第17話 あっけない決着
だが、悪い予感というのはなぜか当たる。
路地裏で俺に向かってきたゴロツキは、どちらも一定の戦闘能力を持っていて背中に忍ばせていたこん棒を取り出し殴りかかってきた。
とっさにこん棒をよけて、魔法で対処しようと左手をゴロツキに向けた瞬間、もう1人のゴロツキが俺の左腕に金属のものを絡ませた。
金属の腕輪を嵌められた俺は、少し後ろに下がると殴りかかってきたゴロツキが俺を見ながらニヤニヤして攻撃を止める。
その時、クリフ少年が噴き出したように笑い出した。
「ぶわはっ! いいぞ、これで魔術師は何もできない!」
「運が悪かったな魔術師殿、今貴様に嵌めたのは伝説の『魔封じの腕輪』を模して造られた腕輪だ。
伝説のものとは数段劣るが、それでも魔術師程度はすぐに無力化できる。
我らの力を見くびるからだ」
「そこのただの男は殺してかまいませんよ。
後ろの女たちは、我々が躾をしないといけませんから捕まえてください!」
ニヤついていたゴロツキたちが、俺にゆっくり迫ってくる。
……伝説のものより数段劣るね~、俺が見る限りこれってレベル依存じゃないのか?
腕輪を嵌めた人のレベルに応じて封じる魔力が決まっているとかいうもの……。
「店長!」
早苗ちゃんの心配そうな声を聞いて、腕輪を見ていた俺が顔を上げるとゴロツキがこん棒を振り上げ、そして勢いよく振り下ろしてきたこん棒を軽く右によけた後、俺はゴロツキに男に魔法をかける。
【電撃】
「はぐっ!」
棍棒を振り回したゴロツキの男は、俺の電気ショックを受け背筋を伸ばしたまま倒れて白目をむいて気絶してしまった。
……少し電気ショックが強かったようだ。股間の辺りからズボンに染みが広がっていた。
だが、周りのゴロツキたちやケリー君たちにはいい刺激になったようだ。
「……店長が、魔法を?」
「えっ、でも封じられていたんじゃ?」
早苗ちゃんたちも、どうやら混乱しているようだ。
俺は腕輪がはめられている左腕を出し、全員が注目している中、金属の腕輪に魔法をかけた。
【腐食】
魔法をかけると、すぐに金属の腕輪はボロボロになり粉々に崩れて砂のようにサラサラと地面に落ちていった。
「どうやらレベル依存の魔封じの腕輪だったね。
この程度の腕輪なら、闇魔法の『腐食』をかければ使い物にならなくなる。
……さて、そこのゴロツキさんたち………まだやるの?」
驚きすぎて声も出ないゴロツキたちに声をかけると、ゴロツキたちはケリー少年たちを見るが少年たちも驚きで固まっていた。
そして、俺と地面に転がっているゴロツキの男を見比べて顔に恐怖を浮かべると、そのまま逃げるように立ち去っていった。
あとに残された、ケリー少年たちは俺の視線に気づくと顔を歪めて悔しそうに睨みつけてくる。
「……嘘だ、嘘だ、嘘だ! こんなこと信じられるか!
『魔封じの腕輪』に劣るとはいえ貴様程度の魔力を封じることはできるはずだ! 言え! 貴様何をした! レベル依存ってどういうことだ!!」
悔しそうに睨みつけるケリー少年やトリスタン少年と違い、クリフ少年は狂ったように俺の行動が信じられずに叫んでいた。
「……世の中に出回っている魔道具には、誰でも使えるものとレベル依存のものとが存在する。
レベル依存の魔道具はね、使用する者のレベルに応じて効果が違うものなんだよ。今回でいえば、魔封じの魔道具を使おうとしたこの転がっている男のレベルが低すぎたために俺の魔力を封じることができなかったというわけだ」
俺の説明を聞いたクリフ少年は、懐から同じ魔封じの腕輪を取り出すとニヤリと笑みを浮かべる。
「それなら、私が! レベル65とこの中で最高レベルの私が使えば、貴様の魔法を封じることができるわけだな!」
そう言いながら、じりじりと俺に近づいてくるクリフ少年。
ケリー少年もトリスタン少年も、じっとクリフ少年の行動を見守っているようだ。うまくいけばいいと思っているのかな?
一方、早苗ちゃんたちは俺のレベルを知っているためクリフ少年たちを残念な人を見るような目で見ている。
魔封じの腕輪を嵌めようが、ケリー少年たちが何をしようがどうにもならないことが分かっているかのようだ。
ゆっくりゆっくり近づき、もう少しというところでトリスタン少年が大声で叫ぶ!
「おっさん、後ろだ!」
その声に、ワザと俺は引っかかって後ろの早苗ちゃんたちを見ると、クリフ少年が俺の左腕に魔封じの腕輪を嵌めることに成功した。
「やった! これで終わりだ!!」
すぐにクリフ少年は腰の剣を抜き、俺に切りかかってこようとするがそれよりも早く俺の魔法がクリフ少年の意識を刈り取った。
【電撃】
「ギャヒッ!」
クリフ少年もまた、背筋を伸ばしたまま倒れ白目をむいて気絶する。
そして、股間の辺りのズボンを濡らして地面に転がった。
「……」
言葉もなくただ驚いて固まっているケリー少年とトリスタン少年。
俺はすぐに少年たちに近づき『電撃』を喰らわせると、今度は二人とも声を上げることなく背筋を伸ばし白目をむいて気絶して地面に倒れた。
勿論ケリー少年もトリスタン少年も、股間の辺りのズボンに大きな染みを作っていた。
「あの、店長、このままにしておくんですか?」
早苗ちゃんが転がっている四人を見て、俺に判断を求めてくるがよく考えてほしい。この四人が俺たちに何をしようとしていたのかを。
だから貴族だろうがゴロツキだろうが、俺はこのまま放置していく。
「さな、こいつらは私たちをどうしようとしていたか分かるでしょ?
このまま放置でいいわよ」
「そうだね、さなちゃんのその優しさは罪だよ?」
響子ちゃんとほのかちゃんが、早苗ちゃんを説得している。確かに早苗ちゃんのやさしさは今は必要ないな。
貴族とのもめ事になるかもしれないが、この町に住んでいない俺たちが気にすることでもないだろう。
「さて、宿に戻ろうか?」
俺は早苗ちゃんたちと一緒に宿へ戻っていった。
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