第32話 謁見の間にて
ディリタニア王国の王都に、ニルベルン王国の王女様が来たという噂が巷で流れていたころ見せ城の中にある謁見の間には、ディリタニア王をはじめ、この王国の要人たちが王女様一行と会っていた。
見せ城とはいえ、中はしっかりと造られており外国の要人と会う時はこの城を使っている。
その城の謁見の間には、ディリタニア側から王様、后様、宰相、そして今回王女様と婚約するかもしれない第六王子様が迎えている。
さらに警護として、近衛騎士団長と近衛騎士二名。
宮廷魔導士長と宮廷魔導士二名、この六名が控えていた。
対するニルベルン王国側は、王女様の母親である第二后様、王女様。
さらに警護として、ニルベルン王国国軍第三軍の大将と兵士三名が控えている。
無駄に大きな見せ城の謁見の間、そこで王様がニルベルンの者たちを迎えて声をかけた。
「ようこそ、ディリタニア王国へ。
遠路はるばる我が国を訪ねてもらって申し訳ない。
それに、我が息子との婚約の件、ありがたくお受けしようと思っておる」
「ありがとうございます陛下、私の娘も安堵しております。
それと、もう一つの我が国との同盟はどうなりましょうか?」
「勿論、その件も我が国はお受けしよう。
同盟の調印を明後日にしようと思うが、都合はどうかな?」
「はい、私どもも問題ございません」
ディリタニア王は大満足の顔をして何度か頷くと…。
「では、ディリタニア王国とニルベルン王国の同盟の調印契約を明後日のこの謁見の間で執り行う。
アブルガ宰相、後の用意は任せるぞ?」
「ハハッ」
宰相は深々と頭を下げ、了承した。
「では、明後日の同盟の調印後のパーティーで、第六王子のユリアスと第三王女アーネスの婚約を発表するぞ。
ニルベルン王国の方たちはそれまで、ゆるりとこの王都で寛いでもらいたい」
「陛下のお気遣いに感謝いたします」
そうニルベルン王国の第二后が言うと、ディリタニア王は満足して謁見の間を後にしていった。
その後には后様と第六王子が後をついて退出し、宰相が近衛騎士に命令している。
「ジーフリア近衛団長、近衛騎士の中から女性近衛騎士を二名選んでニルベルン王国側の方たちに王都を案内させてやってくれ。
宿はこちらで手配しておくから、王都の案内は任せたぞ?」
「はい、宰相様。
王都滞在中の警護はどうなされますか?」
「そうだな、表の警護はあの者たちの方が安心できよう。
影の警護に十人ほど出そう、後で知らせておいてくれ」
「わかりました」
そういうと宰相は、ニルベルンの后様と王女様に挨拶をして謁見の間を後にした。
▽ ▽ ▽ ▽
ディリタニア王たちとの謁見を終えたニルベルンの王女様一行は、馬車で王都に滞在中お世話になる宿へ案内されていた。
「はぁ~、緊張しました……。
流石大国ディリタニアの王様ね、着ているものが違っていたわ」
后様は靴を脱ぎ、裸足で馬車の中で投げ出していた。
それを見て王女や護衛の軍大将は苦笑いだ。
「お母様、いくら緊張したからといって馬車の中で裸足になるなど……」
「しょうがないじゃない、裸足になってもいいようにこの馬車は改造しているんだもの。
それに、宿まで待てないわよ。
はぁ~、慣れないことはしたくないわね~」
すっかり馬車の中で寛いでいる后様。
「お母様は、普段からこんな感じだから私たちは慣れているけど、ディリタニアの人たちが見たら驚かれるでしょうね」
「ですね。 でも、そこが后様の良い所なのかもしれません」
「……今ごろ、ニルベルンの王都では国軍が出発したころよね」
「お母様………はい、その時間です」
王女は表情を沈ませ、后様は馬車の天井を見ながら思いをはせる。
ニルベルン王国との同盟の話をこの国に持ちかけたのは2年前、ようやくここまでこぎつけたというのにオーベス皇国は動き出した。
王女たちがニルベルンの王都を旅立つ前、オーベス皇国との国境から伝令が届いたのだ。
『オーベス皇国軍、集結しつつあり。 至急、国軍を要請する』と。
王女たちはディリタニアへの旅を中止しようとしたが、同盟を結べばオーベス皇国も撤退するとの見解から王女たちはディリタニアへ向けて出発したのだ。
「国境沿いの村や町の住民は、避難を終えているわよね?」
「はい、アーネスさま。
国軍が出る前に避難命令は出ていますから、大丈夫ですよ」
しかし、王女と后様の表情はかたい。
王女も后様も一番の懸念は、オーベス皇国の軍事力だ。
まことしやかに流れている『死なない兵士』の噂、もしそれが真実だったらニルベルンの軍はかなりの犠牲を出すことになるだろう。
この王女の婚約やディリタニア王国との同盟には、ニルベルンの明日がかかっているのだ。
パーティの後には、ディリタニアに援軍を出してもらわねばならないのだ。
まだまだ后様の緊張は続きそうだ……。
▽ ▽ ▽ ▽
王都のポーション屋レオンでは、まだフィルが居座っていた。
「フィル、そろそろ依頼とか受けないと仲間がうるさいんじゃないのか?」
「それがな、ジニアが父親と和解してからというものちょくちょく実家に帰っていてな、今日もそのために依頼を受けることが出来ないんだよ。
ソロで受けるのもなんだから、ここに来てるわけだ」
「まあ、俺は暇だからいいけどね」
第32話を読んでくれてありがとう。




