第41話 砦の戦い
『怯むな! ここは絶対に死守するんだっ!!』
建設中の砦の前でニルベルン王国軍の騎士が大声をあげている。
『エルケケの町』が陥落したのが2日前、わずか半日で陥落させた勢いそのままにオーベス皇国軍は進軍を続けていた。
オーベス皇国が手に入れようと画策した『迷宮都市』は、今ある建設中の砦の少し前に別れ道があり、その道を右へ行けば『迷宮都市』への道になっている。
そして、この建設中の砦の先にはニルベルン王国の『王都』しかない。
ニルベルン軍の騎士や兵士たちが必死になるのも当たり前なのだ。
ニルベルン軍の兵士たちは『魔導銃』を必死になって撃ち続ける。
何せ、襲ってくるオーベス皇国軍の兵士は『生物』ではない。
剣と盾を持った人型の土の塊『ゴーレム兵』なのだ。
ゴーレム兵は、倒しても倒しても後から後から向かってくる。
向かってくるゴーレム兵の先には、フルアーマーを着てタワーシールドを構えたドワーフたちが10人いて、その守っている中心にエルフの女性が呪文を唱えている。
……あれこそが『囚われのゴーレムマスター』ことオーベス皇国の奴隷エルフ。
エルフとドワーフは仲が悪いといわれているが、エルフをドワーフたちが守っているとは何の冗談か……。
「ブルトー、王都への援軍要請の兵は出たのか?!」
「はい! 2時間も前に出ました!」
「レレン! あのエルフとドワーフ以外のオーベス皇国の兵が見えるか?!」
「……3人いました! エルフたちの後方20の位置です。
後は確認できません!!」
「ということは、後のオーベス皇国軍は『ハブールの町』へ向かったということか」
「隊長、ならばこちらに仕掛けたのは何故ですか?」
「おそらく時間稼ぎだろうな……。
そして、あわよくばこの砦を乗っ取る、といったところだろう……」
「なめられたものですね!」
「だが、現状は守りに徹することで手いっぱいだ。
とても反撃に出ることはできん……」
「………」
襲いかかってくるゴーレム兵たちを相手に、必死になって戦っている兵や騎士を砦の前に造った簡易テントの中から見守ることしかできない隊長は、悔しい思いを持っていた指揮棒を折ることで紛らわすしかなかった……。
▽ ▽ ▽ ▽
オーベス皇国軍本隊は、今まさに『ハブールの町』の目と鼻の先にまで迫っていた。
そして、ニルベルン王国軍は『ハブールの町』の住民をすべて非難させ、臨戦態勢で待ち構えていた。
戦力は十分、今までの負けをここで覆すと気合十分だ。
しかも、援軍である同盟国のディリタニア王国の軍も参戦した。
「これで再び撤退となれば、ニルベルン王国は終わりだ」
『ハブールの町』の中央広場で簡易テントの中にいるニルベルン王国軍の騎士団長はそうつぶやく。
それから間もなくして、ニルベルン王国の歴史に名を遺す『ハブールの死闘』が始まろうとしていた……。
ニルベルンとディリタニア、二つの軍を合わせた総勢2万対オーベス皇国軍1万との戦いの始まりである。
ハブールの町を目の前に、オーベス皇国軍は停止する。
「1時間の休憩にする! 休憩後、再び進軍するから武器の手入れなど怠らないように!」
各部隊の隊長が声をかけていく中、私は後方で魔力回復のためにポーションを腰の鞄から出し飲んでいく。
すると、側にいた同僚のキルニーが声をかけてきた。
「ジェリー、ポーション余ってない?
私、攻撃魔法主体だから、ポーションの消費が激しくって……」
「キルニー、ポーションは支給してもらえるでしょ?
昨日の町を出発する前に、補充しておかなかったの?」
「それが、ここのところの疲れで寝ちゃってて忘れてたんだよ~」
キルニーは縋るように、私の腕をつかんでくる。
これから大事な戦いが始まるっていうのに、緊張感ないんだから……。
私は腰の鞄から、魔力回復ポーションを3本取り出すとキルニーに手渡した。
「ありがとうジェリー、助かったよ~」
そう言って2本をキルニーは自分の鞄にしまい、手に持っていた1本を一気に飲み干した。
「ぷはぁ~、ポーションは相変わらずおいしくないね~」
「まったく、それよりキルニーは戦闘準備とかいいの?
私はこれからトイレを済ませてくる予定だけど……」
「あ、私も行くよ!」
私とキルニーは二人で立ち上がり、その場を離れていった。
だが、このことが後々私たちの運命を決めることになるとは思いもしなかった……。
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