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くっころ女騎士さんが鬱で死にそう。  作者: 呑竜
「第四章:女騎士さん、覚醒す」
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「元勇者は絡まれている」

人のお世話って大変ですよね……。

タカミチはさらっとこなしてるけど、なかなか出来ることではないと思います(;´∀`)

 ~~~タカミチ~~~




「貴様は余に対して責任があるのだ! かつてのように優雅で快適な暮らしを提供する義務があるのだ! 参ったか!」


 なんて言って、いったい何をさせられるのかと思っていたら……。




「これ勇者! は空腹であるぞ! はよう朝食を持って来ぬか!」


「食事は食堂で……」


「はあーっ!? 余に凡俗ぼんぞくと共に食卓を囲めと!? バカを申せ! 部屋食に決まっとるだろう部屋食に!」


「ったく、しょうがないなあ……」


「なんだその言葉遣いは! 余はお客様であるぞ!? こちらの世界ではお客様は神様なのだろう!? ならばそれ相応の接し方があるだろうが!」


「はあーい、わっかりましたー」




「熱い! 熱いぞ勇者! こんなものが食えるか!」


「じゃあちょっと冷まして食ったらいいんじゃないですかね、お客さん」


「はああー!? 余は腹が減っとると言っとるだろうが! 今すぐなんとかせい!」


「今すぐって……」


「ほれ、あるだろうが! あの……なんというかその……ふーふーと息を吹きかけて冷ますやつが!」


「いや自分でやろうよ……」


「はああーっ!? お客様! 余はお客様だぞ!?」


「ったく、しょうがないなあ……」


「嫌そうに言うな! あと言葉遣い! ちょいちょい気を抜くのやめい!」


「はあーい、わっかりましたー」




「これ勇者! 足がダルいぞ! 早う揉まぬか!」


「一日引きこもって外にすら出てないくせに何を寝言を……」


「だからだろうが! ずっと椅子に座っていたから血が滞っているのだ!」


「ええ……」


「つべこべ言わずにさっさと……ってここここらぁ! いきなり太ももからいく奴があるか! そんなその……中心近くからいくとかおかしいだろうが! もうちょっと考えろ! つま先とかふくらはぎとか、ハードルの低いところから攻めるのが普通だろうが!」


「……ちょっと注文多いですねえお客さん」


「こら! 舌打ちするな! 余の美しいおみ足に触れられることをもっと喜ばんか! あと口の利き方!」


「はあーい、わっかりましたー」




「こここここら勇者! いるだろうな!? まだそこにいるんだろうな!?」


「はいはいいますよー」


「いるならいると言え! 黙ってるといなくなったかと思うじゃないか!」


「いると言えったって……」


「歌でも歌えばいいだろうが! ほれ! 早うせい!」


「流水音流してたら、歌っても聞こえないんじゃないですかね……」


「それ以上に大きな声で歌えばよかろうが! ほらほら早う!」


「はあーい、わっかりましたー」




 上げ膳据え膳をかされたり。

 熱い食べ物を「ふーふー」させられたり。

 足を入念にマッサージさせられたり。

 夜中に電話でたたき起こされてトイレにつき合わされて、終わるまで歌を歌わせられたり。


 どれもこれも他愛もないものだ。

 けっこうな頻度ひんどでくるでのダルくはあるが、魔王の娘と言うよりは、単純にわがままなお嬢様を相手にしている感覚だ。


 もっと過酷で過激な内容のものを想像していた僕としては、正直拍子抜けしていた。

 だけどその光景は、はたから見るととても奇妙に映るようで……。




「しっかしあのコにも困ったもんだどなあー……」


 バンを運転する僕の隣で、ノッコがしみじみとつぶやいた。


「ちょっとタカぃに無茶ぶりすぎなんでないのかい? 村じゃ買えない高級プリンを買って来いとか抜かして。簡単に言うけど、ジャ○コまで往復二時間だど?」


「無茶? ああまあ……そうかな? たしかに他の買い物がなかったらめんどくさくはあっただろうけど……」


 交通機関の便が悪いので、田舎での買い物は基本車で、基本まとめ買いだ。

『陽だまりの樹』では一週間分の食料をバンでまとめて買い出す決まりになっていて、今回僕はそれに便乗させてもらっている。


「これぐらいなら平気……かな?」


 人の世話をするのはメディで慣れてるしな。

 ラフィーニャに関しては心のケアを気にせず言いたいことを言っていいから、全然楽だ。


「タカ兄ぃは人がいいからなあー……」


 僕の返答に、ノッコはしみじみとため息をついた。


「だどもいつまでもそれはいかんで。どこかでビシッと言ってやらねえと、ますますつけ上がっていってしまう」


 ぷんぷんと自分のことのように怒ってくれるノッコこそ、実にいい奴だと思うが。


「ありがとな、ノッコ。でも、今のところは特に支障ないから放っておくよ」


「んー……」


 ノッコは不満そうに唸ると……。


「……なあ、タカ兄ぃ?」


 ちろりと、気遣わしげな目を向けてきた。


「なんかあのコに、負い目でもあるんかい?」


「──っ?」


 鋭い問いに、ドクンと心臓が跳ねた。


「それはその……えっと……」


 僕はまだ、ノッコに事の詳細を明らかにしていない。

 といって、別に悪気があるわけでももったいぶっているわけでもない。

 あまりにも荒唐無稽こうとうむけいな話だからだ。


 だって、なんて説明すればいい?


 僕、実はただの行方不明じゃなく異世界に行って来たんだって?

 勇者として召喚されて、メディは向こうの女騎士で、共にパーティを組んで魔王を倒したんだって?

 ラフィーニャは魔王の娘で、元家臣から命を狙われてやむを得ずこちらへ逃げて来たんだって?

 

 そんなの、頭がおかしくなったんじゃないかって疑われておしまいだろう。


「えっと……だね」


 返答にきゅうしていると……。 


「最初の時、なんか言われてたべ。母上がどうとか、マオウグンがどうとか。キッコはチュウニビョウがなんたら言ってたけど、要はメディさんと同じ地方から来たコで、金はあるけど身寄りがねえってことだべ? んで、ユウシャってのはあのコの中でのタカ兄ぃのあだ名」


 ノッコが推論を述べ立ててきた。


「タカ兄ぃが人殺しなんて出来るわけもねえんだけど、あのコは母親が死んだのをタカ兄ぃのせいだと勘違いしてて、恨みを抱いてるから、こうして絡んでくる。タカ兄ぃとしても突き放したいのは山々だけど、何せ身寄りのない可哀想なコだから出来ねえでいる。そういうことだべ?」


 僕は思わず目を見開いた。


 驚くべきことに、だいたい合ってる。

 間違ってるのはユウシャがあだ名ではなく職業名(・ ・ ・)で、母親が死んだのが本当に(・ ・ ・)僕のせいだということぐらい。


「……そうだね。訂正するところはいくつかあるけど、大まかにはそんな感じ」


 ノッコの勘違いに乗っかるようで悪いとは思ったけど、この場はそれで流そうと考えた。


「詳しくは、あとで機会を見て話すよ」


 もっと落ち着いた状況で、ゆっくりと。

 そうでなければ、あの時分(・ ・ ・ ・)のことは説明しきれない。


「……わかった」


 するとノッコは、大きなため息をついた。


「しかしまた、めんどくさいことになってんなあー」


「迷惑かけてすまんね」


「あたしはいいよー。あのコが絡むんはタカ兄ぃにだけだし。キッコはなんだか幸せそうにしてらし。問題はメディさんだべ」


「え、メディ?」


「ありゃ、気づいてなかったんかい? ダメだなーそんなんではぁー。最近タカ兄ぃがあのコにかかりっきりだから、相当寂しそうにしてらで?」


「あ……っ」


 言われて初めて気がついた。

 ラフィーニャのわがままにつき合ってばかりで、肝心のメディのケアを怠っていたことに……。 


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