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ポーション屋の日常  作者: 光晴さん


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第46話 英雄たちの決断



ハブールの町中ではディリタニア軍が大混乱に陥っていた。

戦況はディリタニア軍が優勢だった。だから、双剣を下がらせ名だたる猛者を下がらせディリタニア軍の精鋭のみで市街戦をしていたのに……。


ハブールの町の南門の外には、ディリタニア軍とニルベルン軍の簡易テントが並び、その中でも一際大きなテントには護衛兵士が出入り口の両脇に立ち、中には両軍の偉い人たちが集っていた。


「伝令! 東側に進出していた三部隊の全滅を確認! 全員石にされたようです」


「伝令! 西側に進出していた七部隊が脱出時魔物と遭遇、現在交戦中ですがすでに四部隊が石化され苦戦中です!」


「伝令! 北側へ進出していた部隊が撤退中に魔物と遭遇、四部隊が無事に帰還しましたが残り六部隊が石にされました!」


「ぐぬぬぬ……」


ディリタニア軍総司令官のアルバコーン侯爵は、顔を真っ赤にして怒りに震えていた。

それはこの戦いが勝ち戦だと考えていたからだ。

我がディリタニア軍は精鋭で、負けることはない最強であるという自惚れから来るものだったが、アルバコーンは疑いすら持ってなかった。


ニルベルン王国との同盟の話し合いから横やりを入れて、せっかくこの総司令の地位を手に入れたのに……。

戦争で勝利を導いた侯爵、歴史に名が残るはずだった。


しかし、今の現状では歴史に名が残るどころか自分の身も危ない……。

では、どうするのか?



「………撤退だ」


「司令?」


「撤退だ! ハブールの町を放棄し撤退する! 準備を急がせろ!」


「「「は、はいっ!!」」」


テントに集まっていた人たちが自分の側近と一緒にテントを出て行く。

アルバコーン侯爵の側近であるニッケンは、震える司令の背中を見つめるだけだった。



撤退が決まり、ハブールの町にいる部隊は生存者たちとともに南門へと集中する。

しかし、それで魔物もいっしょに連れてきては本末転倒だ。

そこで、現在戦っている部隊を囮にして、撤退作戦が始まった。


……もはや、犠牲なしに撤退することすら難しい状況だった。




▽    ▽    ▽    ▽




『ドラゴンスレイヤー』の称号を持つものは今、この男しかいない。

ランドル・グロード、ドラゴンスレイヤーとなった褒美に名字を得て貴族となった男だ。

爵位は一代貴族の男爵だが、国王のお気に入りの1人だ。


今回の戦争にも国王からの頼みで参加していたが、アルバコーン侯爵がハブール戦はディリタニア軍のみで戦うと宣言したため後方待機を余儀なくされたのだ。


テントの中で、椅子に座り本を読んで時間をつぶしているとランドル付きの兵士が入ってきた。


「失礼します! ランドル様、アルバコーン総司令により撤退が宣言されました!」


「はあ?!」


ランドルは、意味が分からなかった。

あれだけハブール戦の前に、嫌みったらしくネチネチと今回の市街戦に英雄の力はいらないと言っておきながら、負け始めるとすぐに逃げ出すのか……。


「あのランドル様?」


「すまんが、どうして撤退ということになったんだ?

ハブールの市街戦に負けそうなのか?」


「いえ、市街戦は順調だったんですが………大型の魔物の出現により事態が急変。

負けどころか全滅もありえると……」


「あの、無能貴族が……」


ランドルは怒りをあらわにして、お付きの兵士をビビらせてしまう。


「他の後方待機を命じられた英雄たちは、動くのか?」


「それはわかりませんが……外の様子から動きそうですね……」


そう、ランドルのテントでも起こったことが他のテントでも起こっており、アルバコーンによって後方待機を命じられたすべての英雄級の戦士たちが動き出したのだ。

勿論外の声を聞いたランドルも、立てかけていた自分の剣をつかむとテントを出て行く。


「ランドル様!」


そしてその後を、お付きの兵士が追いかけていくのだった。




▽    ▽    ▽    ▽




ハブールの町の南門には、撤退の命令を受けて町の中に進軍していたディリタニア軍の兵士達が殺到していた。

どの兵士も必死に町から逃げ出している。


また、町の中から時折聞こえる『コカトリス』の雄叫びを聞くたびに肩をすくませて怯えるのだ。

もはやそこには、精鋭の兵士はいなかった。


そんな中、町の外から入ってくる者たちもいた。

外へ出ようとする兵士たちを押しのけ、中へ入っていく者たち。

それはランドルを含めた、待機を命じられていた英雄級の5人だ。


『ドラゴンスレイヤー』ランドル・グロード

『双剣』の姉妹

鐘撞(かねつき)』ロッド

『冬将軍』ミリシア・カルネー


以上の五名が『コカトリス』討伐に、ハブールの町へ入っていった。

町から出てくる兵士たちは、その五人の姿を見ると諦めていた瞳に光が戻り期待をし始める。

この人たちなら、この人たちならと。



だが、このことを一番気に入らない人物がいた。


「ふざけるな! 私は撤退だといったんだ! 総司令の私が命令したんだから撤退は絶対だ!!」


「し、しかし、彼らならばハブールの町に出現した……」


「黙れ! いいから撤退を始めろ!」


「は、はい!」


アルバコーンの乗った馬車が、ハブールの町から撤退し次の町へ向かおうとしたとき、側近の兵士に止められランドルたちが動いたことを知らされたのだ。

アルバコーンは面白いわけがない、敵を甘く見ていた自分の尻拭いをやろうとしている。


「早く馬車を出せ! 次の町で軍を再編して迎え撃つ!」


アルバコーンの乗った馬車は、出発していく。

だが、それに続く馬車はなかった。

すでにアルバコーンから兵士たちも、そして支持していた貴族たちも離れ始めていた。








第46話を読んでくれてありがとう。

戦争編が長いうえに、主人公が出てこれない……。

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