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ヘキサグラム エクスチェンジ  作者: ktrb(かたりべ)
8/11

ヘキサグラム エクスチェンジ 01 妖歌姫ーセイレーン Ⅲ

まずはこのページを開いて下さった皆様ありがとうございます。よろしければ読んでやってください。


今回から話は1章のクライマックスに向けて大きく動き出します。

今まで溜めに溜めてしまっていたバトル成分もしっかり書ききりたいと考えていますので、未熟な作品ではありますが、お付き合いいただけたら幸いです。


それではお楽しみ下さい。

また後書きでお会い出来ますように。

11 東雲鋳(しののめしゅう)と眠り姫

20250206

17:30



「それで、それで?天霧(あまぎり)隊長はなんて返したのよ?!」


ドクが意地悪そうな表情で、あの時の状況を根掘り葉掘り聞いてくる。


「たしか、俺達エクスチェンジャーを能力だけ見て戦闘装置としてしか考えていないお前達はみんなまとめてクソッタレ、だったと思う。」


そう答えると、ドクが盛大に吹き出した。


「アッヒャヒャヒャヒャ!!んもう、アキラちゃんサイコー!!ホント大好き!ついてくわ、アタシ。天霧暁良隊長に一生。早く会いてー!」


「明日こちらに出向すると言っていたし、すぐに会えるだろう。」


「それは楽しみねー。天霧隊長専用の装備の調整も一式終わってるし、あとは本人の注文で微調整するだけ。あー、やっとお家帰れるわ。玉のお肌が荒れ放題よー。」


「そうか。男性器の皮膚疾患ならば、泌尿器科で診察を受ければいいのではないだろうか。」


「やぁだぁ、ヘパ君。そっちのタマじゃあないわよ!!玉のお肌っていうのは、アタシやリーリアちゃんみたいなツルツルピチピチとした肌のコトなの!」


ドクはその鍛え抜かれた胸板を、丸太並みの剛腕で撫で回していた。


そうだ、俺がこのラボにきた目的。

それはリーリア・グラツカヤの様子を伺うためだ。


「それでドク...リーリア・グラツカヤの検査結果に異常は無かったのだろうか?」


「ん?なぁに、ヘパ君がリーリアちゃんの心配?可愛いもんねー、あの娘。...あぁ、もちろんヘパ君だって可愛いわよ。」


「そうか、ありがとう。それで問題は見られなかったのか?」


ドクが腕を組み、壁に体重をあずけて伏せた目をこちらに向ける。


「オールグリーン、オールオッケー!...って言いたかったんだけどね...」


その言葉を耳にして、手のひらに汗が滲み出てくる。


「脳波の波形がね、保護した時のものより変化してるの。通常のステージ1の子達は、目が覚めてる状態でも、脳波自体は熟睡しているときのものに非常に近い脳波をしているの。けれど、今のリーリアちゃんは違う。逆なのよ。寝ながら起きている状態。夢遊病みたいな状態というのが、一番近いかしら。」


知らず握っていた拳に力が入る。


「つまり、どういうことだ。」


「......なにが切っ掛けで覚醒してもおかしくないってコトよ。その時、暴走して目覚めた異能を無軌道に使うのか、それともすんなり制御下におくのかはわからないけれど、どちらにしても彼女の事を思うのなら相応の心構えはしておきなさい。」


言いながら俺の前に立ったドクは、両手で俺の顔を挟み込んだ。


「だからってそんな、難しい顔しないで。それにアタシご都合主義の展開ってそんなにキライじゃないのよ。愛の力が全てを救う、みたいなの。だからヘパ君はリーリアちゃんを救うためのキスの練習でもしてなさい。ねっ?」


俺は顔を潰されたまま、


「難しい顔か...ありがとう、ドク。」


そう重ねてドクに謝辞を述べる。


「...やっぱりヘパ君可愛いわね。このままアタシとしてみる?キスの練習...」


ドクがやや厚ぼったい、黒人特有の唇をペロリと舐める。


エクスチェンジャーとして体に染み込ませた生存本能が頭の中に警鐘を鳴らす。


ドクが目を瞑るその瞬間、即座に手を振り払いバックステップ

勢いを殺さず飛びすさり、後方ロンダート気味に体をひねりドクに向き合う。


「やぁね、7割冗談で3割本気よ?」


「その3割が割と問題だ。」


「ふー、残念。でも身体はちょっとほぐれたんじゃない?」


そう言いながら、ウィンクをするドク。

確かに知らず、身体が凝り固まっていたのかもしれない。


警戒体勢をとき、ドクに自分の要望を伝える。


「ドク...リーリア・グラツカヤに今から面会するのは可能だろうか?」


「検査と手の治療が終わってから、こてっと寝ちゃったんだけど、それでもいいかしら?」


「構わない。ありがとう、ドク。」


「いいわよ、お礼なんて。それに何だかロマンチックじゃあないかしら?眠り姫とそれを迎えに行く王子様。」


「すまない。ロマンを理解するにはまだ人生経験が足りていないようだ。」


そう答えるとドクは困ったような顔をしながら、


「いーのよ、そんなもん。ロマンは理解するっていうか、感じるものなんだから。さっ、ついてきなさい。」


そう言って、ラボから直結する診療室への扉を開けていく。そのドクの背中を追って、俺も後に続く。


消毒液独特のツンとした塩素の匂いに包まれた個室に、リーリア・グラツカヤは穏やかな寝息をたて、その身体をベッドに預けていた。


その姿はドクが言っていたように、童話の[眠り姫]そのもののように思えた。


[眠り姫]は紡ぎ車の針で指を傷つけ100年の眠りに落ちてしまう。その後、彼女が眠る茨に覆われた城に現れた王子の口づけで眠りから覚める[眠り姫]。その後、王子と結ばれて、ハッピーエンドだったか。


まさか俺の口づけ一つで、彼女が幸せになれるハズもない。そんなに世界が優しくないことは、俺自身イヤという程、味わってきた。


「なあ、ドク...俺の手で、こんな人殺しの手で本当に誰かを守ることなんて出来るんだろうか...護衛任務もある程度こなしてきたが、それとアキラが言っていた[守る]は全然違うような気がする。」


ギョロリとした目を丸くしながらドクは言う。


「...ホントに昨日までのキミとは全然変わったわよね、ヘパ君。」


「そうかもしれない。今は生きている実感というか、頭の中で色々な事を考えるようになっている。」


「なら、ずっと考え続けなさい。その手の疑問に近道なんてないし、都合良く答えが見つかるなんて思わないこと。これからヘパ君自身が苦しんで、考えて、笑って、悲しんで、感じて、歩き続けてやっと自分だけの答えに辿り着く。そんな類いの疑問だから、とりあえず前に進みなさい。」


「そうか。了解した。ありがとう、ドク。」


ここにきてから何度目かの礼をドクに伝える。


「イヤー!言いコトいいますねぇ!!お兄さん!うん?お姉さん?どっちですかねぇ!?」


唐突に診療室に男の声が響く。


整備部の制服に包まれた姿が、ゆらりと陽炎のように揺れ、診療室の戸口に姿を現した。


「お姉さんでいいわ。それよりアンタ誰よ。アタシ、このラボにいる男の顔は全部チェックしてるけど、アンタみたいな男がいたら即座にリストに入れるもの。」


そう言いながらも、男への警戒のレベルを上げ、猛禽を思わせる鋭い視線で相手を見据えるドク。


長身の男は目深に被った帽子をとり、大きく胸を反らせながら、両手を開いて高らかに叫んだ。


「お姉さんお目が高いっ!そうです、そうなんです、俺こそ、最近この日本特区を暗躍しながら、ロシアからの荷物をブンどってアナタ達にプレゼントしちゃったりしてた、コード アポロン!!です!!以後お見知りおきを!!」


帽子で押さえつけられていた生き血を吸ったかのような赤髪が男の背後に拡がる。


「貴様、どうやってここまで侵入(はい)ってきた......ロシアからの荷物...貴様が!」


コード アポロンと名乗った男への警戒を最大限まで上げ、ジャケットの袖口に携帯していた、クナイを手に構える。


「うおっと、ヤル気満々ですかね?元気ですかー!えぇっと、ですね、俺の頼れる相棒兼、妹ちゃんのコード アルテミスさんのお陰なのでした、まる。多分、今ここの全ての電子系統はマイシスターの制御下にあるので、警報も鳴らなければ本部への連絡もシャットアウトされてるハズですよ!あと、警備の方々にはちょっと眠ってて貰いました!!」


「アナタ...何が目的なのかしら?ここをぶっ潰しても、そんなにメリットないわよ?!」


「だから、そんな物騒なコトはしませんってヴぁ。ただ、俺はそこにいるヘパイストス君でいいんだよね?ヘパ君に並々ならぬ興味があって、ここまでやってきたのです!それで、ヘパ君と本気で闘り合うためのお姫様役として、ソコに眠ってるリーリアちゃんを再びかっさらうコトに決めたのでした!!つまり、クッパが俺で、マリオがヘパ君...そんで


言葉が終わる前に、身体を床に這わせるようにして間合いを瞬時に詰める。何の警戒も示していない膝裏を軽く蹴りで小突いて、体勢を崩させ、首筋に照準を定めて逆手のクナイで()りにいく。


「うっお、流石に速いですねぇー!それでこそ我が永遠の宿敵(とも)!!」


意識外からの仕掛けが、首筋を目前にしてアポロンの手で止められる。と同時に捕まれた手首から伝わる過重に逆らわぬ様に自分から極めを外しにいく。


再び間合いをとり、両手にクナイを構え直す。


「貴様が思っているような展開にはさせない。ここで貴様を始末すれば済む話だ。」


「イヤイヤ、ダメでしょ、ダメダメ!こんな狭いとこで闘りあって、盛り上がっちゃって能力使ったりしたら、リーリアちゃんも黒光りしたお姉さんもケガしちゃうでしょう?それは良くありません!!」


闘争本能で白熱した頭に、その一言で冷水を掛けられた。


まただ。また、俺という人間は...


一つの命として、守り手として。あの時のアキラと敷島特佐の言葉がリフレインする。


意識が肉体から乖離したその瞬間をアポロンは逃さなかった。


天井に備え付けられていた火災報知器に向かい跳躍し、着火した刹那、スプリンクラーから室内に水が撒き散らされる。

瞬間、室内に誕生した炎、いや、熱の塊によって撒き散らされていた水が水蒸気となって、俺の視界を埋める。


部屋に充満したその濃霧がヤツの姿を隠し、気配を探るべく身構える。それが致命的なミスだった。


アポロンは脇目も振らずに、変わらず眠り続けるリーリアのベッドまで辿り着いていた。


霧が少し薄れ、アポロンの影が視界に映る。


「こーなっちゃえば、詰みなんじゃないっすかね?俺だって彼女を傷つけたくはないケド、よくあるパターンのよくある台詞、言っちゃいますよー!『コイツの命が惜しかったら、道を空けろ!』」


「やめて、止めなさい!今、彼女は非常にデリケートな状態なの。何が切っ掛けでステージが上がるかわからない!下手をすればアンタ自身どうなるのかわからないのよ!!」


全身を濡れ鼠にしたドクがアポロンに叫ぶ。


「あっ、そうなんです?それはそれで楽しみが増えちった!」


まるで新しい玩具を与えられた子どものように、アポロンの声色は無邪気に弾んだ。

ダメだ、躊躇っている時間はない。


そんな逡巡を嘲るように、アポロンはリーリアの体を抱き起こした。


その光景を目にした瞬間、自分でも感じた事の無い薄暗く、酷く暴力的な衝動が全身を支配して、何も考えられなくなり、真っ直ぐヤツに殴りかかっていた。


「っっアポロン!!!!!」


「ナニソレ?馬鹿にしてるんです?そりゃ、0点ですよ。アポロンがっかり。」


コンビネーションも何もなく殴りかかっていた意識が一瞬で切り落とされる。ヤツの足刀の軌跡が首元を擦過する。


アゴをやられた。そう意識する最中(さなか)、地面が眼前に迫る。脳からの指令を寸断された身体は無様に床に倒れ伏していた。


「怒り任せの一撃なんぞ、そうそう都合良く決まるワケないでしょ。頭を冷やしてくださいねー。リターンマッチに期待してます!」


アポロンはそう残して、抱え上げた物言わぬリーリアと共に、霧の残滓の奥にその姿を消していく。


慌てたドクに身体を抱き起こされ、なにがしかの言葉が掛けられたがその言葉は届かず、身体を濡らす驟雨の中、俺の意識は闇に飲まれていった。




12 天霧暁良と東雲鋳

20250206

18:30



敷島(しきしま)特佐からリーリアが拐われたとの一報が入り、矢も盾もたまらずに愛車のZをブッ飛ばして、現場であるこのヘキサフォースの技術研究室(ラボ)に到着したのが10分前。


事の経緯をラボの統括責任者である、通称ドクと呼ばれる黒人のオカマに説明されながらリーリアが眠っていた個室に足を向ける。


扉を開けたそこには、アゴのそばに治療痕を残し、顔をうつむけ座っている鋳の姿があった。


「......すまない」


その四文字から押さえ付けてもあふれる程の慚愧の念が、この空間の空気を微かに震わせる。


アンタのせいじゃない...アンタは何も悪くない...そんな言葉が口から出かかり、必死に口中を噛み締める。


今、コイツにかけるべき言葉はそんなもんじゃない。


身動ぎ一つしない鋳の胸ぐらを掴み上げる。


「ちょっと、天霧隊長!!?」


ドクが止めに入るが構わず続ける。


「......すまない」


微かに震え、湿り気を帯びた声が再び鋳の口からこぼれ落ちる。


数瞬の静寂がのし掛かる



「......すまないすまない、うるせー!!!」


烈迫の気合いと共に、鋳の顔面を右で殴り付ける。

勢い余った鋳の身体がきりもみしながら個室のドアまで飛んで行った。


「隊長!!!」


言いながら、ドクが鋳に駆け寄る。


「なんだ?!そのツラは!今にも世界が終わる様なそのツラは!!何で私がアンタをぶん殴ったかわかるか?!」


座り込んだ鋳がその顔を上げる。


「リーリアを守れなかったからじゃない!私との約束を守れなかったからじゃない!!アンタが負け犬そのもののツラを晒しているからだ!!!」


「私は今朝アンタに言ったな。一つの命として、守り手として調教してやると!今がその時だ!人を守るってのは、命を奪うより、ずっとずっと難しい事なんだ。だからこそ、私達はその力に溺れず、磨いて、諦めず、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何が起きても立ち上がって、歯をくいしばって、それでもと前に進み続けなきゃならないんだ!!」


「一回ヘマしたから何だ!そこで終わりか!!そうはいかないだろう!!ここまでコケにされて、這いつくばってみっともない醜態晒して!ソレが何だってんだ!!」


「今回はアチラさんの方からリターンマッチご希望なんだろ!上等じゃないか!!ここまで舐め腐ったマネしてくれたんだ。相応の落とし前つけさせてやろうぜ!なぁ、鋳。お前は何を守りたいんだ?聞かせてくれ、コード ヘパイストス 東雲鋳!!」


見下ろした鋳の眼に光が戻る。力に抗うための意思(ちから)が握った拳に込められる。逆襲の牙が形をかえて鎚になり、それを支えに両足を立ち上がらせる。


そうだ、その眼だよ...鋳。

鋳は訥々と語りだす。


「俺は......守りたいんだ。今日のあの時間を。...初めてだったんだ。誰かと暖かい食事をとるのも。自分の名前を呼ばれたことも。誰かのコップに飲み物を注ぐのも...誰かを綺麗だって見とれることも。......全部。」


「ならばもう一度言葉にしろ!!東雲鋳!!!!」


鋳は悔恨も慚愧も憤懣も全てかみ砕き、牙を剥き出しにして吼える。


「取り返す!!リーリアもあの時間も全部!!相手が誰だろうと!何人いようと!!どれだけ強くても!!!俺が!!!!この手で!!!!!」


鋳は叫んだ。今まで口にする事の無かった自身の根底で渦巻いていた自分だけの意志(エゴ)を。


「よろしい!!ちょっとは見られる顔になったわね、鋳!さぁて、これからが本番よ!私のいない間にリーリア(うちのこ)をかっさらうなんざ、命知らずにも程がある。若者たちにちょっと教育的指導してあげなきゃね!」


鋳から伝わる熱に浮かされて、こちらの下腹部も熱くなる。


こっからの第2ラウンドは全部こっちの総取りだ。

切った貼ったはお手の物。

年季の違いを見せてやろうじゃない!!


さぁて、国連直轄独立治安維持部隊 ヘキサフォースの初陣だ。

ド派手にかましてやりましょう!!


まずはここまで読んで頂きありがとうございます。お疲れ様でした。


ようやく鋳が主人公主人公してきまして、これからアポロン相手に頑張ってくれる展開が待っています。

よろしければお付き合い下さい。


それでは次回も皆様とお会い出来ますように。

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