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くっころ女騎士さんが鬱で死にそう。  作者: 呑竜
「第三章:女騎士さんジャス〇行こうよ」
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「元勇者はもう退かない」

いつもお読みいただきありがとうございます。

本日はクリスマスイブということもあり(作中は関係ないですが)、いつもより糖度高めにお送りしております(*´ω`*)


 ~~~タカミチ~~~




 ベビードールとは、女性が身につける夜着の一種だ。

 夜着といったって、パジャマみたいな健全なものじゃない。

 もっとアダルティな、言うならば大人の女性の武器みたいなものだ。


 用途によっていくつかの形状に分かれるが、メディが身につけているのはキャミソールドレスのようなタイプのものだった。

 全体としては鮮やかな朱色で、ズドンと盛り上がった胸元に黒いリボンがあしらわれている。

 生地はナイロン地で絶妙に透けていて、レース生地の黒い下着がむっちりした肢体に食い込んでいるのがわかる。


 それだけでも相当に強烈なのだが、さらに効果を倍増させているのはメディが恥じらっているという事実だ。


 自らそんな格好をしているくせに、顔を真っ赤にしている。

 目を伏せ、唇を噛んで耐えるようにしている。

 よく見ると、握られた拳がわずかに震えている。

 

 際どい格好と、豊満な肉体と、純真な乙女心。

 それら三者が混然一体となって、僕の理性に総攻撃を仕掛けて来る。


「……っ」


 ハッとした。

 誰かが何らかの間違いでここへ来てしまったら、メディのあられもない姿を見られてしまう。


 それだけはいけないとふすまを閉めて──はたと気づいた。

 今、自ら退路を断ってしまったことに。


「しまった……っ?」


 襖を閉めた上でなおもこの場にとどまるということは、今後も継続してメディの攻撃を受け続けることを意味している。

 暴力的なまでに可憐で蠱惑的こわくてきな攻撃の前に、身をさらし続ける意思表示を示したことになる。


「──いいんだ(・ ・ ・ ・)


 慌てて襖に手をかけた瞬間、捕まった。

 素早く接近してきたメディに、背後から抱きしめられた。


「ぐぅ……っ?」

 

 まず感じたのは香りだ。

 普段化粧っ気のないメディの体から、濃厚なバラの香りが漂ってくる。


 次に感じたのは圧だ。

 メディ最大の武器とも言える乳房が肩甲骨の辺りに押しつけられ、ぐにゃりとたわんでいるのがわかる。

 

 そして熱だ。

 ただでさえ平熱の高いメディの体がさらに燃えるような熱を発し、それをこちらに伝えてくる。


しまって(・ ・ ・ ・)いいんだ( ・ ・ ・ ・)


 嗅覚と触覚を徹底的に攻められたところにボソリと甘い誘惑を囁かれ、一瞬気が遠くなった。

 ぐらりと視界が揺らぎ、膝から崩れ落ちそうになった。


「や、それは……っ」


 本気で流されそうになったが、気力で踏みとどまった。


「色々まずいというか……っ」


「何かいけないことがあるか? わたしたちは婚約者だ。成人で、大人だ」


「だ……だけどメディっ。前の時はむしろメディが……っ」


 初めて事に及ぼうとした時は、メディのほうが恐がったのだ。

 剣を取ればドラゴン相手にだってひるまない女の子が泣きながら白旗を上げたのを、僕は忘れない。


「……あの時は悪かった。でも、今は違うのだ」


「違うってさあ……」

  

 たしかにあの時と今は違う。 

 でもそれは、いい意味でじゃない。


 今のメディは以前ほど強くない。

 重度の鬱で、なおかつ薬まで服用しているような状況だ。


「むしろ今のほうが良くないだろ? 精神的にも肉体的にも、これ以上負荷をかけるべきじゃない」


「わかってる。その上でなお、今のわたしにはこれが必要なのだ」


「………………話してくれるかい?」




 メディはぽつりぽつりと話し始めた。


 昼間あった出来事と、茶子ちゃこさんに指摘された事々を。

 

「わたしはタカミチが悪いなんて思ってない。だけどそこが不安の源のひとつであるようにも思うんだ。婚約してるのに、好き合って一緒にいるはずなのに、時々無性に寂しくなる。それはきっと、わたしたちが本当の意味で繫がっていないからだ」


 本当の意味で……ってのは、つまりそういう(・ ・ ・ ・)こと( ・ ・)なんだろう。

 そのために茶子さんが選んだ武器がこのベビードールであり、香水であり、状況であるわけだ。

 そして悔しいことに、それらは実に効果的だ。

 

「だけど……何も今日でなくたって……。もっと日を選んでさ。メディの調子がいい時にでも……」


 なんとかメディをたしなめようと試みた。

 昼間救護室を使ったのなら、やはり今日は控えるべきだと。


 しかし──


「……わたしなんかとでは、嫌か?」

 

 メディの声に哀しげなトーンが含まれていることに、僕は焦った。


「違うっ、そうじゃないっ。嫌なんかじゃないっ。むしろ大歓迎だっ。いつだって僕は、キミとそうしたいと思ってるっ」


 勢いのままに本音を言ってしまってから、すごく恥ずかしくなった。


「や、その……ごめんちょっと……言い過ぎた……」


「ふふふ」


 僕の動揺がおかしかったのだろう、メディはクスクスとくすぐったそうに笑った。


「なんだ、やっぱりそうなんじゃないか。タカミチは今まで我慢してたんだ」


「それはまあ……だけどその……」


「なあ、見てくれないか?」


 言うなり、メディは僕から身を離した。

 一歩下がり、腰の後ろで手を組んだ。

 足を前後に交差させて、上目遣いで僕を見上げた。


 目を見て話すにはどうしても胸に目がいく、あざといしぐさ。

 茶子さんに教えられたのだろうと察しながらも、僕は──


「……綺麗だ」


 僕は無意識に言葉を発していた。


「……すごく」


 肢体はもちろん、上気した頬やプルンとした唇、わずかに潤んだ瞳も含めたすべてが美しく、それ以外のものが何も目に入らなくなった。


「ふふふ」

 

 棒立ちになっているのを、メディに笑われた。


「なあ、タカミチ? タカミチはわたしのことをすごく気にかけてくれるよな? いつだって心配してくれてる。なるべく傷つかないように、心安らかにいられるようにと考えてくれてる。それはとても嬉しいことなのだ。嬉しいことなのだけど……同時に寂しくもあるのだ」


「寂しい……?」


「まるで、わたしたちの間に見えない壁があるような気がするのだ。エルズミアと日本というだけでなく、もっと深いところで遮る壁があるような。そして、それはたぶん立ち位置のせいだと思うのだ」 


「立ち位置……?」


「以前にも言ったがな。わたしはタカミチと並び立ちたいのだ。守られるだけでなく、守る側にも立ちたいのだ。一方的に庇護ひごされるだけなんて、まっぴらごめんだ」


 それはたぶん、姫直属の騎士としてのプライドなのだろう。

 彼女の根底にある、彼女を形作る最も強いものがそう言っている。


「なあ、タカミチ。遠慮せずに、もっといろんな感情を叩きつけてくれ。めんどくさいとか、うるさいとか。放っておいてくれても、冷たくあしらってくれてもいいんだ。もちろん優しくだってして欲しいけれど、それだけというのはな……だって、そんなのウソだろう? 良かれ悪しかれ、人間というのはもっと多様な感情を持つ生き物だもの」


「……っ」


 メディは正直な人間だ。

 だから僕にも、同じようにして欲しいのだろう。

 包み隠さず、ありのままに接して欲しいんだ。

 そして、その延長線上にあるのがおそらくは……。


「もっとわたしを求めてくれ。タカミチの思うままに、激しく、めちゃくちゃにしてくれ。たしかにわたしは怖がるかもしれない。また泣いてしまうかもしれない。それでも、ねじ伏せてでも強引に、最後までしてくれ。それがたぶん、わたしとタカミチの間の壁を破る結果につながるはずだ。そして、そこまでしてでもわたしは……」


 ──もっともっと、タカミチの傍に行きたいんだ。


 つぶやくようにそう言うと、メディは頬を赤らめて、小さく笑んだ。

 

「……」


 もう僕に、返す言葉は残ってなかった。

 

 メディは全力で、自らの気持ちを打ち明けてくれた。

 ならば僕も、全力で応じるしかない。 


 結果として、メディは泣くかもしれない。

 精神的な傷を深めてしまうかもしれない。



 だけど──

 それでも── 



「……わかった」


「おおわかってくれたか……ってひゃあああっ?」


 お姫様抱っこで抱え上げると、メディは変な声を出した。


「たたたタカミチっ、これはその……やっぱりあの……っ」


 なんだよ、いきなりビビッてるじゃないか。

 でもダメだ。もう、やめてなんかやらない。


「僕は退かないから。メディが泣き叫んでも止めないから」


「……くううぅっ? おおお男らしいっ?」


 すでに涙目になっているメディを布団に寝かせた。


「じじじ自分で言っておいてなんだが……ホントにっ? ホントにっ?」


 何度も確認してくるメディに、僕は大きくうなずいて見せた。

 

「ホントだ。ああ、言っておくけど、怖かったり痛かったりしたら、肩に嚙み付いていいから。背中をかきむしったって構わないからね?」


「う……うんっ。わわわ、わかったっ。そそそそれほどに痛むもなのだろうか……ってひゃあああっ?」


 僕はそっとメディの上に覆いかぶさり──

 メディは必死で、僕にしがみついてきた──

 そして僕らの、長い夜が始まった──


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