第36話 パーティー会場にて
「それで、俺をこのパーティーに招集した要件とは何だ?」
ブリニカ辺境伯は、この同盟成立パーティーに参加する気はなかったのだが、ディリタニア王からの招集という形での参加要請は流石に一応臣下としては断れなかった。
無論、ディリタニア王もそれが分かっていて呼んだのだが……。
「単刀直入に言う、お前のとこにいる『双剣』を貸してほしい」
『双剣』
ある双子の姉妹の騎士のことをそう呼ぶ。
光属性の魔法を操る妹剣士、その戦い方は騎士として自分自身は剣を振るいながら光魔法で数多くの剣を出現させ敵を攻撃させていく。
闇属性の魔法を操る姉の剣士は、闇魔法を使って自身の分身を数多く作りだしその分身たちと一緒に剣を振るい戦う。
姉妹ともに剣の腕前も騎士の中で上位になるほど優れており、ある時から姉妹そろって『双剣』と呼ばれるようになった。
ブリニカ辺境伯は、王のお願いに眉を寄せ考え込んだ。
「……この同盟話、かなり危ないってことなのか?」
ディリタニア王は、無言で頷き…。
「……バレスト共和国の影がちらついているみたいでな」
その国名を聞いたことをブリニカ辺境伯は深く後悔した。
かつて勇者が建国した王国は、そのことごとくが腐敗し滅亡していくことになる。
それは歴史が証明していて、この1000年以内でも召喚された勇者が建国した王国が20ほど滅亡していた。
そのどれもが建国から200年ほどたってからで、勇者がいなくなると同時に腐敗が進み最後は民衆による革命か、無謀な戦争での惨敗で終わっている。
バレスト共和国は名を変えて存続しているものの、中身は勇者が建国したころの理念はどこへやらで、腐敗が行くところまで行っていた。
「オーベス皇国だけでないなら、この同盟に意味あるのか?」
「すまんな、今回の同盟に関してはこの2年の交渉で貴族たちが横やりを入れてきてな……」
王様はそういうと、深いため息を吐く。
「なるほど、王都近くの領地をもつ貴族だったり王都にいるだけの貴族が横やりを入れてきたのか……」
ブリニカ辺境伯も、王様と同じように深くため息を吐いた。
「あの者たちは、今回の同盟と戦争を片付けてニルベルン王国のダンジョンを狙っているのだろう。
あそこは宝石がよく取れるらしいからの……」
「甘く見過ぎだろう、戦争だぞ……」
だから貴族は嫌いなんだと、ブリニカ辺境伯は憎々しげに会場の貴族たちを睨む。
そんな話をしているとは知らず、パーティー会場の貴族たちは話も酒も進んでいた。
あちこちで楽し気な会話が聞こえてくる。
中には、今回の同盟やその後のディリタニア王国とニルベルン王国との関係を話す声まで聞こえていた。
そんな会場から聞こえる話し声には、ブリニカの娘のアニーも眉をしかめずにはいられなかった。
「………わかった、領地に帰ったらすぐに『双剣』を派遣する。
これで、戦争が終わるならいいんだがな……」
「やはりおぬしも、終わらないと見るか……」
その2人の会話に、王の側近が声を上げた。
「あの、それはどういう……」
側近の不思議そうな顔を見て、ブリニカ辺境伯は律義に答えてくれる。
「今回のディリタニア王国とニルベルン王国の同盟で、普通のオーベス皇国なら国境からの撤退でケリが付く。
だが、オーベスの後ろにバレスト共和国があるとなると支援をしてくるだろう。
何せ、バレスト共和国は普通ではないからな……」
王様もアニーも頷いている。
さすが次期辺境伯のアニーだ、バレストの支援の意味が分かっている。
側近はわかってないようだが……。
「あの、普通ではないとは?」
「今のバレスト共和国には、あいつがいるはずだ。
今も現役のはずだからな……」
「……?」
「『囚われのゴーレムマスター』と言えばわかるか?」
「!! 奴隷エルフのゴーレム使い……。
でも、今も現役ならば800年は生きていることになりますよ?
いくらなんでも……」
「いいえ、長命種のエルフならば可能でしょう。
さらに現役で奴隷とくれば、今回の戦争にも支援の1人として送り込んでくるはず……」
『囚われのゴーレムマスター』
生きていれば800歳以上の女性エルフ。
始めは冒険者でパーティーを組んでダンジョンなどに潜っていたが、ダンジョンの最下層を攻略し『踏破者』になるも仲間の裏切りで奴隷にされてしまいバレスト共和国の貴族に買われる。
買われた後は性奴隷として使われるところをスキルを使い戦力として共和国のために強制労働させられることになる。
そして、今もバレスト共和国がらみの戦争には彼女の姿が見られるらしい。
「あの、横やりを入れた貴族の方々はそのことを……」
「知らないであろうな、でなければあのように笑っていられるわけがない……」
王様は会場中にいる貴族たちを見渡すと、ブリニカ達も同じように会場中の貴族たちを見渡した。
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