ヘキサグラム エクスチェンジ 01 妖歌姫ーセイレーン Ⅴ
まずはこのページを開いて下さった皆様、ありがとうございます。よろしければ読んでやって下さい。
ここから先のプロットは全て完成していますので、なるべく早く皆様にお届け出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い下さい。
それでは後書きで皆様とお会い出来ますように。
14 八雲陽臣と八雲魅月
20250206
20:00
日本特区第4区画。特区内に於いて唯一、開発企業が不渡りを起こし都市開発が頓挫したまま打ち捨てられたゴーストタウン。
その薄暗い街の様相を一望出来る無人のビルの最上階。
窓から差し込む蒼白い月光にその身を晒した赤銅の影が、手にした端末相手に声を響かせる。
「ナニナニ、やられちゃったんです?!魅月ちゃん?」
(あー、まだ目がチカチカする...)
「お疲れ様です!チャン 魅月!!」
(そんな中国人しらない。それより、ちゃんとリーリアちゃんの服は乾かしてあげたんだよね?陽兄ぃ。)
「ハイ、田舎のおばあちゃん家にある冬場の石油ストーブさながら、部屋の隅っこで体育座りして、火傷させないように遠くから見守っていたんだぜ!もちろん、ワタクシ指一本触れておりません!誉めてつかーさい!」
(エライエライ。でもホント、陽兄ぃにしては気が利いてるんじゃない?ジェントルマンじゃん。)
「そりゃー、アレですよ。ヘパ君はリーリアちゃんにホの字だし?下手にちょっかいかけて、ヘパ君に嫌われたらイヤですもんね!」
(あー、あの一部始終を見ていたコチラとしてもニヤニヤが止まらなかったからねー。あの初々しいというか、ウブウブしい感じは応援してあげたくなっちゃうもんねー。それでお姫様はどんな感じ?)
「ぐっすりすやすや。スリーピングビューティーですよ!研究室にいたチョコボールお姉さんが言うには、もうすぐ覚醒しちゃうんだって!チョコっと期待してたんだけど、まだお姫様の目は覚めないんだなー、コレが!」
(覚めないなら、覚めないでイイんじゃない?てか、あの二人そろそろそっちに着くかも。私もちょっとしたらまた潜るから、陽兄ぃはこっから先は自分の力でなんとかしといてね。)
「アイ!任せて下さい魅月ちゃん!あ、でもでもヘパ君だけでもこっちに誘導してくれると嬉しいのですけんども!」
(わかった、わかった。やれるだけやってみるわ。)
「ありがとー、シスター魅月!」
(ねぇ、陽兄ぃ。)
「うん。なんだい、魅月ちゃん?」
(見つかるといいね。陽兄ぃが探してるもの。多分それは私だけじゃ、きっと見つけられないと思うから...)
「そんなコトないですよ!魅月ちゃんがいてくれなかったら、俺はもっとこう...そうアレです!世紀末救世主な感じの冷血人間になってたハズなんです!ぼかぁ、今の俺が好きですし、この世界ももっと好きになっていきたいのです!」
(うん、そんな陽兄ぃと一緒だったから、私もこの世界をありのまま受け止める事ができたのかもしんない。だから、一応言っとくよ。...ありがとね、お兄ちゃん。)
「なんですか!らしくないです!いつもみたいに、元気いっぱい夢いっぱいに俺のことコキ下ろしてくれて構わんのですよ?!」
(あーそういうコト言うんだ!陽兄ぃは!!せっかくちょっと、ほんのちょっとデレてあげたのに!!)
「そうそう、その調子ですよ、マイシスター!がんばれ、がんばれ。」
(うーし、妹ちゃんも頑張りますかね!そんじゃあ、私が下で天霧さんと。んで、陽兄ぃが上でヘパ君と。コレでおーけー?)
「ハイ、バッチコイです!!よーし、頑張るぞい!」
(そんじゃあ、そろそろ私いくね?陽兄ぃも楽しんで。)
「魅月ちゃんもあんまりムリはしないよーに。お兄ちゃん命令デス!」
(ハイハイ、わかりましたお兄ちゃん。...じゃね。)
通話が切れると同時に、海岸線沿いのハイウェイから高速でこちらに近づくヘッドライトの軌跡を確かめる。
「待ちくたびれましたぜ!!王子様!こっから先は手加減無用のガチンコ勝負。オイラを満足させておくんなせぇ!!」
言葉と共に男の影の輪郭がゆらりと崩れる。周囲の空気の層が熱を持ち陽炎を立ち上らせ、照明が一切点いていない室内を妖しい炎で照らし出す。
日本特区史上初の交換者同士による戦いの火蓋がここに切って落とされた。
15 開戦
20250206
20:10
「よーし、到着到着。ここがパーティー会場でいいのかしら?」
あちらさんから指示されていたポイントの座標にケルちゃんを停める。
見上げたそこには明かり一つ点いていない、製薬会社の本社ビルになる予定で放置された20階建て相当の建築物。
どこにリーリアはいるんだろう、と思考を巡らせ始めたタイミングで狙い済ましたようにインカムに少女の声が届く。
(ようこそおいでくださいました!ヘキサフォースの皆様方!)
「ハイハイ、お出迎えの準備はバッチリかい?妹ちゃん。」
(えぇ、そりゃーもう。といっても、私財をはたいて買ったドローンちゃん達が全滅するとは思ってなかったんで、建物内の警備は今スッカラカンです!今がチャンス!!)
「コード アルテミス。リーリアは何処にいる!」
(おぉ、ヘパ君から私に声をかけてくれるのコレが初めてだ。初めまして。コード ヘパイストス 東雲鋳クン。まぁ、そんな純情ピュアピュアなキミに朗報です!)
「朗報だと...?」
ケルちゃんから下りて、ビルを睨み付けた鋳が訝しげな声を上げる。
(そうでーす。さっきも言ったように、現在ビル内はもぬけの殻。中ボスもいなければ、トラップの類いも無い、最上階にいるボスまでの直行コース。あっでも、ボス前のセーブポイントはないから、一発勝負。パーティー編成に制限が掛かってて王子様一人しか入れないって感じかなー。よろし?)
「よろしくないわ。私もパーティーに入って、二人でボスをボコりに行くから。」
(うーん、それはお互いにとってあんまりプラスじゃないんですよねー。私達は別に目的があってリーリアちゃんを拐ったワケじゃないんですよ?ただ単純にアナタ達と遊んで満足したら、リーリアちゃんは無条件でお返しします。つまり、満足させられなかった場合は、こんな感じで何度も何度もアナタ達にちょっかいを掛け続ける...そんなめんどくさいコトになるのはお互いの為になりません。)
「...リーリアはボスのところにいるんだな?」
「そう!アホロン...じゃない。アポロンお兄様がヘパ君とタイマンするのを今か今かと待ち構えているのです!どうよ?こっちからの提案に乗ってくれないかなぁ?」
「...いいだろう。お前達の遊びに付き合ってやる。そもそも、俺だって目の前で女が拐われて、ハラワタが煮えくり返っている。」
ギリリと音を立てるグローブをパシンと打ち鳴らしながら、鋳は復讐の炎をその眼に宿らせる。
(よーし、交渉成立だ。天霧さんはどうですか?)
「そうね、乗ってあげる。正直、リーリアを取り返す以外は二の次だったし。コレでアンタ達の気が済んで大人しくなるんなら、それでいいわ。」
(ハイ、決定でーす!それじゃ、ヘパ君は緊急用の避難階段からどーぞ。そんで、天霧さんは正門前に来て下さい。天霧さん...ワタシ...待ってますから...)
それを最後にアルテミスからの通信は切れた。
私は後ろで装備品のチェックをする鋳に視線を向ける。
「...鋳、リーリアの王子様役はアンタに任せる。いい、私の部下に負け犬は必要ないわ。必ずリーリアと一緒にここまで下りて来なさい!いいわね!」
「了解した。必ずリーリアを取り返す。それと、あの時の様な無様は晒さない。あのアポロンのニヤケ面をボコボコにして地面に這いつくばらせる!」
よし、それでいい。
たった一日でここまで感情の色を見せてくれる様になった、目の前の少年の肩に組み付く。
「おーし、グッボーイグッボーイ!!そこまで啖呵切るんだったらとっとと行ってきちゃいなさい!アンタならやれる!私の分まであのヤンチャ小僧をブン殴ってきなさい!」
言いながら、組んでいない方の左手を握り拳にして鋳の眼前に掲げる。
「あぁ、行ってくる天霧隊長。」
そう返しながら鋳も右拳を突き出してきた。
拳と拳が重なって、お互いの熱がスーツ越しに獰猛な闘志を掻き立てる。
その時初めて、鋳は微かなはにかむ様な笑顔を私に寄越した。
あぁ、アンタはそんな風に笑うんだ...
鋳は振り返らずに、リーリアが待つ最上階に駆け出す。
その姿が宵闇に消えていくのを確認した私も正門に向けて歩みを進める。
正門へ進んで行くに連れて、正面玄関前に陣取っている人の気配が鮮明になっていく。
一人から始まって、二人、四人、八人...二十...三十...四十...まだまだ増えそうね。
「妹ちゃーん、聞こえるー?!このヒトたちはなんなのよ?」
試しに私の姿を何処かで見ているだろうアルテミスに聞いてみる。
(あぁ、彼らは目先のマニーに眼が眩んだ、自分の腕に絶対の自信を持ってるイキリ倒すのが人生の生き甲斐の精鋭クン達です!私の奥の手があったまるまでの肉壁として、お越し下さいました!)
「うーん、もうちょっとどうにかなんなかったのかしら...まぁ、いいわ。軽くひねってあげましょう。案ずるな、命までは奪わぬ。」
グローブ越しの拳をパキパキ。万が一があっちゃマズいので、アームパーツのセンサーをオフにして...
伸脚。屈伸。前屈。肩を回して、地面をトントン。
(やっば、天霧さんカッコいい...惚れちゃうかも...)
そうこうしているウチに、最初のモブ君達と御対面。
『あぁぁ、ナンすか?おねぇちゃん...そんな、エッチなカッコしてぇ?自分らココで今からドンパチやるって召集受けててェ...アンタみたいな女子供はお呼びじゃねぇって感じナンすよ...それともナンすか?そのエッチなからだでご奉仕して...』
最後まで言わせずに鼻っ柱に一発 どーん。極力、加減しないと相手がこわれちゃう。
ぷぎゅる。
そんなかわいらしい悲鳴を残してモブ君1は奥でたむろしていた集団にゴロゴロ転がっていく。
こんだけいると流石に面倒だ。散らしちゃった方がいいかな。
あんまりビビらせ過ぎても可哀想だし、一回全力を見せとけば何割かは減ってくれるでしょう!
「そこで無軌道なエネルギーを有り余らせて、夜の街を住みかにしている自称腕自慢クンたち!ここから先のドンパチは自己責任です!私は極力手加減するけど、自分の身の回り安全は自分たちでどうにかしなさい!!」
結構な大声を出した私に視線が集まる。
よし、このタイミングで
両足に力を入れて地面を踏み砕く。周囲10メートルくらいにアスファルトのつぶてが拡散して跳んでいって、何人かの顔や土手っ腹にめり込んで行く。
『ひぇっ』『ぐべっ』『げぇっ』...うーん、痛そう。
『ナンだ、このアマァ!?』『やんのか、オラァン!?』
それなりに後ろに控えていたモブ君達が元気いっぱいに騒ぎ出す。
「グダグダ喚いてないでかかってきな、ドサンピン共!!ケツまくって逃げても追っかけないから、安心しなさい!!」
いつまでたっても凄むだけで掛かってて来ないモブ達にしびれを切らして、こっちから集団の一角に飛び込んで行く。
チェーンを振り回すモブにビンタをかまして吹っ飛ばし、
ナイフで突っ込んでくるモブを殴り倒して吹っ飛ばし、
襟首をつかもうとしてるモブに足ばらいをかけて吹っ飛ばし、
素手で殴りかかってくる男気溢れたモブを蹴り倒す。
その様子を遠巻きに眺めていた一団の表情に困惑の表情を見つけ、
「オイ、そこのアンタ達!!ココでノビてる連中抱えてどっかに消えなさい!!10秒あげるわ!じゅーう、きゅーう、はーち」
後ろから殴りかかってきた釘バットを掴んで握り潰す。
「ろーく、ごー、早くしなさい!ハナタレども!!!」
ようやくモブ君たちが動きだす。
残りは半分くらいか。
まぁこの調子でパニックが広がれば、みんなちりぢりに逃げて行ってくれるでしょう。
「あー、次はそっちの君たちかな?!」
わざとおっかない顔をして、別の集団を睨み付けて五割の力で走っていくと蜘蛛の子を散らす様にモブ君たちは我先に逃げて行く。
よしよしアタマは悪くてもかしこい子達だ。
コレで大方片付いたかな?
モブ君達が乗り入れたであろう、ワンボックスカーの前に立つ。
「えー、まだ幸運にも五体満足で残っている選ばれし実力者達よ!!君たちの健闘を讃えて、私自ら全力で君たちの体を壊しにいこうと思う!!コレからこの車をぶっ潰す。その間は私はアンタ達を追いかけないから、どうするかは好きにしなさい!!」
言いながら、抜き手でスライドドアをブチ破って、そのまま引きちぎる。
ようやくその意味を理解した精鋭達もその場から走って逃げていった。
...あの子達で最後みたいだ。なんだか可哀想になっちゃったな。
正面玄関に然るべき静寂が戻る。
腕に引っかかっていたスライドドアを引き抜き、車体に立てかけようと近づいて...
腹の底を揺らす衝撃と轟音と共にワンボックスは紅蓮の炎に包まれた。
何だ?グレネード!?ヤバい!
不快な黒煙を上げ始めた車体から全力で跳びすさる。
『お待たせしましたー、天霧さん!!』
先程から耳元で聞いていた少女の声が、衝撃で全てのガラスが粉々となった正面玄関から冬の寒空に反響する。
『コレが』
闇の底から対するモノを喰らい尽くさんとする獰猛な駆動音
『私の』
眼下のモノを一切合切踏み砕く暴力の具現
『奥の手ですッッッッ!!!!』
果たして現れる深紅の異形 戦場で数多の屍の上に君臨し続けた鋼鉄の巨蟹
月の女神の不可視の糸に繰られ縛られ使役される
[多脚型殲滅機動システム カルキノス]が蒼白く輝く月の下、暴虐の叫びと共に機動した。
まずはここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
今までちょっとだけ匂わせてきた、暁良のゴリラパゥワが本格的に発揮されるのは次回以降になります。合わせてアポロンと鋳のガチンコ異能力バトルもしっかり、なるべく燃えの精神を大事に描きたいと考えていますので、よろしければ次もお付き合い下さい。
それでは、また次回も皆様にお会い出来ますように。