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くっころ女騎士さんが鬱で死にそう。  作者: 呑竜
「第四章:女騎士さん、覚醒す」
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「女騎士さん、覚醒す」

いつもお読みいただきありがとうございます(=゜ω゜)ノ


 ~~~メディ~~~




 ラフィーニャの投げ捨てたチョコレートやスナック菓子を食い尽くしたヒグマたちは、食いでのある獲物の登場に興奮したように鼻息を荒くしているが……。


「……クマが三頭。いや、こちらではヒグマというのだったか?」


 メディは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)でこれに対した。

 

「まあどちらでも変わらんか。どうせ行きつく先(・ ・ ・ ・ ・)は同じ(・ ・ ・)だ」


 つぶやきながら、トラロープを固定していた木の杭を一本、引き抜いた。


 直径80ミリ、長さ1800ミリ。

 地中深く埋め込まれた、土木工事用の木の杭である。

 大人二人がかりだって、そう簡単に抜けるものではない。

 それをメディは、無造作に片手でやってのけた。


「グランザッパーとは似ても似つかぬが……まあ……」


 ぶんぶんと確かめるように振り回すと、中段に構えた。


「分相応というものだな。そら、ケダモノどもよ、かかって来い」


 メディの言葉が終わるか終わらぬかというタイミングで、一頭が突っかけて来た。

 駆け寄るなり、左の前足を振り上げてきた。


 攻撃に対するメディの反応は、激烈だった。


 踏み込むなり、左下から右上へ。

 ヒグマの振り下ろしよりも先に木の杭を振り上げた。


 グシャリと何かが砕けるような音がした。


 グォッ……と声にならぬ声を上げると、ヒグマは斜めにすっ転んだ。


「……ふん、切断までは至らぬか」   


 手のひらをポンポンと木の杭で叩きながら、つまらなそうに息を吐くメディ。


 砕けたのは、ヒグマの前足である。

 肩関節が伸びきったところへ木の杭を思い切り叩きつけたのだ。


 いかに間接部とはいえ、丸太ほどに太く分厚いヒグマの前足を打ち砕いた。

 威力といい速度といい、およそ尋常な者のなせる技ではない。


『……っ!?』


 その瞬間に、逃げていればよかった。 

 心持つ生物ならばそうも出来、命を長らえたことだろう。


 だがヒグマだ。

 仲間の負傷は、凶暴性を増進させる効果しか生まなかった。

 手負いになった一頭は狂ったようにそこらをのたうち回り、残りの二頭も興奮に目を濡らしながらメディに迫って来た。


「うむうむ、そうでなくてはな」


 するとメディは、満足げな笑みを浮かべた。 


「ひさしぶりの戦闘だ。少しは楽しませてもらわないと──」


 言葉の途中で、木の杭を思い切り左へ振った。


「──な!」


 手負いの一頭が遮二無二嚙み付こうとして来た、その横っ面を引っぱたいたのだ。


 叩かれた一頭は衝撃で吹っ飛び、岩肌に体を打ち付け、その場にずるずると滑り落ちた。

 そしてそのまま、動かなくなった。

 角が当たったのだろう、顔面は横にふたつに裂け、大量の血が地面を濡らしている。


「……おっと」


 気がつけば、木の杭が真っ二つに割れている。

 

「ならばもう一本……今度は大事に扱うか」


 残りの一本を引き抜いたところへ、一頭が襲い掛かって来た。


 背後からの右前足の振り下ろし──これをメディは難なくかわした。

 右の足を軸にして回転するような動きで、ヒグマの体の右外側へすり抜けた。

 

 躱されたヒグマは突進の勢いを止められず、そのまま岩肌にぶつかった。

 特にダメージはないようで、すぐに体勢を立て直し振り返って来たが……。 

 

「これならいいだろう?」


 身を低くしたメディは素早く接近してヒグマの体の下に潜り込むと、木の杭を喉元へ突き込んだ。


 ゴアッ……と低い呻きを漏らした後、ヒグマはぐったりと崩れ落ちた。


「おっとっと……」


 気が付けばメディは、全身に大量の返り血を浴びていた。

 つい先ほどまでヒグマの体内を流れていた血は熱く、わずかに湯気を立てていた。


「キッコ殿に風呂の用意も頼んでおいたほうが良かったかな……」


 頬についた血を手で拭うと、メディは最後に残ったもう一頭に振り返った。


「なあ、どう思う? ……なんて、聞いても答えられぬか。エルズミア(向こう)のなら、喋れる個体も普通にいるのだがな……」


 よしなしごとをつぶやきながら、一歩、また一歩と近づいていく。 


「さても喋れぬというのは不便だな。命乞いすら出来ぬのだから……」


 その表情には、かつての光が戻っている。

 熾烈な魔王軍とのいくさの中で、剣姫けんきともうたわれた輝きが。







 ~~~ノッコ~~~




 タカミチについて行くのではなくその場に残ったのは、メディの活躍が見たかったからだ。

 そもそもラフィーニャ捜索に同行しようとしたのも、考えてみればそのせいだったのだと思う。


 ノッコはまだ、メディという女性を信用しきれていなかったのだ。

 突如ノッコの前に現れて、タカミチを奪って。

 にも関わらず、迷惑かけてばかりいる彼女の本当の姿が見たかった。

 タカミチが惚れるほどの価値があるのか、あそこまでして尽くす価値があるのかを知りたかった。


 しかしまさか──


「ここまでとは思わんかったなあー……」


 あまりの凄まじさに、ノッコはその場にへたり込んだ。


 幼少の頃より空手を習い、ついには全国一位になったほどの女である。

 メディの動きの凄まじさは痛いほどによくわかる。

 

「いったいどれだけの時間を費やしたら、あんな動きが出来るんだあー……?」


 踏み込みひとつ、剣捌けんさばき(そもそも剣ですらないのだが)ひとつ取ったって、まともではない。

  

「練習だけでねえべ……それこそホントに、実戦経験(・ ・ ・ ・)?」


 エルズミア王国は長い間、魔王軍と戦争状態にあったのだという。

 王国の騎士であったのなら、おそらく数え切れぬほどの敵との戦いがあったはず。ならばあの動きはその中で身に着いたものなのだろう。


「そんなの……そんなの……」

 

 呻いていると、最後の一頭を仕留めたメディがノッコに近づいて来た。

 もの凄い量の返り血を浴びているが、表情にはいい運動をした、みたいなさわやかな笑みが浮かんでいる。


「ノッコ殿。見ていてくれたか。どうだ? ひさしぶりでキレは悪かったが、なかなか捨てたものではないだろう」


「捨てたものでないっつうか……」 


 ノッコは大きな大きなため息をついた。


「いやあ参った。参ったわい」


 ひらひらと手を振り、そして──


「こりゃ、勝てねえわ」


 負けを認めた。


 これほどの人物であれば、タカミチが惚れるのも無理はない。

 心の底から、そう思えた。

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