依頼受注、そして戦慄
しかし、冒険者ギルドの依頼というのは多肢に渡る。街の清掃や孤児院の手伝いといった所謂雑用からゴブリンなどの魔物の討伐等々。魔物の討伐依頼の中にはデッドリー・ドラゴンなどといった如何にも凶悪で危険そうな物まであった。この街には相応に高ランクな冒険者が滞在しているのだろうか?などと疑問を抱きつつ依頼を眺めて行く。………一つの依頼が目に入った。森林での討伐依頼。討伐対象はゴブリンのようだ。ゴブリンといえばこの街に到着する前に単体とは言え一撃で仕留めて来た魔物であった。しかし森林ということで他の魔物も出現するらしく油断は禁物、との事。しかしゴブリンとはいえ一撃で葬れた自身の身体能力である、流石にそう簡単にぽっくりとは行かないだろうが………と、思い依頼を受ける。流石に獲物がない。というのは辛いのであるが仕方あるまい………ちなみに討伐報酬は1匹大銅貨一枚のようだ。10日分の滞在費か………なるほど。これはある程度稼げるかもしれない。森林。といった新米冒険者には明らかに厳しい地形であるからこその報酬なのでもあるのだろうが。件の森林は街の門から出て北西の方向に20分ほど移動した所にあるらしい。どうやら今日の宿ぐらいなら確保出来そうであった。何せ安宿の宿泊代は銅貨三枚で良いのだそうだ。しかもこのギルドの向かいが宿屋となっているようなので迷う心配もない。なぜか今まで通った道も覚えているため門からギルドまでも迷う事はなさそうである。さて、ゴブリン討伐と行きますか…そう思った途端。イヤな予感がした。うーむ。俺は感が鋭い方ではないし特に第六感とやらもないはずなのだが。まぁ、受けてしまったのだし仕方ない。行くしかなかろう。
「あいつはある程度まで行くな。ゴブリン討伐。初心者なら自信満々で突っ込んでく依頼なのにあいつは油断してなかった。ある程度のリスクを考えられてるぜ。あの年の頃じゃ珍しい」
冒険者ギルドの一角。酒場となっている辺りでエールを飲んでいた1人の男が言う。その「あいつ」と言うのはおそらく祐一のことであろう。
「いや?ある程度。じゃぁすまねぇな。彼奴は。あの油断の無さにして才もある。おそらく相当のステータスを有しているだろう。確実に早い段階でSランクに到達する。賭けてもいいぜ?」
先程呟いた男とテーブルを挟んで向かいに座っていた男が口を挟んだ。その言葉に酒場の面々だけでなくギルド内の全員が驚いた。何を隠そうこの男こそ…末端ではあれどSランクに名を連ねる男。『酔士』の二つ名を持つ冒険者、スレイ・クロースであるからだ。彼にそこまで言わしめる新人とは…と、皆戦慄したのである。
「まぁ早いうち、とはいえ一、二ヶ月じゃいかねぇだろうよ。彼奴、運悪いだろうし」
また別の意味でギルドに戦慄が走った。何せ彼の見立ては間違ったことがない。にして些細なことには気にかけないのであるがその彼にして「運が悪い」とは…一体どれほど不幸なのか。それこそ彼奴今回の依頼でドラゴンにでも出くわすんじゃないか?と言う意味で。はてさて。そんな凶運な彼が向かう討伐依頼とはどうなるのやら……