し訳ありませんでしたもうしませんから許してくださいお願いしますっ──ふんっ」
最後の「ふんっ」は腕を組んでそっぽを向いた時の声だが……。
『………………』
あまりのことに僕らは呆然と見つめ合い、そして……。
「ぷっ……」
「あっはっはっは……」
どちらからともなく、笑い出した。
「な……何を笑うのだ人が真面目に謝ってるのにっ!」
ラフィーニャは顔から湯気を出しながら怒り出した。
「いやあ、だってさあ……」
「あ、あのラフィーニャがまさかこんなに素直に……っ」
だって、おかしかったのだ。
これほど遺恨があって、下手をすると殺し合いに発展するまであり得た僕らの関係が、こんな風に終息するなんて。
しかもそれが、他ならぬラフィーニャからの譲歩で。
しかもこんなに、可愛らしいものだなんて。
おかしくてたまらなくて、嬉しくてたまらなくて、僕らは嫌というほど笑った。
涙が出てお腹が痛くて、もう大変だった。
「もおおおおーっ! なんなのだなんなのだもう! 人が恥を忍んでせっかく……!」
バンバンバン!
バンバンバン!
バンバンバンバンバンバンバン!
怒り心頭でテーブルを叩くラフィーニャの底抜けの可愛さに、これまでの疲れやわだかまりなんか、一発で吹き飛んでしまった。
「ホントにさあ、おっまえさあ……」
「あっはっは! あーっはっはっはっはっは!」
ラフィーニャが完全にぶち切れるまで笑ってしまったせいで、その後機嫌を直してもらうのに嫌ってほど苦労した。