ヘキサグラム エクスチェンジ 01 皇換者-エクスチェンジャー Ⅱ
まず気まぐれにこの作品のページを開いて下さった皆様に感謝を。ありがとうございます。
さて、二回目の投稿です。構想的には漸く物語の導入部の折り返しといったところになります。
地の分多過ぎじゃね?バトル無さすぎじゃね?出てきたキャラ大体社会人じゃね?という感じではございますが、皆様もう少しのご辛抱を。
ここから物語の核となる少年少女たちが動き出します。おっぱいおっきいお姉さんも色々頑張ってくれるはずです。
未だに未熟かつ粗削りな作品ではありますが、気が向いたら読んでやって下さい。
皆様に後書きでまたお会い出来ればいいなぁ...
それではお楽しみください。
02 ヘパイストスの早朝ランニング
20250206
ひどく甘ったるくて焦げ付いた匂いが鼻の奥に抜ける。ボディースーツの上からでも容赦なく肌を炙っていく炎は、まるで鎌首をもたげた蛇の舌みたいだ。
-------------ノイズが走る
「なんだ、お前喋れねぇのか。まぁ、いいや。っていうかこんなガキを前線に立たせるとか、上はナニ考えてんのかねぇ。いよいよ狂ってますねぇ。」
-------------ノイズが走る
「お前、名前は?って聞いても喋れねぇんじゃな...。そうだ、ドッグタグ見せてみ!ダイジョブダイジョブ。怖くない、怖くない。」
-------------何度も
「うぇっ、お前こんなクッソ不味いレーションよく顔色変えずにモサモサ食えるな?コレやるから、こっち食えこっち!只でさえ、お前ちびっこいんだから、ガキらしくこーゆーので栄養とれよ。」
-------------何度も
「あぁ、ドジっちまったなぁ。こんなコトになるんだったら出てくる前に娼館行っとくんだった...クッソ、どーしてこう世の中はままならねぇのかねぇ...まぁ、いいや。」
-------------あつくて
「お前みたいなガキを死なせちまったらアイツにスゲェ怒られるだろうしな。そっちの方が怖ェわ。とっとと戻って救援呼んできてくれ。あと、メシはしっかり食っとけよ。...あと...そうだな......あーアレだ。こんなクソみたいな世の中でも...きっとどっかに救いの手ってのは...あると思うんだよ...だからな、」
-------------くるしくて
-------------ひっしにてをのばす
-------------でも、みぎてをのこしてからだはぐるぐるまきで
-------------そのてをつかまえられなくて
端末のバイブ音で目を覚ます。夢を見ていた...気がする。朝食の前にいつものルーチン。脱ぎっぱなしだったジャージを履いて、こっちにきてから買った安物のランニングシューズも。
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この街の目覚めはとても早いみたいだ。この時期でもあっちと比較して冷え込みはマシな方だし、ちょっと走り出すだけで体の芯に火が灯るのが実感出来る。少し周りの気配を探るだけで、何人か同じ目的の人たちもちらほら。
潮の匂いが濃い朝の空気を鼻から吸い込み、黙々と走る、走る。何も考えなくて済むし、自分の体のチェックとメンテナンスにはコレが一番合理的だ。
汗が頬をつたって雫を作るくらいになった時、視界にこちらへ走ってくる女性のシルエットが像を結ぶ。
相手も同様だったようでどちらからともなく目を合わせて会釈をして交差する。ふいに後ろから
「あー、ねぇ、キミ。ここら辺にコンビニってないかな。私こっちに越してきたばっかりで、まだ土地勘無くって。」
へへ、とはにかみながら頬をかく長身の女性。きっと普段から走り込んでいることは、均整のとれたプロポーションから見てとれる。その場で足踏みしながら、
「んと、俺も父の転勤でこっちにきてからすぐなのでよくわかんないです。ウチの近所にはありますけど、ここからだと大分距離ありますよ。」
「んー、そっか。ありがと。お互い新参者同士みたいだし仕方ないやね。キミ、若いのにこの時間から走り込みなんて感心感心。もしかしたらこれから顔を合わせる機会が多くなるかもね。お姉さんにはそんな気がする。」
「はぁ。」
あまりこの街で顔を覚えられると任務の障害になるかもしれない。明日からは時間をずらそう。
「まぁ、真っ直ぐ走ってけば何かしら見つかるでしょう!ゴメンねー、邪魔しちゃって。ありがと。キミも水分補給は小マメにね。」
そう言って彼女は走り出す。
風にのせて、彼女の束ねた髪から汗とほのかにキンモクセイの匂いが香り鼻腔をくすぐる。
「あのっ、ここから2つ目の角を左に行けば自販機があります。」
「そっ。うん。ありがとう。キミいいヤツだ。またねー。」
ニッ、といたずらっぽい笑みを返して、彼女は振り返らずに走っていった。
...なんで俺はあんな余計な事を言ってしまったのか。そんな疑問を置き去りにして、俺はまた走り出した。
彼女が語った"そんな気がする"というなんとなくの勘が、俺の予想しない形で現実になるまでに然程時間はかからなかった。
03 天霧暁良と少年少女
20250206
「さて、なかなかの好少年であった。顔立ちは悪くないケド、前髪がちょーっと鬱陶しかったかなぁ。アレじゃ、どこぞの目玉のおっさん家の息子君じゃない。そっか、もし次に彼に会うことがあれば、その時は名前を聞こう。それまで彼の名前はキタロー(仮)にしておこう。」
そんなコトを呟きながら、私の新しい新居に帰宅。ただいまもどりましたっと。
一人で暮らすには些か広すぎる、この新築の隊員寮の寮母というのが私の新しいお仕事の一つ目らしい。
......といっても、詳細な内容は明日に来る迎えの車内で聞かされることになるだろうし、それまでは新居周りの散策と偵察かな。...っとその前にシャワーで汗を流すとしましょう。
さてさて、お風呂お風呂。一応、大浴場もあるみたいだけど、汗を流してさっぱりする分には管理人部屋のシャワーで十分かな。
玄関の鍵を開け...開いてる。アレ、閉め忘れたか。あちゃー。我ながらなんて凡ミス。まぁ、こういう時もあるさね。ピッキングの形跡もないし、金目のモノ目当てのコソ泥ってコトも無いでしょう。
中に入りロビーを一応確認。
すると、出てくる時につけっぱなしにしてたレストスペースのテレビの前に気配がある。感知出来る範囲で気配は一つか。こりゃ、お仕事モードに切り替えた方がいっか。
......体を屈めて状況確認。気配を殺す。呼吸を限りなく細く、深く。視界は広くとって、自分を含めた俯瞰図を頭の中に。よし、走ってきて正解だ。体も問題ない。
対象まで大体5メートル。いつものグロックは部屋の中だけど。そも、コソドロ相手ならどうにでもなるか。
よーし、GOGOGO!
対象はこちらに気付いていない。------------- 一歩。
対象を目視で確認。------------- 二歩。
アレ、何?女の子?------------- 三歩。
本能的にブレーキが掛かって加速のかかった感覚と肉体にストップサイン。その場で足を止める。
ざっと見たところ刃物の類いは持ってないし、何よりテレビから垂れ流される朝のニュース番組を凝視したまま、こちらに何の反応も示していない。まるで人形の様に。
...っていうか、体つきと髪の長さから女の子と判断したものの、着ている服は病院で検査を受ける時のアレだ...あのポンチョみたいなヤツ一枚っていうのはどうにも怪しいけど。
「テレビ、おもしろい?」
試しに声をかけてみる。
彼女は首をこちらにかしげ、その赤みがかった瞳をこちらに向けるが、それだけだった。
言葉も、意思も、彼女の中の時間さえも全て止まったまま。ただこちらに体を向けるだけだった。
......エクスチェンジャーか。今までの特安での経験が即座に判断を下す。それも多分まだステージ1だ。
.......さて、確かめてみますかね。
テレビの対面にある備え付けのソファーに腰を埋める。
「ほら、そんなとこ立ってないで、こっちに座って落ち着いて見れば?」
彼女は頷きもせず、トコトコと足音を立てて、私の隣にその華奢な体を預ける。...これはもう間違いない。
服を通して感じた彼女の体は氷の様に冷えきっていて、私にはそれが何だか酷く我慢ならなくて、
「これから私お風呂入りに行くから、アナタも一緒に入りなさい!いい、コレは命令です!あったかい湯船に浸かって体をポカポカに温めるの!そんでその後に、美味しい朝ごはん作ったげるからそれもしっかり食べなさい。コレも命令‼」
思わずソファーから立ち上がり、言ってしまっていた。まぁ、なんとでもなるか。お風呂沸かしてこなきゃ......
彼女は再びテレビからこちらに視線を向け、ソファーから立ち上がり、体の正面を向けてくる。
「いい、そこで座って待ってなさい。お風呂入れてくるから。」
大浴場の湯船にお湯を張りに行き、帰りがけにジャージからチャリチャリとなる金属音を確める。ポケットの中の小銭を取りだし、階段下の自販機へ。ラインナップは未確認だけど、この季節ならホットココアあたりが無いなんてことはないだろう。......ほらあった。
硬いスチール缶から指先へとじんわりと昇ってくる暖かさを感じながら、タブを開けたココアをテレビの前で微動だにしない彼女の両手に握らせて、それを自分の両手で包み込む。
冷たさと共に伝わるガサという違和感。まるで枯れ木のようだ、と感じ視線を移すと、白磁の様な滑らかな曲線に引かれた、対照的な赤黒い傷痕が幾つも。形の良い爪には何本かの変色してしまった針を思わせる黒い筋。
思わず鳴らしそうにになった舌打ちを飲み込み、
「テレビでも眺めながらコレ飲んで待ってなさい。とっても甘くて暖まるから。」
そう言って、砂金から紡いだ様なきめ細かいプラチナブロンドに手をのせ優しく撫でる。
彼女の表情は変わらない。自分に向けられた憐憫も、その指先に伝わる筈の温もりも、今の彼女には知覚する事が出来ないのだ。
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エクスチェンジャーと呼ばれる彼女達には、症状というか能力の段階があることが近年明らかになった。
先ずなにを以てして、彼女達が能力に目覚める切っ掛けになるかは、未だに明らかにされてはいないが、少なくとも3つの共通点が存在する。
一つ、全世界6ヶ所の特区に於いて自然受胎された新生児であること
二つ、能力に目覚めるのは11歳から15歳までの5年の期間であること
三つ、能力の発現に伴う感情及び自我の喪失 人間性の欠如
エクスチェンジャー個々人により発現する能力に差異は認められるものの、以上三つの条件は必ず共通しており、この3つ目の【人間性を対価として人ならざる力を得る】というところから【交換者=エクスチェンジャー】と呼称される様になる。
そしてその初期段階であるステージ1では、これまた特徴がある。
自身に向けられた敵意や殺意に反応する自己保存的な自立防御としての能力行使。
自発的な行動は不可能だが、他者からの指示命令を絶対順守する、インプットとアウトプット。
前者には、敵意殺意に比例して行使される能力の出力が変動するといった研究結果も確認され、エクスチェンジャーに対応するためのメソッドは、徐々に形になっていった。
問題になったのは後者の特徴であり、インプットとアウトプットは、個人の人格や嗜好といったフィルターに左右されず実行される為、的確な教育と指導があれば、極めて高効率高純度での技術の習得が可能とされた。
その技術には体術や銃火器の扱いも含まれている。高次元での戦闘技術を身に着けたローコストで運用可能な、命令には絶対服従の物言わぬ少年兵。
それに可能性を見出そうとする腐れ戦争屋や政治家も少なからずいたが、数を揃えられないという致命的な欠陥に気づくや否や、エクスチェンジャーを対象とした人身ブローカー紛いのクソ共もなりを潜めていった。
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お風呂が沸いたのか、何処かで聞いたことのある電子音が鳴り響く。確か、バッハの【主よ、人の望みの喜びよ】だったっけ。
「ほら、お風呂沸いたってさ。お待たせしました。お嬢様。」
そう言って顔を向けると、彼女はちびちびとココアを飲んでいた手を止めて、何かを探すように顔を上げていた。顔は変わらず無表情だったけど、そこには今まで見られなかった色彩の変化というか、周りを取り巻く空気そのものが変わったように思えて、さっきの鬱々とした気分は少しマシになっていく。
「何だい?このメロディがお気に入りかい?そうかそうか。これはお風呂入った時の鼻歌に決まりですね。」
彼女の手を握って、
「さぁ、お風呂入ろっか!温まるぞー。お風呂はこっちだからついてきなさい。」
変わらず一定のトテトテペタペタという足音を横に聞きながら、大浴場へと足を進める。
握られた掌から伝わる力が心なしか強くなった様な気がして、お風呂に入る前の体に心地好い暖かさが広がっていく。その暖かみにつられたせいで、少し口元が弛んでしまった。
ハイ、という訳でね、出てきましたね。謎の美少女。
と言っても、まだ一言もしゃべってくれないし、笑顔も見せてはくれません。キャラ自体も断片的な情報だけでまだ全体像がボヤけてますが、次の投稿でそこら辺はしっかり描写するつもりでございます。
ハイ、謎の湯けむりの中、お姉さんがねっとりと彼女の肢体をつまびらかに実況してくれるハズなので。
へパ君もそろそろ主人公の一人としてカッコ良く描写していく予定です。
長くなりましたが、ここまでお付き合い頂いて、ホントにホントにありがとうございます。もし、この作品を少しでも楽しんで頂けたならとても幸いです。
今週中には後1、2回、更新していく予定です。ですので見かけたら手にとって頂ければと思っています。
それでは次も皆様にお会い出来ますように。