「女騎士さんは実はまだ」
いつもお読みいただきありがとうございます(*´ω`*)
クリスマスに向けて(作中とは関係ないが)、甘い話になっていきますよー。
~~~茶子~~~
「……あんたが異世界の騎士で? あんたの旦那が勇者様で? 魔王を倒して今はこっちに戻って来てて、それが原因であんたは心を病んで、今こうしてるって?」
「ええ、その……」
「極端な男所帯で育った上に親の管理が厳しすぎて、そういったことには死ぬほど疎いって? だからたぶんって?」
「……恥ずかしながら」
悄然とうなだれるメディ。
「ああ、そう……なるほどね」
茶子は腕組みすると、ふうむと考えこんだ。
あまりにも荒唐無稽な話だ。
普通の相手が言うのなら笑い飛ばしているところだが、しかしメディは普通ではない。
「それはまあ……大変ね」
見たところ、嘘をついているような感じはない。
意識が混濁している様子もないし、特別興奮もしていない。
おそらくはいつか見た幻覚を現実のものと思っているのだろう。
だとしたら、頭から否定するのは得策ではない。
ゆっくりと受け止めてやりながら、自分から理解するのを待つべきだ。
「ともかく、わかったわ」
腕組みを解くと、茶子は言った。
「つまりあんたは怖いのよね。遥々別の世界からやって来て、もうそこには戻ることが出来なくて、そのことを知ってるのは旦那だけで。もしその旦那に捨てられでもしたら、それこそ完全にひとりになってしまう」
「うん……」
「だから薬まで使って、必要以上に頑張ろうとしてしまう。結果として無理が祟ってこの有り様」
「うう……っ」
「そこへとどめを刺したのがあたしなわけで……まあそれについては謝るとして……」
ゴホンと咳払いしてから、茶子は続けた。
「一番の改善点は、その旦那よね」
「タカミチが?」
旦那の名前が出てくるのが意外だったのだろう、メディはきょとんと首を傾げた。
「そもそもそいつが何やってんだって話でしょ。あんたにここまで気を使わせて、不安にさせてさ。そいつ、あんたを田舎に連れて来たらそれで終わりだと思ってたんじゃないの? 上手い飯と上手い空気と、あとは時間が解決してくれるとかなんだとか、手ぬるいことをさあ」
あの長身のひょろついた男の顔になぜだか功一のそれがダブって、だんだんムカついてきた。
「よし、あたしがビシッと言って聞かせてやるっ」
「ま……待ってくれっ!」
メディは慌てて上体を起こした。
「タカミチは悪くない! 悪いのはこんなにも弱いわたしで! タカミチに落ち度なんか全然……!」
「はいはい、いいから落ち着きなさい。まだ良くなってはいないんだから、ベッドに寝てる」
「うう……っ?」
茶子が寝るよう促すと、メディは呻きながらも大人しく従った。
「でもその……ホントに違うんだ。タカミチは悪くない。だから……お願いだから悪く言わないでくれ……」
ボソボソと消え入りそうな声で言う。
「これ以上ないほどタカミチはわたしのことを気遣ってくれてる。ホントに、わたし如きにはもったいないほどに……」
「それがダメなのよ。婚約者であるあんたにそんな卑屈な発想をさせてる時点でアウトなの」
茶子はフンと鼻から息を吐いた。
「女ってのは弱い生き物なんだから、男が守らなきゃダメなのよ。優しくして、甘えさせてやって、心の底から安心させてやらなきゃ。それが出来てない時点でね、ダメのダメダメ」
「うう……」
「あ、そうだ」
突然ぴんときた。
「ねえあんた、もういっそのこと子供でも作っちゃいなさいよ」
「………………ふぇ?」
茶子の提案に、しかしメディはピシリと硬直した。
「子供はね、ひとりの例外もなくお母さんの味方なの。自分を産んでくれて、いつだってすぐ傍にいてくれるお母さんを、お父さんよりも断然好きになるものなの。わかる? この世にもうひとりのあんたの味方が出来るのよ。そうしたら怖くないじゃない。旦那にほっとかれても、冷たくされてもさ。自分には絶対に味方になってくれる存在がいる。それってすごく嬉しいことじゃない」
「そそそそそそれはたしかにそうなのだががががががででででででもももももももももももっ?」
「バグってるバグってる」
目をぐるぐる回して混乱しているのを、額にチョップして強制的に止めた。
「ええとその……そのためにはなんというか、その……色々と踏まなくてはならない手順というものがあるだろう……?」
メディは額を抑えながら赤面している。
口元をもごもごさせて、実に言いづらそうだ。
「その……男女間の非常に繊細なあれやこれやを……ああしたりこうしたりという……」
「ちょっと……っ。あんた、まさかまだだとでも言うんじゃないでしょうね……っ?」
自分でも驚くほどにひび割れた声が出た。
「うう……」
メディは涙目になってうなずいた。
「冗談でしょ? あんた……そんな可愛いお顔に加えてこんなに凶悪なものをふたつもぶら下げておいて……」
「ひゃあああっ!? そそそ……そこはあああっ!?」
「腰もくびれてるし、尻なんてこんなに張って……」
「……っひいいいいいっ!? らめえええええっ!?」
体に触れるたび、メディは甘く狂おしいような悲鳴を上げて身悶える。
同性である茶子ですらクラクラするような、それは恐ろしく扇情的な光景だ。
「……やっぱりあんたの旦那、おかしいわ。勇者とか言ってる場合じゃないじゃない。そっちこそ病院行きだわ。絶対にまともじゃない」
「ちちち違うんだっ。タカミチは何も悪くないっ。ただそのっ、わたしが一方的に怖がっているだけでっ。何回かそのっ、そういう機会はあったのだがっ! 最終的には恐ろしくなってしまって……っ!」
必死にタカミチをフォローするメディ。
「……なるほどね、ビビりと気ぃ遣いで上手くいかないパターンか」
茶子はなるほどとうなずくと、どんと自らの胸を叩いた。
「よし、任せなさい。今日一日迷惑かけたお礼に、あたしがあんたの不安要素をきっちりしっかり取り除いてあげるから」
困惑するメディに、自信満々で約束した。