表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポーション屋の日常  作者: 光晴さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/47

第22話 乗合馬車の日常



盗賊の襲撃から2日、乗合馬車はようやく王都手前の村に到着した。

この村の名前は『ヒロール村』、ジェニファーさんの目的地だ。


この村は、王都に村で作った野菜や小麦を下ろしている大農業村になる。

そのため村でありながら、信じられないくらい畑が大きいのだそうだ。

ジェニファーさんの妹さんが嫁いだのも、そんな農家の一家。



乗合馬車は村の入り口近くにある宿屋の前で止まると、御者のおじさんが声をかけてくれる。


「お客さん方、ヒーロー村に到着です。

今日はこの村で一泊した後、朝方に出発して王都に到着する予定です。

それと、宿はここを使って下さい。

ここがうちと提携している宿なんで、よろしくお願いします」


声をかけられた後、俺たちは馬車を降りて宿に入っていく。

ただ、ジェニファーさんは目的地がこの村なので、御者のおじさんにここまでの料金を払って降りている。


「ジェニファーさんは、この村に用があったんですよね?」


「そうそう、妹の娘が結婚するんでね。

その手伝いをお願いされたんだよ、困った妹だね~」


ジェニファーさんはそういうと、大きな声で笑っていた。

でも、その顔は嫌々手伝いを買って出たようではなく、むしろ手伝いをお願いしてくれて喜んでいるようだ。

……これも女心なのかな?


「それにしちゃあ、嬉しそうじゃねえか?」


俺の隣で呆れているのは、冒険者のグリムさんだ。

そこへ、村の中央から女性が1人走って近づいてきた。

そして、ジェニファーさんに近づくと…。


「姉さん、いらっしゃい!」


「ジェシー、久しぶりね~!」


そう言って二人で抱き合っている。

俺と同じ町から乗合馬車で出発して、5日かかるこの村までそうそう会いに来るわけにはいかないから、この再会になるのか……。


しばらく二人で抱き合っていると、そこにもう1人今度は若い女性が現れた。


「ジェニファーおばさん、ようこそヒロール村へ」


ジェニファーさんは、再会を喜んでいたジェシーさんを解放すると声をかけてきた女性を見る。


「まあ、ルーシーかい?

……大きくなったね~。

それじゃあ、今回結婚するジェシーの娘ってルーシーのことだったんだね~」


「はい、よろしくお願いしますね」


あれがジェシーさんの娘さんか、どこかジェシーさんに似ている……かな?

ここに来るまでの乗合馬車で、ジェニファーさんの話出てきたルーシーさんって、確か子供じゃなかったかな?

大きくなった姿は見たことなかったのか。


それだけ、会えなかったということか……。


「それじゃあ、あんたたちとはお別れだけど、もうすぐ王都だ。

道中、話し相手がいて楽しかったよ」


「それは俺も同じですよ、しっかり手伝って結婚式を成功させてくださいね」


「ああ、勿論さ!」


ジェニファーさんたち三人は、俺たちに頭を下げるとそのまま帰っていく。

少し寂しい気持ちがわくが、乗合馬車で知り合っただけの関係だ。

もしかしたら、どこかで会えるかもしれないな……。


「……行っちまったか、明日の馬車は少し静かになりそうだな」


「そうですね」


グリムさんも俺と同じように、少しさびしさを感じているのだろう。

人と人との出会いや別れはこんなものなのかもしれないな。


「もう宿に入って休もうぜ、明日は王都だ」


そういうとグリムさんは宿の中へ入っていった。

俺も、その後を追うように宿の中へ入っていく。




「いらっしゃいませ、乗合馬車の乗客ですか?」


宿に入ると、すぐにカウンターにいた女性に声をかけられた。

実はこの宿、結構大きい。

日本でいえばホテルのようだ、カウンターの前は結構な広さがあるし待ち合わせもできそうなソファが4つほど設置されている。


カウンターに行き、宿代を払うと鍵を渡される。

「お客様は2階の203号室になります。

荷物がないようなので、鍵だけお渡ししますね。

後、案内は必要ですか?」


「いえ、大丈夫だと思いますので」


いい笑顔で応対をしてくれる、この宿、侮れないな。

「では、明日までごゆっくりお寛ぎください」


俺とグリムさんは鍵を受け取ると、そのまま2階へ上がり自分の部屋へ。

また明日、というあいさつを交わしてグリムさんと別れた。




次の日の朝、ヒロール村を出発して王都へ向かう。

ここまでになると、乗合馬車の乗客数もだいぶ減っていて俺の乗っている後部は冒険者のグリムさんと母親の女性に兄妹の5人だけになっている。


また、出発が朝だったこともありまだ幼い兄弟は母親に寄り掛かって寝ているようだ。

それをグリムさんといっしょに微笑ましく見ていると、ある事を思い出した。


「そういえばグリムさん、ポーションを売ってほしいと言ってましたが何本欲しいですか?」


「お、売ってくれるのか? そいつはありがてぇ」


盗賊を討伐した後、再び馬車に乗り込み出発してすぐにポーションを売ってほしいと打診があった。

すぐに応対できるわけもなく、時間をもらい昨日の宿の部屋で販売用のポーションを用意したのだ。


「ポーションは5本しか用意できませんでしたが、大丈夫ですか?」


「いやいや、5本も用意してくれるとはなぁ。

ほんとにありがとう!」


俺は昨日用意したポーション5本を、腰のポーチから取り出すとグリムさんに渡す。

グリムさんは、ポーションを受け取るとすぐに、自分のリュックの中に慎重にしまっていた。


「それじゃあ、これ代金の金貨1枚だ」


俺はグリムさんからお金を受け取り…。

「はい、確かに」


そう言ってポーチにお金をしまう。

……お店を持つ前に、ポーション売買ができてしまった。


王都までもうすぐだ……。








第22話を読んでくれてありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ