ヘキサグラム エクスチェンジ 01 妖歌姫ーセイレーン Ⅵ
まずはこのページを開いて下さった皆様、ありがとうございます。よろしければ読んでやって下さい。
この投稿からしばらくはバトル描写が続いていきます。萌え要素はあまり...ハイ、なるべく入れられるよう頑張りたいです!
ちなみになんですが、本編の騒動が終わった後にはアフターとしてしっかり各ヒロインを中心に据えたストーリーもやっていく予定になっております。よろしければお付き合いください。
それでは後書きで皆様とお会い出来ますように。
16 月蒼嬢
20250206
20:20
いつもと変わらないモニターだらけの私の私室に写し出される、天霧さんの大立回りを眺めながら、ベテ公から贈られてきたカルキナスの駆動系統の立ち上がりを端末で精査する。
うん、そろそろ頃合いだ。
カルキナスのエンジンも稼働域まで暖まったし、ノータイムで私の意識と同期させられる。
正直、現実で私の意識がリンクしたカルキナスが木っ端微塵にされてしまった時、果たして私はちゃんとこの身体に帰ってこれるのか...
もしかしたらそのまま電子の海に私という自我は拡散して戻ってこれないんじゃないか...
そんな不安が無いって言えばウソになる。
でもこんな異能を得るには相応のリスクが必要になるなんてことは私としては納得済みの話だ。
そもそも世の中には相応以上の努力をしたって得られる結果がそれに満たない、なんてコトはザラにあるし、ノーリスクで得られた力があるとして、それで勝ち取ったモノに私は何の魅力も感じない。
私が身に付けた異能は電子の海では確かにチートそのものだ。だからこそ、その対価から目を背けちゃいけないんだと思う。
自己満足なのはわかってる。地道な努力や影に隠れた特訓みたいなものは古臭いし、可能なら誰もが避けて通りたいって思うのもわかる。
それでもやっぱり、それなりの対価を支払って手に入れたモノにこそ、ホントの価値が見つかるんじゃないかって私は考えちゃうんだ。だから、昔の人達が頑張って造り上げてきたこの世界が私は大好きなんだ。
だから私はもっとこの世界の在り様を知りたいと思ったし、だからベテルギウスの提案に乗ってみた。
あの人が言う、この世界のテクスチャーの裏側を見てみたいと思ってしまった。
...うん。自分の心に整理がついた。これなら陽兄ぃとしっかり肩を並ばせるコトが出来る!
私の身体の中心にある意識の核に触れる。
とくんとくんとくん
今ここに私の身体そのものを対価にして自身の変性を遂げるための祝詞を紡いでいく。
私が射たのは愛する貴方
血濡れの矢尻をこの手に握り
想いよ届けとこの身を捧ぐ
コード アルテミス
[励起]
然るべき対価を捧げた当然の帰結、正しく此処に月の女神は舞い降りる。静けき月光をその身に宿し、電子の海に浮かぶ虚像の満月。
月蒼嬢の意識をその身に宿し、機械仕掛けの巨蟹の眼孔に意志が宿る。
私の意識が浮上する。
電脳に直接表示される武装リスト。
二本の大型マニュピレーターに懸架されたグレネードランチャーが二門。マニュピレーター内蔵の対人機銃が各二門。ボディーを支える四対の機動用独立稼働肢には対装甲破砕ブレード。ボディー底面には旋回砲が一基。
試運転がてら、右腕部グレネードランチャーを手ごろな距離にあったワンボックスに向けてぶっぱなす。
派手な轟音と共にワンボックスが業火に包まれる。
その影から天霧さんの姿が突如現れて、一っ跳びで10メートル以上距離をとるのを確認して、剥き出しになった私の本能が喜びに任せて大きな声を上げた。
『お待たせしましたー、天霧さん!!』
『コレが私の奥の手ですッッッッ!!!!』
17 再戦
20250206
20:15
天霧暁良とアルテミスの駆るカルキナスが地上で対峙するその少し前、東雲鋳は最上階へと続く非常階段を駆け抜けていた。
正確には、階段の補強に使われていた鉄材に己が異能である磁性を付与しながらその反発力を利用し、階段を翔け抜けていた。
階段を翔け上がる鋳の脳裏にいくつもの情景が浮かんでは消えていく。
射し込む朝日の中でコップを傾ける物言わぬ少女の姿
項垂れる自分を殴り付け喝破を飛ばす上官の姿
倒れ伏した身で最後に垣間見た紅蓮の長髪の男の影
その全てからもたらされる感情の波は、今まで鋳が感じたことのない色彩をその心に落とし、踏み出した足により一層の活力を与えていた。
俺の意思で、俺の意志で。アキラはそう言った。俺自身が戦うための理由。
今ならあの時アキラが言っていた言葉の意味が本当の意味で理解出来る。
俺が今、心の底から欲しているもの。
暖かい陽だまりの中にリーリアがいる。彼女を中心にアキラや敷島特佐、ドクがいて、その輪の中でリーリアが声を上げて笑ったり怒ったり、そんな未来を俺は見たいんだ。
一息で最上階まで翔け昇る。
ここから先の階段が無いことを確かめて、一番近い位置にある飾り気のないドアを開いていく。
そこには、赤銅色の身体から肉眼でも見てとれる熱気を纏った半裸の男の姿があった。
視線の先にいるアポロンが俺の姿を捉え、喜悦を含んだ声を打ちっぱなしコンクリートに反響させる。
「...待ってた。ずっと待ってたんですよ!ヘパ君!!この何日間かはずっと、この瞬間を夢見て、日夜暗躍に励んでいたんです!!」
「そうか、ご苦労なことだな。だが今、お前の苦労話に付き合ってる暇は無い。リーリアを返してもらう。彼女は何処だ...」
「んー、俺達は過程を求めてて、ヘパ君達は結果を求めてる。なんたる対立構造!アンビバレンツ!!」
アポロンは天を仰ぐように、その鞭のような両手を広げる。
「お前と対立する事に何の抵抗も感じない。とっととリーリアのところまで案内しろ。」
「了解でありまっす!!って言っても、案内する程のコトでもないざんす。丁度、この部屋の真下。そこで彼女は絶賛おねんね中です!たーだーしー、マイシスターが突貫工事で設定してくれたパスコードを入力しないとお姫様をお持ち帰りするコトは出来ません!!パスコードは俺の脳味噌の中にあるので、無理矢理聞き出して下さい!以上!!説明おわり!!」
「そこまでして、お前が俺に執着する理由はなんだ...」
「そんなもんは闘りあってるウチにきっと明らかになっていくハズです!それよりー、俺達が心おきなく暴れるにはココじゃちょっと狭すぎるので着いてきてくださいな!」
言うや否や、アポロンは扉を開け放ち、俺が上がってきた反対方向に駆けていく。そこには屋上に続く階段があり、アポロンに続いて俺も駆けていく。
階段の先にある屋上への扉を開ける。
その先で、アポロンは月光をその背に背負い、総身から闘気と熱波を立ち昇らせて俺を待ち構えていた。
横殴りで肌を刺す冷たさの風の中で、その長髪をなびかせながらアポロンは視線を俺に向ける。
「ここなら、リーリアちゃんも安全なハズです!出し惜しみ無しの真剣勝負を目一杯楽しめます!!」
「いいだろう、お望み通り全力で闘ってやる。何より汚名返上といきたいんでな。まずはお前の顔面を全力でブン殴るところがスタートラインだ。」
「いひっ!楽しみです!!」
対峙したアポロンとの距離は目算で5メートル。
励起する余裕はお互いに無い至近距離
初動からの奇襲は見込めない
ならば、先ずはお望みどおり正面からの殴り合いか...
相対するアポロンの容貌に常に張り付けられていた笑みは既にそこには存在しなかった。
彼我を隔てる空間が互いの闘志で張り詰めていく。
瞬間、地上からの衝撃と轟音
互いに足を蹴りだし、床を踏み抜きながら拳を振り下ろす。
俺の拳が
ヤツの拳が
ヤツの顔面に
俺の脇腹に
同じタイミングでめり込んでいく。
「ぐうっッ!」
「ギィあっ!」
先ずは一発。だが、まだあの時の借りには全然足らない!
殴って殴られた衝撃で互いの距離にスペースが生まれる。
逃さん!
その場で足を止めて互いに殴り、蹴り、掴み、相手の意識の外から身体の内側に届くようにと打撃の雨を降らせつづける。
拳が擦過した箇所から血が滲み、打撃を受けた箇所が熱を持ち始める。
幾度かの攻防の糸間にヤツの血がその目に入り、数瞬の隙が生まれた。
磁性を纏った右足を床の内部に存在する補強材と反発させ、必殺のタイミングと速度でアポロンの顎目掛けて廻し蹴りを見舞う!
「ッオオオああぁっ!!」
あの時の無念と悔恨を乗せた足刀がアポロンの顎を打ち据える。
衝撃で3メートル程アポロンが吹っ飛び、途切れた意識を回復させたのか、片手をつき三本の足で衝撃を分散させながらその場に止まる。
まだ終わらない。息を止め、短く吐く。
「っふぅー。コレであの時の借りは返せたか...」
「いやーあ、いい蹴りでしたねー!!まだアゴがガクガクしてますし、足もセットでガクガクですよ!!」
ダメージを与えたはずのアポロンの顔に狂暴な笑みが現れる。
口元の血を指で拭い、舌先で舐める。
「うん、美味しー!これこそ闘争の味です!!よーし、俺もエンジン入れちゃうぞっ!!」
刹那、屋上の冷気すら霧散させる程の熱波を纏ったアポロンが眼前に迫る。
疾い!?
その場で跳び、後ろ廻し蹴りのモーションに入るのを予測した身体が、右腕を盾にしながら衝撃に備える。
...が、空気中の酸素の燃焼を推力にした一撃が、ガードを潰しながら俺の身体に炸裂する。
「がアッっ!!」
意識を切るな!押しきられる!
咄嗟にアポロンの金属製のバックルを磁性で引き寄せ掴み、蹴りの衝撃をそのままに裏投げに無理矢理もっていく。
「ッグウぅ!」
延髄を強かに打ち付けたアポロンの口から苦悶の声が漏れる。
互いに被ったダメージはおよそ互角か...
同時に頭を振りながら態勢を立て直す。
「なんですか?!そのガッツ!あの時のヘパ君だったらもうとっくにオネンネでしょう?キャラ変わっちゃったんです?!」
「あぁ、変わったさ!おっかない上官にブン殴られて説教されてな...あの時の一撃の方が今の10倍は足にきた。昼間の俺と一緒だと思ったら、お前は即座に負けるぞ。」
精一杯の強がりを吐く。
みっともなくとも、不様であろうと、何度でも何度でも立ち上がって前に進む。
「そうだ!俺は変われたんだ!コード ヘパイストスとしてではなく、東雲鋳として!!リーリアが!アキラが!敷島特佐が!ドクが!俺を変えてくれたんだ!!だから!」
目の前にいるアポロンに向き直る。
対したアポロンが目を丸くして、その瞳の中に光が宿るのがわかった。
「そうか、それです、それなんです!!きっと!俺がずっと探していたモノは!!ヘパ君...じゃない!鋳クンを変えてくれたモノが!俺も欲しかった!羨ましかったんだ。俺の横にはずっと魅月ちゃんがいてくれた!それで十分だって!勝手に世界をそこで閉じて、それでも俺の中ではそれ以上の拡がりを求めていた!だから鋳クンに魅かれたんだ!!」
赤銅の緋陽刄は満天の空に浮かぶ蒼月に向かって吼える。
「コレだ!!見つかったんだ!!!魅月ちゃんッ!!!!」
その様子を俺はただ黙って見ていた。ダメージの回復のためとかそういうことではなく、ただ漠然とコイツの在り方が以前の俺とダブって見えて...
「そうか、良かったな。」
皮肉ではなく、心から、目の前にいる男に向けて声をかけていた。
ふいに意識を戻し、こちらに向き直ったアポロンの瞳から一筋の涙が、月光を飲み込みながら落ちていく。
「あり?コレは?!なんじゃこりゃぁ!!なんだかとっても苦しくて止まりませんよ!?お久しぶりデス!!涙さん!」
そうか、涙か。目覚めてから今まで俺は涙を流すことがあったのだろうか...多分ないはずだ。
「なぁ、アポロン...お前...名前は?」
溢れる涙をその手で拭いながらアポロンが応える。
「八雲...八雲陽臣!!です!!以後お見知りおきを!!!」
「......東雲鋳だ...」
「知ってます!」
涙を完全に拭いさった八雲陽臣の顔は、今まで張り付けていた笑顔のどれとも違う彩りがあった。
「まだ、満足はしていないのか...?」
「あとちょっと...まだお互いに全力出してないじゃないですか?!そこまでいけたら俺は絶対に満足すること請け合いです!!」
八雲陽臣はこの先にある異能の衝突が最後の望みだと言った。
昔の俺ならそんなものは捨て置くはずなのだろう。
だが人の暖かみに触れて、自分の写しみの慟哭に触れて、今の俺はそれに最後まで付き合いたいと思っていた。
ならば最後まで付き合ってやる。
俺の中の意志が命じるままに、この決着をつけるべく鋳鉄鎚の胎動がこの身に熱を注ぎ込んでいった。
まず始めに、ここまで読んで頂きありがとうございます。お疲れ様でした。
いつの間にやら、ようやく投稿が10回を越えることが出来ました。
今のなろうのブームから完全に逸脱している未熟な作品ではありますが、それでも読んでくださっている読者の皆様の存在が励みになり、ここまで来ることが出来ました。
物語も佳境ではありますが、この先のシリーズ2シリーズ3の構想も練っておりますので、よろしければお付き合い頂ければと...
それではまた次回も皆様とお会い出来ますように。