「元勇者、イケイケになる」
いつもお読みいただきありがとうございます(=゜ω゜)ノ
ここからは一気ですぜ!
~~~ノッコ~~~
「タカ兄ぃ! あたしも一緒に連れてってけれ!」
ラフィーニャの捜索に同行させてくれるよう頼んだのは、まったくの反射だった。
心の内から自然に沸いて出てきた要求だった。
「……ってごめん! 頼んでおいてなんだけど……無理ならいいから……っ」
頼んでから改めて、自分の要求の無茶苦茶さに気がついた。
慌てて取り下げようとしたがしかし……。
「無理なんてことないよ! 全然平気! まーかせてよ!」
ふふんと似合わないドヤ顔で請け負うと、タカミチは片手でノッコを抱き寄せてきた。
「え、なんで……っ? ってか……これ近いっ、近い近い近いっ!?」
もの凄い密着感に、ノッコは顔を真っ赤にして動揺した。
「あ、移動中は離れないでね。僕から離れたら最悪死んじゃうから」
「はああああっ!? どどどどうやって移動するつもりなんだあーっ!?」
タカミチの言葉に、ノッコは全力で悲鳴を上げた。
「じゃあ行ってくるからねキッコ! 朗報を期待しててくれ! なんなら宴会の用意をしててくれてもいいんだぜ!?」
「う……うんっ、わかったっ」
ぱちりとウインクまでするタカミチに、キッコも動揺を隠せない。
「あー……言っておくが……」
もう一方の手で抱き寄せられたメディはポリポリと頬をかきながら、どことなく照れ臭そうに説明してきた。
「この状態のタカミチは、イケイケだから……」
そして、三人は空を飛んだ──
「ひっ……!? ひぃやああああああっ!?」
「あっはっは! 見てごらんよ! 高いだろう!? 気持ちいいかいノッコ!?」
「いやいやいや、そんなの感じてる余裕ねえから……っ!?」
眼下の光景の凄まじさに、ノッコは息を飲んだ。
アマハトの岩屋へ向かうためにタカミチが選んだのは、陸路でも水路でもなく空路だった。
と言っても飛行機やヘリではなく、飛行の魔法で移動することにしたのだ。
高度は百メートル近くあり、速度も時速百キロは下らない。
タカミチを中心にした半径五メートルほどの空間を光の膜で覆い、丸ごと移動するような形だ。
膜はある種のバリヤーのようになっていて、中には風が吹き込んで来ない。
なのでスピード感はあまり無く、景色だけが高速で後ろにすっ飛んでいく。
「なんか気持ち悪いっ、なんか気持ち悪いっ、なんか気持ち悪いっ」
いかにも自然法則に反した移動感に、ノッコは生理的な嫌悪感を覚えた。
「あ、ちなみに僕から離れると異物扱いになって膜の外に弾き出されるから」
「なんとおおおーっ!?」
ノッコは悲鳴を上げながら、メディを見習ってタカミチに強く抱き着いた。
「──タカミチ! あそこだ!」
やがて、メディが鋭い声を出した。
指差す先を見やると、そこにはちょうどアマハトの岩屋があり、入り口には……。
「クマだ! ヒグマだ!」
ノッコが叫び──
「よし! 見つけたぞ!」
タカミチは光の膜を急降下させると、ストンとヒグマの前に降り立った。
「……数は三頭。うん、情報通りだな」
「ひええ……予想よりもでっけええぇ……」
小さい頃にツキノワグマを目にしたことのあるノッコだが、ヒグマは初見だ。
太い足に分厚い体、爪と牙……。
「す……少しぐらいなら助けになれるかと思ったけど、これでは……」
空手日本一のノッコをしても、「これは無理」と最初から諦めてしまうぐらいのど迫力だ。
「……あれはラフィーニャの荷物か?」
タカミチが疑問を口にした。
見れば、そこら中に細々とした品が落ちている。
懐中電灯にスポーツドリンク、スナック菓子にチョコ……。
まるで誰かが投げ捨てながら移動したような痕跡が、岩屋の入り口まで続いている。
「……時間稼ぎのためだべか?」
「たぶんね」
ノッコの推測に、タカミチはうなずいた。
「懐中電灯やスポーツドリンクのような重みのあるものを先に捨てて荷物の重量を減らして、最終的にスナック菓子やチョコでヒグマの注意を引きつけて、トラロープをくぐる時間を作ったんだ」
入り口の両サイドには木の杭が打ち込まれ、その間にはトラロープがびっしりと張り巡らされている。
下には三十センチほどの隙間があって、ラフィーニャならばくぐるのは簡単だろうが、くぐる瞬間にはどうしても隙が出来る。
「はあー……、頭のいいコなんだなあー……」
「……そうだよ。あのコはね、昔からそうなんだ」
小さく首を横に振りながら、タカミチはつぶやいた。
「へ? 昔から?」
ノッコの疑問に答えることなく、タカミチはトラロープに手を伸ばした。
すると、不思議なことが起こった。
タカミチの指先が触れた瞬間、トラロープが「バヅバヅバヅンッ」と連続して裂けたのだ。
「……へ? 今なん……なんでっ?」
「僕は行くよ。ノッコはついて来るでもここへ残るのでも構わない。その膜さえあればガスもヒグマも平気だから、好きにしていいよ」
「え? え?」
タカミチが手を振ると、ノッコの体の周囲に幅五センチほどの薄い光の膜が現れた。
ノッコの動きに合わせてついて来るそれは、先ほどの飛行魔法の際に生じたものに少し似ている。
タカミチの言葉通りなら、防毒機能のあるバリアーというところだろうか。
「で、でも、メディさんは!?」
自分はこれでいいとして、しかしメディには何もしなくても平気なのだろうか。
「まったく素のままじゃ危ねえべ!」
「危ない? メディが?」
するとタカミチは、口元を歪めるようにして笑った。
「冗談。危ないのはむしろ、ヒグマのほうさ」