第39話 ある新人兵士の回想
『ガアアァァッ!!』
ニルベルン王国軍の新人兵士たちが魔導銃を持って待機している後方に、突如、赤い竜が光りの中から現れた!
「レッドドラゴンだっ!!」
「に、逃げろっ!」
「バカヤロー、撃て! 撃てっ!! 撃ちまくれー!!」
突然のドラゴンの出現にパニックになる中、誰が叫んだか分からなかったが、その命令通り、その場にいた新人兵士の大半が魔導銃を乱射しながらレッドドラゴンを攻撃した。
勿論、俺も恐怖を抑え込み撃ちまくった……。
だが、魔導銃は対人戦用だ。
魔導銃の攻撃がレッドドラゴンに効くわけもなく、鬱陶しいとばかりに炎のブレスを自分の足元に吐き、それにより地面に当たった炎はそのままの威力で波紋のように周りへ広がった。
そう、攻撃をしている新人兵士全員へ炎が襲い掛かるように……。
「あちぃぃ!」
「効かねぇじゃねぇかっ!」
「あぶねぇっ!」
「ぶっ」
俺はここで意識を失った……。
貧しい村に生まれ、両親が長男以外の姉弟を町の孤児院に預けたおかげで、俺は孤児院で育った。
両親の顔を知らず、俺の姉弟は他の孤児院にバラバラに引き取られたため、俺が知っている血がつながった姉弟は『リリ姉』だけだ。
リリ姉は、8歳年上でいつも俺の面倒を見てくれたそうだ。
だが、俺が10歳になるころリリ姉は幼いころから学んでいた治癒魔法を開花させ、治癒魔法師として王国魔法師団に入団していった。
それからさらに6年後、俺は王国兵士へ道を進み今ここにいる。
そんなことを走馬灯のように思い出していると、強い衝撃を受け俺は目を覚ました。
「目、覚めたか?」
「コルブ? ……ドラゴンは?!」
「あそこだ」
コルブの向けた視線の先では、レッドドラゴンと戦っている二人の女性の姿が確認できた。
白い装備に手に持った白い剣を振るうと、空中に光の剣が出現しレッドドラゴンを串刺しにしていく。
そしてもう1人の女性は、黒い装備に手に持った黒い剣を構えると周りに全身真っ黒の剣を構えた分身が何体も出現し、レッドドラゴンを攻撃する。
「す、すげぇ……。
あの人たちの攻撃を受けるたびに、レッドドラゴンが苦しんでいる……」
俺たちの攻撃は何ともなかったのに、彼女たちの攻撃は苦しむほど効いている。
この差は何なんだろう……。
「さすが『双剣』だよな」
「『双剣』?」
「何だ、知らないのか?
ディリタニア王国から派遣された戦力の『双剣』の双子。
その戦力はドラゴンバスターに匹敵するとか言われているらしぜ」
「……そんな人たちが参戦していたのか」
『双剣』の攻撃はすごいが決め手に欠けるようで、じわじわとレッドドラゴンを弱らせてはいるが倒し切れていない。
そこに、もう1人参戦してきた。
大きな大剣を振り回し、レッドドラゴンへ傷をつけていく女騎士。
あの鎧は、ニルベルン王国の騎士団の鎧だったと思ったけど……。
「あれは、うちの騎士団長だ」
「あれが騎士団長?」
「おいおい、ニルベルンの王都で合流した時に挨拶されただろう?
……もしかして、覚えてないのか?」
「あの時は、初めての実践に緊張してて……」
「覚えておいた方がいいぞ? 世の中、女の方が強いんだ」
「あら、そんなことはないわよ?」
その時、俺たちの後ろから女性の声が聞こえ、急いで振り向くと、そこには懐かしい顔があった。
「……えっと、治癒魔法師の方で?」
「ええ、ケガ人の治療に来ました」
「……リリ姉?」
「もしかして、私のこと忘れちゃったの?」
「そ、そんなことないよ。
リリ姉も、この戦争に参戦していたんだ……」
リリ姉は、俺に治癒魔法をかけながら話をしてくれる。
「ええ、後方支援のためにね。
………はい、治癒完了。
それにしても、大きくなったねハイネ……」
「リリ姉が出て行ってから6年だからね。
俺もいい加減大人になるよ」
「ハイネ、俺にも紹介しろよ」
隣のコルブが肘打ちしてくる。
どうやらリリ姉の容姿に騙されたようだ……。
「リリ姉、こっちは同じ部隊で友達のコルブ。
で、こっちは俺の姉でニルベルン王国魔法師団の治癒魔法師のリリ姉だ」
「「よろしく」」
『ガブゥッ……』
その時、レッドドラゴンの断末魔の叫びを聞き、視線をレッドドラゴンに移すと、ちょうど騎士団長がレッドドラゴンの首を切断した後だった。
『『『『うおおぉぉぉぉ!!』』』』
周りの兵士や騎士たちの雄叫びが響くが、、次の騎士団長の言葉で静まり返った。
「はぁ、はぁ、全員! 撤退準備っ!!
『バージの町』まで撤退する!!」
『急げっ!』
騎士団長の叫びに反応し、俺たちはすぐに自分の隊へ戻り撤退の準備に取り掛かった。
また、リリ姉も俺との挨拶もそこそこに、自分の隊へ戻っていった。
自分の隊へ戻っている最中、コルブが何故?という顔をしていたが、自分の所属している隊に戻ってきてそれが良くわかった。
俺たちの部隊の半数がいなかった。
しかも、部隊長までいなかったのだ。
周りの新人部隊はどこも同じような少なさだ。
俺も、いなくなった奴らと同じようになっていたのかもしれない……。
そう思いながら、俺たち新人から撤退していった。
第39話を読んでくれてありがとう。




