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くっころ女騎士さんが鬱で死にそう。  作者: 呑竜
「第四章:女騎士さん、覚醒す」
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「魔王の娘は忘れない」

いつもお読みいただきありがとうございます。

ラフィーニャの思い出話でございます。

 ~~~ラフィーニャ~~~




 ドアを閉めて鍵をかけると、ラフィーニャはベッドに倒れ込んだ。


「…………っ」


 叫び声が漏れそうになった口元を、手で押さえた。

 でも衝動までは抑えきれず、足が勝手にジタバタ動いた。


「……っ! ……っ! ……っ!」


 何度も脳裏をフラッシュバックするのは、先ほどの光景である──


 冷静に自分をいさめようとするタカミチの態度が気にくわなくて、つい怒ってしまった。

 勢いがつきすぎて、言わなくていいことまで言ってしまった。


 自分こそが長い間メディを苦しめてきた元凶であること。

 タカミチらを東京から田舎へと追いやった犯人であること。


 それらが全部……。


「バレ……ちゃった……っ」


 漏れ出た声は、重い後悔に満ちていた。





 

 今からちょうど五年前のことだ。

 エルズミアに召喚された直後のタカミチは、剣や槍など様々な適性チェックを行い、最終的に最も向くと判断された魔法を学ぶために、王都を遠く離れた魔法学院へ入学することとなった。


 ──勝手のわからぬ異世界で、十歳以上年下の学生たちと机を並べる。

 ──元の世界へ帰るためには、魔王討伐が必須条件。


 異世界への興味や好奇心以上にストレスの溜まっていたタカミチは、学院近くのレヴィンの森──故郷の森に似た雰囲気があった──を散策することで慰めとしていた。


 ある日タカミチは、木の根につまずいて転んで泣いている女の子を見つけた。

 紫色の髪をツインテールに結ったその子の名はニーナ。

 小学校低学年ぐらいだろうに容姿は驚くほど整い、口調は突き抜けて偉そうだった。

 森の中であるにも関わらず、白い豪奢なドレスを身に着けていた。

 

 くるぶしまである長い裾が、木の根に引っ掛かったのだろう。

 たしかにこのドレスは綺麗だし君によく似合っていると思うけど、森の中を歩くなら、次からはもっと動きやすい服装にしたほうがいい。


 安全性を考えてそう指摘すると、ニーナは顔を赤らめてうなずいた。


 次の日森を散策していると、ニーナは同じところで待っていた。

 白いドレスは膝丈までに短く仕立て直されていた。


 ずいぶんと贅沢な話だ。

 口調といい服装といい、もしやどこぞのお嬢様なのだろうかと思い訊ねてみたが、身分を明らかにはしてくれなかった。


 ──そしてふたりの交流が始まった。

 

 といって、何か特別なことをするわけではない。

 ふたりで森で待ち合わせて適当にぶらつく。

 良さそうな木陰を見つけて寝そべり、だらだらと一日を過ごす。

 木の実をとって食べたり、魚を獲って食べたりすることもあった。

 ニーナが持参した弁当を食べることもあったが、それらはいつも目を剥きそうなほどに豪華なものだった。


 いろんな話をした。


 日本のこと。

 エルズミアのこと。

 日本へ戻れたらどうしたいか。

 戻れなかったらどうしたいか。


 日を追うごとに、ニーナはタカミチになついていった。

 たまに行かない日があると、次の日にはねて困るくらいだった。


 タカミチがほぼ毎日森に行くという話を聞いた学院の生徒たちは、口々にやめるように言ってきた。

 あの森には危険な老蛇ペリオントロイが住み着いているからと。


 自分自身は危険な目に遭ったことのないタカミチだが、そう聞くと不安になってきた。

 自分がではなく、ニーナの身がだ。


 魔法の才能を急速に開花させつつあったタカミチは、学院の老師や先輩たちと共にパーティを組み、森の奥深くに老蛇ペリオントロイを追い、見事これを仕留めた。


 翌日。

 意気揚々と待ち合わせの場所に向かったタカミチだが、そこにニーナの姿は無かった。

 その翌日も、そのまた翌日も、ニーナは姿を現さなかった。


 病気にでもかかったのだろうか。

 それとも単純に自分に飽きたのだろうか。

 真相を突き止めることが出来ないまま、学院を去る日がやって来た。

 当時本格化していた魔王軍との戦いに招集されることとなったのだ。

 

 タカミチは待ち合わせの場所近くの木のうろに手紙を残した。

 魔王を倒したら、日本へ戻る前にまたここに来ること。

 その時もう一度会えたら嬉しいと。

 

 ──タカミチは知らない。


 ニーナが、変化の魔法で人間の姿になったラフィーニャだということ。

 老蛇ペリオントロイが、ニーナの親しくしていた魔物であったということを。



 


 

「嫌われちゃった……かな」 

 

 諦観ていかんとともに、ラフィーニャはつぶやいた。


 それはそうだろう。

 あれだけのことをしておいて、許されるわけがない。

 仲良くなんて、してくれるわけがない。

 自分は嫌われてしまった。

 

「……もう、いいか」


 ニーナはぐずりと鼻を鳴らした。

 その手には、あの日残された手紙が握られていた。

 

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