ヘキサグラム エクスチェンジ 01 妖歌姫ーセイレーン Ⅳ
まずはこのページを開いて下さった皆様、ありがとうございます。
最初にまず、お詫びをさせて頂きます。今回の前に投稿させて頂きました妖歌姫Ⅳですが、体調不良の中執筆をし、結果として冗長かつこれまでの話の流れを著しく阻害する形になってしまったため、私個人の判断で削除及び今回の投稿でのリメイクという形にさせて頂きました。
作り手の判断でボツにするというお見苦しいマネをしてしまい申し訳ありませんでした。
今回からクライマックスまで、おそらく話はノンストップで進んでいきますのでよろしければお付き合い下さい。
それでは長々と失礼しました。是非読んでやって下さい。
それでは後書きで皆様とお会い出来ますように。
** リーリア・グラツカヤの微睡み
ゆめをみていたの
おにいちゃんが死んじゃったってきいたときから
とっても、とっても、こわいゆめ
とてもさむいところでひとりきりで、
まっしろなへやでひとりきりで
いつまでもひとりきりで
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でもね、今日の夢は違ったんです。
どこからかお兄ちゃんと一緒に聞いた、大好きな曲が聞こえてきて。
そこで優しいお姉さんに会って、あったかいココアをもらって、一緒にお風呂に入ったり、一緒に歌を歌ったり、ごはんをつくったり、みんなで一緒に食べたり、喧嘩しちゃったけど仲直りしたり......
あとね、男の子からオレンジジュースをもらったんです。
私に、おかわりいるか、って。とっても真面目な顔で。
男の子もどうしていいかわからないみたいだったけど、その時のオレンジジュースはココアと同じくらいあったかくて......
えへへ。あとね、男の子が言うんです。
私の王子様になってくれる、って。
とっても嬉しくて。
...困ったなぁ、ありがとうって伝えたいのに......
13 逆襲の鉄騎
20250206
19:40
無人のハイウェイを鋼鉄の黒獣が疾駆する。その先に待つ緋陽と蒼月に逆襲の牙を突き立てんと、三首の魔獣が闇夜に咆哮を轟かせる。
単独強襲戦用装甲二輪 HF-D1 ケルベロス
総排気量2500cc 最大戦速280kmを叩き出す漆黒の鉄騎が、疾風となりながら唸りを上げ暴進していく。
それを駆るは二人の騎兵。国連直轄独立治安維持部隊 ヘキサフォース所属の天霧暁良とコード ヘパイストス 東雲鋳。
跨がる鉄騎と同様に漆黒の戦闘服に身を包んだ彼等は、その先の闇に融けていくように、ケルベロスをひた走らせる。
「天霧隊長、少しスピードを出しすぎなのではないのだろうか?」
後ろのタンデムシートに体を預ける鋳が、操縦者である暁良にやや硬めの声をかける。インカムを通して、彼の緊張を読み取った暁良が興奮気味の声を響かせる。
「何、言ってんの?!東雲隊員。コイツらは走るためだけに創られてるんだから、スペックギリギリまで性能引き出して上げないと可哀想でしょ!?それにパーティーに遅れる訳にもいかないじゃない?」
「それはそうだが、すでに速度が140kmを越えている。いくら隊長がゴリラ並みの腕力をしていても、走行中の妨害を加味すればこのスピードは命取りになりかねない。」
「むっ、何よ、私の運転じゃ危ないっていうの?」
「もう既に危ないというラインは越えている。」
「ダイジョブよ。万が一コケたとしても、アンタには能力があるし、私だってそれくらい自分の力でなんとかなる!それにこのコだって、かなり頑丈に創ったってドクが言ってたし、」
(そーなんですかー。じゃあ会場までの道中、私と暇潰しして遊びません?)
突如インカムに割って入る凛とした音色が、二人の思考のギアを戦闘時のそれへと変えていく。
「あぁ、妹ちゃんか。我慢し切れなくなっちゃたかな?つまみ食いは行儀があまりよろしくないわよ。」
(こんばんは天霧さん。ここの座標の地図はちゃんと届いたようで何よりです。ちょっとした準備運動がてら、付き合ってくださいよ、ネッ?)
「鋳!アンタがオフェンス!私はコイツの操縦に集中するから、露払いよろしく!あと、急制動で身体がぶっ飛んで行かないようにアンタの能力で固定しときなさい。」
「了解した。」
その言葉を受け、鋳の鉄底のブーツが磁力を纏い、ステップにガキリと音を立て固定される。
間を置かずに、後輪カウルに取り付けられた両側のウェポンラックから、専用の徹甲弾を装填したCBJ-MSサブマシンガンが2挺せり出す。
それを両手に構えた鋳の姿を確認した月蒼嬢が
喜悦の声を響かせる。
(さて、準備ができたみたいなので始めましょっか!まだまだ本番には早いけど、この程度でどうにかなっちゃうアナタ達じゃないでしょう?だから私と踊りましょう?この私、コード アルテミスと!!)
アルテミスの言葉を号令として、進行方向から無数の火線が鉄騎に殺到する。
時速140kmを越える走行速度の中、半ば直感でハンドルを切り、駆体の揺らぎ一つ見せずに十字砲火を回避する暁良。
「何だ?やはりアンブッシュか!」
「そうみたいだけど、人じゃない。あれは多分ドローン。」
暁良は目を細め、駆体を立て直しながらヘッドライトに照らされた闇を見据える。そこには宙を駆けるためのローター音を響かせた鋼の機影が四機。かつて戦場で猛威を振るったソビエト連邦製の傑作機、ハインドDをそのままダウンサイジングしたような攻撃的な威容が、ガトリングを携え待ち構えていた。
「間違いないわ。ロシアで何年か前に実用化された、軍用ドローン。オートで対象を追跡して、ただ殲滅させるためにひたすら銃弾をバラ撒き続ける、正真正銘の殺戮機巧。」
(ピンポーン。大正解でーす。でも一つ惜しいのは、コイツらの制御系はオートじゃなくて、マニュアル。私が直接操作していまーす。)
人の意識をその鋼に宿したドローンが、一糸乱れぬ軌道を描き、ケルベロスの四方に包囲網を敷く。
(...てなワケでファイア!キミは生き延びるコトができるか?)
闇夜を照らすマズルフラッシュを閃かせ、黒獣の装甲を食いちぎらんとガトリングによるフルオートの飽和攻撃が開始された。
この場で停止して応戦など、蜂の巣にされにいく様なもの。
ハンドルを切り、前方からの火線を避けながらアクセルを開け、さらに速度を上げた上で殺到する銃弾を回避するが、それでも何発かの弾丸は後方からケルベロスの装甲をジリジリと削っていく。
返す刀で鋳がサブマシンガンのトリガーを引き絞り応戦するが、その銃弾が届く前に、幾何学的なフォーメーションを変化させ、四機の機械兵は間断なく暴力の雨を降らせ続ける。
(なによー、防戦一方じゃないですかー?もうちょい気合い入れて下さいよー。)
アルテミスがあくび混じりに言葉を重ねる。
「んー、このままじゃジリ貧ね。」
「そうだな。第一、俺は銃撃がヘタクソだ。動き続けるアレを相手に銃撃戦は少々荷が重い。銃でなければ確実に一体は始末出来るが。」
「なんでそれとっととやんなかったの!?」
「それをやるには、ある程度敵の近くに寄る必要がある。」
「わかったわ。コイツで接近戦を仕掛けてみるのも面白そうね!いいわ。私に任せなさい。ただし、だいぶ曲芸染みた機動になるから、マジでしっかり捕まっときなさい!」
「了解だ。天霧隊長。」
「あと目は瞑っときなさいよー。」
その言葉を最後に更にスピードを上げるケルベロス。
追いすがる銃撃を右に左に交わしながら、速度メーターが、150 160 170を指し、行方を遮っていた一機を追い越した直後、ケルベロスのテールランプから莫大な光量の閃光が放たれる。
(うぇっ?ええええええぇ!?何コレ!モニター?カメラ?焼かれた?!うぞ??!)
咄嗟の混乱に全ての機体の高度が下がっていく。
その機を逃さんと、黒鉄の魔獣は反攻の咆哮を上げる。
全身の骨格を軋ませながら後輪を浮き上がらせ、時速170kmからのジャックナイフ機動をとるケルベロス。前輪の超高トルクを支えるタイヤが黒煙混じりの火花を散らせながら、その駆体を翻らせ、四機の機械兵にその牙を向ける!
「征くわよ、鋳!!!」
一気にその場からの超加速を行ったケルベロスは先程とは真逆にその前輪を浮かせ、最前列で無防備になっていた一機にその牙を突き立て容赦なく噛み砕く。
「まずは一機!」
暁良が吼える。
残りの三機は、突如スピードを上げたケルベロスに追いすがるために、後方にまとめて陣取っており、一瞬で視界を潰されたアルテミスの制御を離れ、オートモードでの自立稼働に移行しようとしていた。
物言わぬ機械兵の残骸をその牙で磨り潰しながら、ケルベロスは今にも上昇をかけ距離をとろうとした中央の機体を標的に絞り、再びその牙で蹂躙する。
「これで二機目!」
そのまま穴の開いた中央に躯体を滑らせ、すれ違いざまその刹那、
「三機、四機...これでラストだ。吹っ飛べ。」
鋳の両掌に高密度の磁気嵐が形成される。
その破壊的な磁場に触れた残りのドローンは、鋼の機体をクズ鉄へと変えながらハイウェイの壁面に吹っ飛んでいった。
その様を確認した暁良は一度ケルベロスの足を止め、ポケットからタバコを取りだし、くわえて火を点けた。
「フーゥ、会場行く前から派手に暴れてくれちゃって。コード アルテミス、強敵だったわ...」
紫煙を吐き出しながらその煙の行く末に向けて、遠い視線を投げ掛ける。
(ちょっとー!まだ私やられてないんですけどー!)
「あぁ、やっぱり?もう、おめめ大丈夫かしら?」
(大丈夫です。まだまだ遊べますし!まだとっておきが残ってますし!!)
「そう、楽しみにしとくわ。つまみ食いはコレで十分よね?このまま真っ直ぐそっち行っちゃうから。首洗ってまってなさい。」
(はーい楽しみにしてまーす。)
そこでアルテミスからの通信は途絶える。
「ハイハイ、鋳もお疲れお疲れ!」
バンバン背中を叩きながら鋳に労いの言葉をかける暁良。
「凄かったわね、さっきの。どうやったの?」
「俺の能力は磁気操作だと敷島特佐が言っていただろう。励起していない状態の俺は、自分の周囲50㎝までの範囲でしか磁気操作が出来ない。それで自分の両手に磁気嵐を発生させ、それを使って鋼鉄の機体を吹っ飛ばした。」
「んー、要は磁石のS極とN極がー、みたいなやつ?」
「ざっくり言うとそういうことになる。」
「ふえー、やっぱステージ2ともなると全然別物なのねー。身体に負担はかからないワケ?」
「この状態であればだが。ただステージ2としての能力の使用には対価が必要になる。」
「あぁ、敷島特佐が言いかけてたヤツか......あん時はキレずに最後まで聞いときゃよかった。...で対価って?ほら、一応聞いとかなきゃ、いざって時アンタのカバーしづらくなっちゃうし。」
決まりが悪そうに、暁良はフィルターギリギリまで吸った吸殻を携帯灰皿に押し付ける。
「ステージ2に上がった者は、能力の拡充と自我の再獲得。その分の対価としてまた別のモノが要求される。大抵の場合は俺達交換者の身体能力の一部だ。」
「は?それってどういうことよ?」
「俺の場合は右腕の全機能が対価として、持っていかれる。能力発動の祝詞と共に俺の右腕は全ての機能を停止する。」
「つまり能力発動時は右腕が使えなくなっちゃうと。」
「そうだ。俺の場合は右腕だけで済んでいるが、対価は能力と同じで個人差がある。獲得した能力の出力が高ければ高い程、要求される対価も大きくなっていく傾向がある。」
「なるほどね。理解したわ。......ツラくないのよね?」
暁良は戦闘が始まってから初めて、鋳にとってのアキラの顔を覗かせる。
「俺は大丈夫だ。天霧隊長。今回のミッションは必ずやりきってみせる。」
「バカタレ、今回だけじゃない。今回以降だって全部やり遂げんのよ!」
苦笑しながら、暁良は胸部装甲に包まれた谷間からから市販のチョコバーを取りだし、鋳に投げて寄越す。
「食べときなさい。こっから先は必ずアンタの能力が必要になってくるだろうし。この時間にエネルギー補給しとかないとね。」
受け取った鋳はチョコバーを手にした後、しばし物思いにふける様に視線を手の中のそれに注ぐ。
「...............了解した。」
「鋳?どうしたの?」
「いや、以前どこかで似たような経験をしたことがあるのかもしれない。」
「そっ。いつかアンタの忘れちゃった記憶も戻るといいわね。いいから食べちゃいなさい。食べ終わったら出発するわよ。」
そう言いながら暁良はケルベロスの方へと歩みを進める。
鋳は包装ビニールを破いて、中身のチョコバーにかぶり付く。
「なぁ、天霧隊長...」
「んー、なによ?」
「融けててぬるい。」
鋳は口中に広がる甘味とともに、胸の奥から湧き上がったくすぐったさを噛み締めた。
まずはここまで読んで頂きましてありかとうございます。お疲れ様でした。
物語も佳境に差し掛かり、今まで一人称で展開していた物語の視点を変えるべく、三人称視点での構成を軸に進めていきました。
今後も必要であればこのような形をとっていくこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
それではここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。
また次回も皆様にお会い出来ますように。