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ヘキサグラム エクスチェンジ  作者: ktrb(かたりべ)
6/11

ヘキサグラム エクスチェンジ 01 妖歌姫ーセイレーン

まずはこのページを開いて下さった皆様ありがとうございます。よろしければ読んでやってください。


というわけで、前回までが導入で、ようやく今回から一章の本編が始まります。


異能力アリアリ、トンデモウェポンマシマシになる予定なのでよろしければお楽しみください。


それではまた後書きでお会い出来ますように。

08 東雲鋳(しののめしゅう)の入隊

20250206

09:45



少なくとも俺は今、動揺している。敷島(しきしま)特佐の激情も天霧暁良(あまぎりあきら)の怒りも、俺という自我が確立されてから今まで感じたことがないものだったから...


敷島特佐に拾われてからはオーダー次第で、所謂汚れ仕事も少なくない数をこなしてきた。


ただ黙々と指示に従い、この手で悪人も善人も男も女も必要であればこの手にかけてきた。


今回の部隊設立の件だって、話を聞かされても何ら感慨は湧かなかったし、ただ流れに身を任せるまま、天霧暁良が言っていた戦闘装置として使い潰されても一向に構わなかった。


けれど特佐も天霧暁良も、そんな俺の内情を見透かしたように、真っ向から否定する言葉を発した。


一つの命として、守り手として。


そんなことが俺に赦されるのか。そんなことが俺に出来るのか。


そんな漠然とした形のない不安だけが、ゆっくりと広がっていくのを感じた。


ふと、内に向けていた意識を浮上させ顔を上げると、俺の対面に座っていたリーリア・グラツカヤの虚ろな瞳がそこにはあった。


両手で包んでいたコップの中身はすでにカラになっていて、同じく虚ろな俺自身を連想させる。


なんだかそれがたまらなくなって、


「おかわり飲むか?」


そう彼女に聞いていた。彼女は何も答えない。そんなことは俺自身よく判っていることだったのに、それでも言葉にしたのは何故なのか...


テーブルにのっている少し結露が目立ち始めたオレンジジュースのボトルを手に取り、コップを支えながら中身を満たしていく。


しばらくしてから、彼女は再びコップの中身を舐め始める。


窓から差す朝の光が彼女の髪に反射して、この空間の光度が一段と明るくなるようで、ただただ綺麗だなと目を奪われた。


このままずっと見ていたいという欲求が膨らみ始めた時、二人はキッチンから帰ってきた。


「おまたせー、ごめんね。二人にしちゃって。んー、それとも私達はお邪魔だったかしらん?リーリア、可愛いでしょー。」


「そうだな。とても綺麗だ。だが、最初に彼女を保護した時はそんなこと思わなかった。何故だろうか?」


「あらら、からかうつもりがストレートに返されちゃいましたよ。特佐、シュウ君っていつもこんな感じなんですか?」


後ろについていた特佐が、戸惑いつつ口を開く。


「鋳、お前。ちゃんと異性に興味があったのか?そんな素振りは一度も...」


「...?彼女に情欲を抱いているかはわからない。ただ、彼女は綺麗だと感じていたのは事実だ。」


「そうかそうか善きかな善きかな。こりゃぁ、教育のし甲斐がありそうで何より。」


そう言って、天霧暁良は腕組みをする。


「その様子だと、話はまとまったみたいだな。」


「あぁ、天霧は了承してくれた。条件付きではあるがな。本当に無茶を言ってくれる。」


「そうか。ならば俺の直属の上官は、これから天霧暁良になるということでいいのだろうか?」


「その認識で間違いは無いが、彼女は今現在軍属では無い。階級は本来ないが、便宜上、特務大尉となるだろう。」


「ハイハイ、そーゆーことそーゆーこと。てなわけで、東雲鋳!!!」


再び空間を圧する、天霧暁良の喝破が響き渡る。

条件反射で立ち上がり、直立不動の体をとり、天霧暁良に向き直る。


「これより私、天霧暁良が貴様の上官だ!これより先、貴様の命は貴様だけのものではない!私が貴様の命を預かる!!あたら無駄に散らせる機会は金輪際無いと心得ろ!!事故犠牲などという下らん精神は邪魔だ!そこらの犬に喰わせてクソに変えてしまえ!!そんなものが必要にならぬ様、貴様を徹底的にイジめ抜き、一人前の人間として、守り手として、その足で歩いて行けるよう私が調教してやる!!

だが、思考を止めるな!!感じる心を常に持ち、それに従って引き金に指を掛け、己のエゴで引け。命を奪うのは命令や任務ではなく、貴様の意志だと知れ!いいか!!」


「了解した。天霧隊長。」


何故なのか。何なのか。この感情は。今まで感じたことのない胸に満ちていくこの熱の塊は。鼓動が脈打ち、熱の奔流が身体を飲み込んでいく。今まで閉じていた心の回路が音を立てて開放されていく。あぁ、そうか。俺は生きているんだ。


「...とまぁ、こんな感じかしら。えへへ、どうだった?...引いちゃった?」


天霧隊長は上官としてのスイッチを切り替え、頬をぽりぽりかきながら困ったような顔を見せる。


「いや、そうだな。何と言えばいいのか...うん。やる気が湧いた。」


天霧隊長の目は二・三回まばたきをした後、何が可笑しいのか笑い出した。


「アッハッハッハ、そっか。やる気が出たか!そりゃ何よりだ。」


そう言って俺の頭を乱暴に撫で付ける。


「アンタもこの寮で預かることになるから、その間ずっと天霧隊長なんて呼び方されたら疲れちゃってしょうがないし、アキラさんでもアキラでもなんでもいいわ。好きに呼びなさい。天霧隊長以外でね。いいわね、鋳!」


「了解した。アキラ。」


「よろしい。」


アキラは満足そうな顔をこちらによこし、特佐に声をかける。


「敷島特佐もこんな感じでよろしいですか?」


「あぁ、俺が言えた義理ではないのだか、コイツのことをよろしく頼む。」


そうか、確かに繋がり自体は希薄だったが、俺が目覚めてから一番長い付き合いだったのは、この敷島双一朗特佐だ。


「敷島特佐。今まで世話になった。感謝している。ありがとう。」


特佐はその顔を苦笑の形に歪め、


「バカが。俺は本当に何もしていない。礼など不要だ。」


と独りごちた。


人の暖かみが柔らかな気流になり、冬の青空へと流れていく。

まだ一日は始まったばかりだ。


俺は初めて守りたいものを手に入れることが出来たのかもしれない。その高揚感とともに、改めてアキラから手渡されたコーヒーを口に運んだ。



09 天霧暁良のお見送り

20250206

10:30



あー、やっべぇ。忘れてた。

敷島特佐と今後の予定を詰めている最中、微かに頭にひっかかっていたものがひょっこりと顔を出してきた。


「すいません、特佐。ちょっと連絡しなきゃいけない案件があって、少しだけ席を外してもいいですか?」


特佐が怪訝そうな顔をする。

まぁ、そうなるな。


「大丈夫です。流石に国家間機密事項をペラペラしゃべったりはしませんから。すぐ済みます。済んだらいいなぁ。」


「かまわない。こちらも本部に報告をいれておく。」


ありがとうございますといいながら、お風呂場へダッシュ。洗面台に置いてきぼりだった端末を起動する。


三笠(みかさ)ともり

三笠ともり

三笠ともり

三笠ともり

三笠ともり

三笠ともり

三笠ともり


着信画面一面がともりの名前で埋め尽くされている。

まぁ、そうなるな。


「電話 コール 三笠ともり ハンズフリー」


トゥル、あっ出た。


(ちょっと、アキラ!!生きてるのぉ?!大丈夫なの?どうして連絡くれないのぉ?!)


付き合い始めて3ヶ月目くらいの声が脱衣場に響く。


「ダイジョブダイジョブ。生きてまーす。ごめんね、電話取れなくて。完全に忘れていました!」


(んもぅ、ホントに心配したんだから!まぁ、いいわ。お客様はロシアからじゃなかったワケ?)


「そうねー。半分正解で半分ハズレ。リーリア絡みでお越し頂いた、私の新しい部下と上司じゃった。」


(そう、それなら少しは安心したわ。大丈夫、なのよね?)


「うん。最初はブチギレ案件かと思ったけど、話を聞いてみたらそれなりに筋は通ってる話でね、後はこっちの覚悟の問題かなーと思って正式にお引き受けすることになりました。ごめんね、詳しく話せなくて。」


(いや、それはいいんだけど。そんな仕事の話がすぐ終わるワケないし、待たせてるんじゃないの?お客さん。)


「せやった、ほんなんなら、また落ち着いたら連絡するわー」


(ナニよ。そのエセ関西弁。西の方向いてごめんなさいしなさい。)


「ホンマすまんかったー、てことでじゃーねー。」


...通話が切れる。


さて、そろそろいい時間だし、特佐のところに戻りますか。

表示された時刻は10:30をとっくに回っている。そろそろ特佐達も戻らなきゃ、後の仕事に支障が出てしまうかな...

端末をポケットに捩じ込んで脱衣場をあとにする。


レストスペースまで向かう途中で、鋳が階段から降りてきた。


「どう、アンタの部屋決まりそう?」


「そうだな。外部からの襲撃を警戒するのなら、二階の角部屋が一番状況を把握しやすい。そこにしてもらっていいだろうか?」


「オーケー。すぐに使えるように準備はしておくわ。っと、そうだ。鋳、アンタ端末持ってるでしょ?番号教えなさい。」


鋳はちょっと驚いた顔をしながら、なんの飾り気もない剥き出しの端末をポケットから取り出す。


「了解だ。」


んじゃ、こっちも。


「アドレス帳 マイプロフィール 送信」


最後に鋳の端末に向けて指をスワイプ。

よし、これで完了。


「寂しくなったら、何時でも連絡しなさい。」


鋳はしばし自分の端末を相手ににらめっこをしている。


「どったの?鋳?」


「特佐の連絡先しか登録されていなかったから、違和感というか、変な気分だ。」


「そーかい、そーかい。うんうん。これからたくさんそんな気分にさせてやるから覚悟しときなさいよー。」


何だか無性に嬉しくなって、鋳の頭をぐしゃぐしゃにしてやる。


「あぁ、よろしく頼む。」


その言葉を受けて、どちらからともなく特佐の待つレストスペースに向かう。


「すいません、特佐。お待たせしました。鋳も部屋を決めたみたいですし、明日にはこっちで正式に預からせてもらっても大丈夫ですよ。」


「了解した。こちらの報告も済み、今後の予定も固めておいた。鋳、いまの住居の引き払いはこちらでやっておく。明日には荷物をまとめてここに移って問題ない。」


「そうか。感謝する。」


その一言を受けて、敷島特佐は眼鏡を外して、大きな伸びをする。


「...なんか、敷島特佐キャラ変わってません?」


特佐は何度目かの苦笑を顔に浮かべながら


「あぁ、こちらが地だよ。作戦行動時は流石に切り替えるが、色々吹っ切れてしまった。みっともないところも見られてしまったしな。今更取り繕ってもどうにもならん。」


「いやいや、そっちの方が素敵ですよ?私、そっちの特佐の方が好きですねー。」


特佐は少々乱れてしまっていた髪を撫で付け、外していた眼鏡を掛け直す。


「そうか。ありがたく社交辞令と受け取っておこう。」


そう言いながら敷島特佐は立ち上がった。


「それでは、一旦こちらでリーリア・グラツカヤの身柄は預かっておく。安心してくれ。悪いようにはしない。簡単な検査をするだけだ。それと、君が提示した条件だが極力叶えられるよう、こちらでも動いておく。おそらくそちらの方が彼女の安全を確保出来るだろうしな。」


座ってテレビを眺めていたリーリアの方に敷島特佐は足を向けて進み、その瞳を見つめるように腰を落とした。


「リーリア・グラツカヤ。今から君の身柄を一時的に預かることになる。君の体に異常が見られないか、それを検査するためだ。一緒にその手の傷も治療させてくれ。少し窮屈な思いをするだろうが、俺に着いてきてもらえないだろうか?」


リーリアはソファーから立ち上がる。


うん。大丈夫そうだ。そう感じた瞬間、胸に切なさが充ちていって衝動的にリーリアを抱き締めてしまっていた。


「いーい、リーリア。敷島特佐の言うことちゃんと聞くのよ。あと今度はちゃんと大人しくしてること。よろしい?」


リーリアからの返事はなかったけど、私とお揃いのキンモクセイの香りが彼女の髪から漂ってきて、ようやく離れる決心がつく。


「敷島特佐、リーリアのことよろしくお願いします。あと、鋳もしっかりリーリアの王子様するのよ!わかった?」


「了解した。リーリア・グラツカヤの王子様になろう。」


鋳は馬鹿まじめな顔で返事をする。


「よく言った。明日は私の方から本部に出向するから、それまでに荷物はまとめておくこと。あと夕食は何食べたいか考えときなさい。」


「わかった。考えておく。」


うん、それじゃあ、名残惜しいけど一旦お開きだ。

三人を玄関口まで送りにいく。


特佐がこちらに向き直り、


「天霧暁良特務大尉、協力に感謝する。それと、朝食のピザトーストは旨かった。ご馳走さま。...よければ明日、こちらの予定が空けば顔を出しても構わないだろうか。いいワインがある。」


特佐は含みのない笑顔をこちらに寄越す。


「いきなり口説いてきてます?わたし、焼酎派なんです。」


「俺はそこまで器用に出来てないんでな。酒の件は考慮しよう。...それではまた明日。」


「はっ、了解しました!敷島特佐!」


とても久しぶりの敬礼を返事にする。


「敬礼はいらんよ。天霧隊長。」


振り返らずにリーリアの手を引きながら特佐は扉を閉めた。



......自分しかいない空間に静寂が満ちてゆく。

あぁ、やっぱりこの寮は自分だけでは広すぎるなぁ。

もしかしてホームシックかしら?


「さぁて、これから忙しくなるぞぅ!」


胸の中の寂しさをほっぽり投げるように言葉にする。


さて、まずは洗い物して次に鋳の部屋の掃除かな。その後はバイクで海岸線でもブッ飛ばせば多少は気も紛れるでしょう!


まだまだ一日は始まったばかりだ。しっかりオフを満喫せねば。

そう思い直してキッチンへと足を踏み出した。

ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。お疲れ様でした。


さて、次回から本格的に謎の双子達が好き勝手に暴れ始めます。


なるべく早めの投稿を目指しますのでよろしければ次もお付き合いください。


それではまた次回もお会い出来ますように。

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