第28話 新しい知識
「これが『石化治療用ポーション』です。
このポーションは、飲ませる必要はなく頭からかけるだけで効果が現れますから」
俺は材料をフィルたちから受け取り、すぐに箱庭の家でポーションを作った。
それを今、フィルたちに渡したのだ。
「これで、セーラが助かる……」
「フィル、早く持っていきましょう!」
「急ごう」
フィルたちはポーションを受け取ると、すぐに店を出て行こうとして俺に振り返った。
「代金は後で必ず持ってくる、それまで待ってくれるか?」
「代金はいらないよ」
「何?!」
フィルたちは驚いているようだが、今回は受け取れない。
「材料はフィルたちが持ってきたものだ。
それに、俺の知識が古かったせいで恥もかかせてしまったしな。
……だから、今回は代金はいらない」
「………わかった、ありがとう!」
そういうと、フィルたちは急いで店を出て行った。
それを見送り、店に鍵をかけて俺は箱庭の家に戻ってきた。
しかし、今回は大失敗だった。
箱庭の家のキッチンにある冷蔵庫から、ペットボトルのカフェオレを出すと、蓋を開けて一口飲む。
そして、リビングのソファに座ると考え込んだ。
世界は変わらない、そう思っていた。
俺を日本に追放してからも変わらないと思っていたが、自分の世界に帰ってみれば生まれ育った国は無くなっていた。
だが、たどった歴史を知れば、隣国に吸収されただけ。
後は、俺の知識とそう変わらないと思えた。
冒険者ギルドでも、他のギルドでも同じようだったし乗合馬車だって、俺がいた頃とあまり変わっていなかった。
………だが、世界は未来に向かって変わっていたんだな。
ポーションの作り方に、新しい方法があった。
材料の選び方も、使う部分も、そして混ぜ方や錬金方法まで新しいやり方があった。
研究に研究を重ねて、進歩していったのだろう。
俺がいなかった2000年の月日を使って……。
「明日から、薬師ギルドと図書館に行ってみるか。
俺の知識を2000年分進歩させないと、今に大変なことになりそうだ」
ただ、この2000年の間に衰退したものもあるだろうから、その辺りも調べてみるか。
こうして、明日からの6日間は、各ギルドの資料庫や図書館に入り浸ることとなった。
▽ ▽ ▽
「店長! この一週間、どこにいたんですか?!」
俺は今、日本で早苗ちゃんに怒られながら箱詰めの作業をしている。
6日間のはずが、ついつい面白くて2週間ほどギルド資料庫や図書館に通い詰めていた。
「ゴメン、本当に申し訳ない」
そう謝りながらも、手を動かしポーションを箱に詰めていく。
日本で販売しているポーションは、体力回復と健康回復の2種類しか扱っていない。
体力回復はその名の通り、運動や仕事などで消耗した体力を回復するものだ。
裏ワザとして、夜の男女の営みの精力も回復してくれるみたいで重宝していますとのリピーターの感想があった。
健康回復は、腰痛や肩こり、内臓疾患など健康面を回復してくれるポーションだ。
また、この健康回復には虫歯をはじめとした歯の病気、さらに肥満にも効くというから作った俺も驚いている。
怪しさ満点のネット販売のみのため、リピーター続出にもかかわらず売り上げは安定している。
その要因の一つが値段だろう。
体力回復、健康回復、どちらのポーションも1本2万円からとなっている。
「もう、向こうの世界に行くのもいいですけど、そこの出勤ボードに書いといてください!
連絡のしようがないじゃないですか!」
「ゴメンって早苗ちゃん。
これからは、ちゃんと書いておくから」
「絶対ですよ!
……はい、宛名書き終わりました。
それじゃあ店長、私帰りますので後のことお願いしますね」
「はい、お疲れさま。 また来週ね~」
早苗ちゃんがバイトの時間を使って宛名書きをしてくれたおかげで、明日の発送には間に合いそうだ。
俺は箱詰めと宛名貼りを終えると、この2週間のことを思い出す。
「俺の知らない知識があった。
それと同じく、失われていた知識もあったな……」
各種のポーションの作り方には、新発見が相次いでいた。
また、魔法陣を併用することで味が良くなっているみたいだ。
飲むポーションには、様々な味付けがされているようだ。
掛けるポーションは無味無臭なものが開発されている。
それに、魔法もいろいろ開発されていたが使いやすい魔法が主流になっていたな。
杖などの魔力伝達をよくして早く放てるようにしたり、魔石を使って魔力の補助をして威力をあげたりと、様々な工夫が多かった。
冒険者ギルドは、複数での戦いを推奨するようになっていたし、各ギルドさまざまに改善がされていた。
ただ、特出する技術とか魔法とは無くなっているようだ。
薬師ギルドの資料庫でも、埃をかぶっていたポーションのレシピとかもあったし、図書館でも部位欠損を治してしまうポーションについて書かれている本は、誰も読まないのか隅に追いやられていた。
いろいろな技術進歩とともに、安全が確保され始めると、いざという時の技術なんかは隅に追いやられてしまう。
……なんか寂しいものがあるな。
明日は、向こうの世界の店を掃除しないとな。
家具とかは届いたけど、まだ店を閉めたままなんだよね。
第28話を読んでくれてありがとう。




