第26話 薬師ギルドの出来事
「それなら、このベッドを三つ購入しますので、先ほどの家具と一緒に精算してください」
「はい、まいどありがとうございます」
俺は今、王都にある大きな家具専門の商会に来ている。
この商会は、家具を見本市のように展示して商品を選んでもらい、後日新たに製作した商品を納品するシステムのようだ。
家具類は大きな買い物ではあったが、あの家の空いている三部屋に一応の家具は入れておいた方がいいだろう。
それと、俺は日本での拠点をポーション屋の事務所一つに絞ることにした。
何十年と住んでいた中古のマンションだったが、こちらの世界にも拠点ができたため日本に二か所も拠点は必要ないと感じたからだ。
本音は、維持費がかかることだな。
これから自分のマンションに帰る時間は少なくなるのに、光熱費などは基本料金だけでも高いのだ。
とてもではないが、事務所とマンションの二つは賄えない。
そう言うことでマンションを引き払い、家電などは事務所へ、家具類は箱庭の家に置くことにした。
引っ越しの連絡で少し手間取ったが、何とかなった。
「それでは全部で、金貨2枚と銀貨36枚になります。
納品はまとめてがよろしいですか? それとも出来上がったものからが?」
店員さんにお金を払うと…。
「まとめてでお願いします」
「畏まりました、では、ちょうどお預かりします。
またのご利用をお待ちしております、レオン様」
こうして俺は、商会を後にする。
「次は、薬師ギルドへの納品だな」
そうつぶやくと、俺の足は薬師ギルドへ向かって歩いていた。
あの後、日本に帰って事務所で納品の注文チェックをすると、あきらかに手持ちのポーションが足りなかった。
そこで、箱庭へ移動し朝になるまでポーション作りをしていたよ。
おかげで、注文された量より多く製作してしまったが問題ないだろう。
その後箱詰め、宛名書きを終えていつもの契約している宅配業者に取りに来てもらった。
宅配業者が帰った後は、箱庭の家のベッドで爆睡していたよ。
そして、起きた時に気づいたんだよね。
自宅にしている中古のマンション、いらないんじゃないかなって。
それからは早かった。
引っ越し、連絡、あいさつ回りと済ませていったからな……。
「今日は、薬師ギルドへの最初の納品日ということになるのか」
薬師ギルドの前で少し気合を入れて、中に入り納品カウンターへ行く。
ギルド内は、お昼過ぎという時間にもかかわらず少し人がいる。
あの恰好からして、冒険者なのだろう。
受付で、少し揉めているように見えたが面倒ごとは嫌なのでスルーした。
「ようこそ薬師ギルドへ、ギルドカードと納品するものをここに出してください」
受付嬢の言うように、カードと納品ポーション1ダースをトレイの上に置く。
「ありがとうございます」
そう言うと、ギルドカードを受付横の箱へ入れてちょいちょいと操作すると再びカードが出てくる。
それを俺に返して、ポーションの乗ったトレイを持って奥の部屋に入っていった。
「ポーションの品質などを鑑定してますので、少々お待ちください」
そう言ってくれたのは、横にいたもう1人の受付嬢。
どうやら、俺を担当した受付嬢は言い忘れてしまったようだ。
それから二分ほどでトレイの上に小さな袋を持って帰ってきた受付嬢は…。
「納品品質でしたので、こちらが報酬となります」
といって、小さい袋に入ったお金を袋ごと渡してくれた。
中身は金貨12枚だ。
ということは、あのポーションの値段は……。
俺は袋を受け取ると、受付嬢に挨拶をしてギルドを出ていく。
薬師ギルドを出て、これからどうしようか考えるとすぐに後ろから声をかけられた。
振り向くと、カウンターで少し揉めていた冒険者だ。
「すまない。
さっきポーションを納品しているところを目撃したんだが、薬師の方だろうか?」
冒険者は3人。
俺に声をかけたのはリーダーらしき青年。
剣を二本差しているところから双剣の使い手かな?
その青年の後ろには、獣人の女性だ。
……あの耳から、おそらく狼族の女性だろう。
もう1人も女性だが、こっちはまだ幼いな。
「確かにポーションを納品しましたが、俺に何か?」
青年は、少し安心したような表情を見せて…。
「よかった。 実は俺にポーションを売ってほしいんだが大丈夫だろうか?」
……ん、どういうことだ?
「あの、ポーションをお求めなら王都の薬屋かギルドで購入できますけど……」
そうだよな、ポーションがほしいなら買えばいいわけだし……。
「……それがな、俺たちのほしいポーションを扱っていなかったんだよ。
それでさっき、ギルドの受付と少し揉めてな……」
なるほど、これは話を聞いた方がよさそうだな。
「えっと、とりあえず移動するんで、ついて来てもらっていいです?」
「どこへ行くんだ?」
三人とも、警戒しているな……。
冒険者としては、ベテランというところかな。
「俺の店ですよ。
どんなポーションか分かりませんが、用意するにしても作るにしてもこの場でというわけにはいきませんから」
「た、確かに……」
青年たち冒険者と俺は、薬師ギルドから歩き出し俺の店を目指した。
そして歩きながら、まずは名前から聞いていく。
「俺の名前は、フィル。
それで、こっちの女性がコニー。
この子が、ジニアだ」
「俺はレオンといいます。
それで、フィルさんはどんなポーションをお求めなんですか?」
フィルさんは、むず痒くなった顔をして…。
「フィルでいい、さん付けはなんだかむず痒くなる。
……それで、俺たちの探しているのは『石化治療用』のポーションなんだ」
「石化治療用、ですか……」
これは俺もフィルたちと同じで難しい顔になる。
これはギルドの受付で、もめるのが分かる。
通常、状態異常を治す場合は治癒魔法が特化しているため、ポーションで治すことはない。
教会に行けばお布施という名の治療費がかかるが、治してくれるのだ。
だが、病気となるとポーションを使うことになる。
それは『病気治療用』のポーションが開発されたことと、治癒魔法では病気は治らないためだ。
しかし、これも抜け穴があって『聖王魔法』の治癒なら治るのだが、聖王魔法を習得した人は世界に数人しかおらず、王族や貴族相手に使う人がほとんどのため本当に困っている人を治すなら、やはりポーションということになるのだ。
そんな病気と同じように、専用ポーションの1つに『石化治療用』がある。
材料さえそろっていれば、そこら辺の薬師や錬金術師でも作ることができるが、この治療ポーション、材料が問題なのだ……。
第26話を読んでくれてありがとう。




