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ポーション屋の日常  作者: 光晴さん
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第4話 そして誰もいなくなった



店長が何か嫌なことを思い出したのか、浮かない顔をして扉に入って行ってからこの部屋に静かな時間が過ぎていく。


聞こえるのは、私が操作するパソコンの音と座っている椅子の音ぐらいだろうか。

いや、今はプリンターの音がうるさいか……。


私は自分の持ってきた鞄から、ここへ来る前に寄ったコンビニの袋を取り出し、袋の中からまだ明けてないペットボトルのカフェオレを出した。


「……もうすぐお昼ね。

店長、今日はどんな昼食を出してくれるのかな~」


このバイトの楽しみの1つに、店長の用意してくれる昼食がある。

店長の出してくれる昼食は、1日を丸々使って1週間分の料理を作るそうだ。

そして、その料理を店長の使える魔法の1つである空間魔法の収納空間に入れておくのだとか。


しかも、その収納空間は時間が止まっているので、何時でも出来たてが食べれるとか。


「反則だよね空間魔法。

……私も使えるようにならないかな……」


私は、手に持つペットボトルのカフェオレを見ながら率直な感想をもらした。




印刷が終わり再びパソコンに向き合っていると、部屋の外から近くの小学校のチャイムが聞こえてきた。今日は日曜日だというのに学校のチャイムは休まないね。


チャイムの音に気付いて時計を見るとお昼を少し過ぎている。

私は箱庭から出てこない店長を呼びに行くため、隣の部屋のドアの前に立つ。

このドアを開けるのは久しぶりだ。


「前、開けたのはいつだっけ……」


確か半年前ぐらいか、このドアを通って箱庭に入ったのは。

あの時は何も考えずに、急な来客に急いで店長を呼びに躊躇なく入っていったっけ。

そして中の景色を見てびっくり、さらに店長が畑を耕しててびっくりしたんだった。



そんなことを思い出しながら、ドアを開けて中へ入るとそこは広大な大自然が目の前に広がる空間。

でも、今入ってきた扉の前には耕された畑があり、右手には大きなログハウスみたいな家が建っている。


畑には、何を育てているのか分からないが緑の葉っぱだけがたくさん生えていた。

おそらくこれが、店長の育てているポーションの原材料の薬草なのだろう。

薬草の生えている畑を見渡すも店長は見当たらない、ということは、あのログハウスに籠ってポーションを作っているのだろう。


あのログハウスの中には、ポーションを作っている錬金部屋なる部屋があるそうだ。

私は入ったことないけど。


「……玄関のチャイムを鳴らせば、店長気づくかな?」


ログハウスのちょっと大きな玄関にたどり着き、備え付きのチャイムを鳴らす。

すると、少しして玄関の扉が開く。


「早苗ちゃん、遅れてごめんね。

すぐに昼食にするから、中へどうぞ」


そう言って私を家の中へ招いてくれた。




まいったな、ついついポーション作りに夢中になってしまって昼食を用意するのを忘れていたよ。

早苗ちゃんがこの箱庭にまで迎えに来るはずだよ……


俺は玄関にいた早苗ちゃんを家に招き入れ、リビングに通した。

そして、椅子に座らせるとテーブルの上に今日の昼食を収納空間から取り出したのだ。

俺が料理を並べ終えると、早苗ちゃんにおしぼりを渡し席に着く。


「今日の昼食は、アルバルの店長にたくさん卵をおすそ分けしてもらってね、それを使って作った『ふわふわオムライス』だよ。

上にかかっているデミグラスソースが卵とあっておいしいはずだよ?」


「……確かに、美味しそうです。

それにこんなふわふわなオムレツ、見たことないですよ……」


早苗ちゃんが目をキラキラさせながら、フォークでふわふわ感を確かめている。

テレビの特集で見て、俺も挑戦したらおいしくできたんだよね。

ほんとにこの異世界って食に関してはすごいよ、学ぶことがたくさんあるな。


いかに俺たちのいた世界が貧しい食生活だったかが分かる。

……でも、今の食生活はこの世界だからこそのものだろう。

元の世界には元の世界の食を発展させないといけないのだろうな。


とりあえず今は、目の前の昼食をとろう。

早苗ちゃんが限界のようで、こちらを睨んでいる。


「それじゃあ食べようか?」


「「いただきます!」」



ふわふわのオムレツがライスの上に乗っているだけなのだが、フォークでオムレツを切り、ライスと一緒にデミグラスソースをつけて食べる。

こういう時は心から感謝してしまう、異世界日本に追放してくれてありがとうと……


「おいしい! やっぱり店長の料理は最高ね!」


そう言いながら早苗ちゃんは、パクパク食べていく。

その様子を見ていると、何故か俺の心は満たされていくのだ。

そして、料理屋をするのもいいかもしれないなと考えて、冷静になった時に後悔するのだ。




食事も終わり、小休止をとってから午後の仕事に就く。

午後からは注文メールを見ながら、注文されたポーションを用意し、箱詰めできるものは箱詰めして俺の収納空間にしまっておく。


1週間に一度まとめて、宅配便で発送していくのだ。

このことはネットの注文の注意事項にも書いてあるので、発送日を変えることはしない。


「店長、これが注文品と数量を印刷したものです」


早苗ちゃんが、印刷してくれた髪を受け取ろうと左腕を伸ばした時、あの呪いの腕輪が甲高い音とともに2つに割れて俺の足者とに落ちたのだ。

俺も早苗ちゃんも、呆然と足元に落ちた腕輪を見ていた。


そして、俺と早苗ちゃんの思考が戻ってきたところで、床に光る魔法陣が浮かびあがった。


「まっ、眩しい!」

手に持っていた印刷の紙を放し、両手で顔を覆う早苗ちゃん。


俺はといえば、床に現れた光る魔法陣を冷静に分析していた。

「これって、召喚魔法陣か! 何故今ごろ!?」


俺が疑問を口にした瞬間、俺と早苗ちゃんは事務所から消えたのだ。



あとには、印刷の紙が床に散らばっていた………








第4話を読んでくれてありがとうございます。

実は、この話までがプロローグとなっております。

第5話からは、主人公のいた世界でのお話となります。

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