第3話 思い出したくない過去
長くなりました。
謁見の間から両脇を騎士たちに捕まれて、無理やり連行される俺。
両腕をまとめて嵌めている大きな枷は、おそらくアダマンタイト製だろう。
右腕を通している場所と、左腕を通している場所の真ん中に魔封じの魔法陣が目立つ。
………魔法が使えない魔法使いは、本当に間抜けだな。
俺が、今の自分の状況を冷静に確かめていると右側の騎士が話しかけてきた。
この王城の召喚の部屋までの長い距離に退屈したのだろう。
王城の正面入り口から200メートルぐらい続く絨毯の廊下の先に、王の玉座がある謁見の間がある。
絨毯の廊下には兵士や騎士は配置されておらず、謁見の間の入り口の大扉の両脇に派手な全身鎧を着た騎士が2人、立っているだけだ。
また、絨毯の廊下には謁見の間まで廊下のみが続いているだけで、控えの部屋とかは正面の入り口から左側に伸びる廊下の初めにある部屋となっていた。
そして、入り口から右側に伸びる廊下の先に勇者召喚をおこなう召喚の部屋があった。
『……世界最強の魔法使いも、魔力を封じられては何もできないな』
俺より背が高いため、上から声をかけられる。
両脇の騎士の歩調に無理やり合わせながら歩く俺が、話しかけた騎士の顔を見ようとすると、反対側の騎士がつかんでいる左腕を引っ張る。
『前だけ見て話せ……』
その言葉に少しムッとするも、話しかけてきた騎士に返答する。
『俺は最強の魔法使いじゃない、最高の魔法使いだよ』
『最高? どう違うんだ? どっちも強いってことだろ?』
右側の騎士が困惑した声で、再び質問してくる。
『最強っていうのは、世界で一番強いってことだ。
確かに俺は強い魔法使いだが、魔法が使えなきゃそこら辺の人間と大差ない』
俺は腕に嵌められている枷を上に持ち上げて騎士に見せてやる。
『だから、最強の魔法使いじゃない。
本当に強い奴は、魔法が使えなくなっても強いんだよ。俺とは違う……』
『……なら最高ってなんだよ』
『それは魔法の力の応用がすごいってことだ。
治癒魔法を応用した回復ポーションをはじめとした薬類、魔法をエンチャントした武器に防具、人々の暮らしを便利にした魔道具などなど。
こいつが作りだしたものが評価され、最高の魔法使いと呼ばれるようになったんだ』
左側の騎士が前を向いて、表情を変えずに説明してくれた。
その説明を聞いた俺も、右側の騎士も何も言えず驚いたまま歩いている。
『……そ、そうか』
辺りに気まずい空気が流れ、3人とも黙ったまま召喚の部屋まで歩いた。
召喚の部屋のドアを開けると、そこは謁見の間と同じぐらいの広さがあり、床から壁から天井まですべて石でできているようだ。
そして部屋の真ん中に大きな魔法陣が描かれており、これが勇者を召喚するための魔法陣なのだろう。
召喚の間に待機していた一人の大きな杖を持った初老の男性が、俺たちに近づいてくる。
『お待ちしていましたよ騎士様。
今回私がこの男を異世界へ送る大役を務めます、リュネールという魔法使いです』
俺の両側の騎士にまず挨拶をし、嵌められている枷を確認後、俺の顔を見てにやけるこの男。
相変わらず気持ち悪い笑みだ。
リュネール、元英雄で今は王国魔術師団第2師団団長。
召喚された勇者と一緒に、魔王を倒したことで英雄にまで上り詰め、今の地位を得た俺の唯一の弟子。
……いや、弟子ですらない。
『クフフ、そんなに驚くことでもないでしょう?』
そう言いながら俺の耳元へ顔を近づけると、騎士たちには聞こえないように呟く。
『……まだ恨んでいるんですか?
油断したあなたが間抜けだったというのに……』
そういうと、俺から離れて騎士たちに魔法陣の上に連れていくようにお願いする。
30年ほど前、有名になり始めていた天才魔法使いの俺のもとに弟子入りしてきたリュネール。
弟子入りした時からうさん臭さかったが、当時の俺は有名になり英雄を育てたり勇者に手ほどきをしたいなど、野望に燃えていた時だったためリュネールの狙いに気づけなかった。
リュネールの狙い、それは俺が当時やっと発見した『聖魔法』と『影魔法』を習得すること。
そして、この2つの魔法を世間に公表することだった。
そのころ俺はまだ発見したばかりで、研究に夢中だったため公表し忘れていた。
そのため、リュネールがこの2つの魔法を俺から学び、自分が発見者として魔術師ギルドに公表、その後はあっという間にリュネールは英雄と呼ばれ、勇者たちとともに魔王を討伐するまでになっていた。
弟子入りした初めのころのうさん臭さは無くなり、真面目に献身的に弟子として頑張っていくリュネールに気を許していた俺は、リュネールの裏切りとも取れる行動にショックを受けて一時期人間不信になってしまう。
その後、地位も名誉も手に入れたリュネールとは違い、俺は誰ともかかわらないようになっていった。
……後から知った話だが、リュネールは俺の弟子だったことも無かったことにしていたようで『聖魔法』と『影魔法』は自身の研究の結果、発見したと公表していたらしい。
そんなこととは知らずに、人間不信になっていた俺は家に閉じこもり魔法の研究に明け暮れていた。
この当時造ったのが空間魔法の箱庭であり、箱庭内の研究所や家だった。
1ヶ月前まで引きこもりを続けていた俺の家に、兵士たちが雪崩れ込み俺は捕縛された。
罪状はリュネールへの暗殺未遂。
同じように魔法を研究しているのに成果が出せない俺が、リュネールを逆恨みし、つい先日、第3王女との婚約が発表されて今までの感情が抑えられなくなり暗殺という手段に出たが未遂に終わり今に至る。
このことを捕まっていた牢の中で聞かされた俺は、何の感情もなくうなだれるだけだった。
ただ、俺は用済みになったわけかと呟くのみ。
その後は、運が悪ければ自分の娘である第3王女が巻き込まれていたかもしれないと怒りをあらわにする国王。
元英雄の暗殺を失敗した俺を嘲笑う一部の貴族。
また、一目俺を見たいだけの野次馬的宰相や貴族たち。
そして異世界追放の処分が下り、
俺は目の前の男に異世界へ追放されるのか………
俺の目の前でニヤニヤしているリュネールは、懐から銀でできた腕輪を取り出すと、俺の左腕にそれを嵌める。
『これは、あなたの魔法に制限をかけるいわば奴隷の首輪と同じもの。
……フッ、感謝してくださいよ?
処刑を望む国王を説得して、異世界追放に変えさせたんですから』
……こいつ、どうせすぐに処刑して楽にさせるよりも異世界で苦しんで死ぬ方がいいのではとか進言しただけだろうが。
腕輪を嵌めた後リュネールは、俺の枷を外し腰から伸びて枷についていた鎖を今度は魔法陣の上に用意した錘に付けた。
『これで、魔法陣から逃げることはできないでしょう。
騎士の方たちは、入り口近くまで下がってください』
騎士たちが離れ、入り口近くで止まると杖を構えて俺を見下すリュネール。
『クフフ、さよなら天才レオン。勇者どもの世界で苦しめ』
こうして俺は、異世界『日本』に追放となった。
……本当に、こんなこと2度と思い出したくなかったな。
俺は下がった気持ちを奮い立たせて、箱庭への扉を開けた。
第3話を読んでくれてありがとうございます。