第15話 貴族の少年たち
魔術師ギルドに入ってきた貴族らしき3人の少年。
何か話していたと思ったら、周りを見渡し早苗ちゃんたち3人に目を付けたみたいだ。
俺が側にいるのにもかかわらず、早苗ちゃんたちに声をかけ始めた。
「ねえねえねえ君たち、このギルドの魔術師かい?」
購入する魔術書を選んでいる横から声をかけられ、戸惑っている早苗ちゃんたち。
響子ちゃんだけは、少年たちを汚物を見るような目で蔑んでいる。
「はあ、そうですけど……」
さっき登録したばかりだから、そう答えるよね。
「それじゃあ、明日、今日と同じ時間にギルド前で待っていて。
……いいよね?」
……おいおい、それって誘っているのか? 命令にしか聞こえないんだけど……。
「私たち、明日は予定がありますので、お断りさせてもらいます」
「予定? どうせたいした予定じゃないでしょ、庶民の予定なんて。
そんな予定は無視して俺たちと来るんだ。……いいね?」
響子ちゃんがはっきりと断ったのに、さすが貴族の少年たち。強気な発言だな……。
「何度も言いますが、お断りされてもらいます」
「はぁ、君たちは誰に声をかけてもらったと思っているんだ?
こちらの方は、ケリー・ディクリア様だ。
この辺り一帯を治めるブリニカ・ディクリア辺境伯のご嫡男様だぞ?」
「……だから何?」
あらら、今までしゃべっていたクリフ君が、顔を真っ赤にして怒っているようだな。
「頭の悪い女だな、ケリー様が庶民のお前たちを使ってやると考えていらっしゃるのだ!
それを代弁して俺が、クリフ・グリーベンがお前たちを誘ったんだよ。
お前たち3人は黙ってハイと返事をすればいいんだ!」
「何それ、私たちがあなた達なんかに従うわけないでしょ」
「こいつ……」
そろそろ間に入った方がいいかな……と思っていると、ケリーという少年が動いた。
「クリフ、それくらいでいいだろう。
この女たちはこの国の出身ではないのだろう、だから、俺の名前を出しても普通でいられるのだ。
だから、誘うなら次の手を考えなければな」
「申し訳ございません、ケリー様。
……運が良かったな、この国以外の蛮族の治める地で生まれたことを感謝するがいい」
すごい負け惜しみだな、この国以外を蛮族の治める地とは……。
これは、そういうことを教えている貴族がいるということになるぞ。
「負け惜しみね」
「くっ、この女……」
響子ちゃん、火に油だよ……
「クリフ、ここは僕に任せてください。
力で従わせても、奴隷と変わらないでしょ?」
「………わかったよトリスタン、お前に任せる」
クリフという少年がケリーという少年の側に移動し、トリスタンという少年が前に出てきた。
「先ほどは仲間がすまない、焦って君たちを誘ってしまったようだ。
それで、私たちは明日グレービア城遺跡へ探索に行く予定だ。
あの遺跡には地下があるらしいのだが、いまだ見つかっていない。
遺跡の地下にはかなりの財宝が眠っているらしくてな、俺たちはそれを狙っているんだが人手が足りないんだ。
遺跡は魔物がよりつかないようになっているが、その道中はそうではない。
そこで君たちを誘おうとしたわけだ。
どうだ、ともに財宝を探してみないか?」
……グレービア城の地下。
俺は聞いたことなかったが、追放された後に造ったのかな?
それに城の宝物庫は1階にあったと思うけど、のちに地下へ移動したとか?
俺には覚えがないが、あの遺跡に関しては長い年月の間におかしな伝えられ方をしているようだ。
それとも、グレービア王国が滅んでからあの城を弄って地下室を造ったか。
どちらにしても、興味ないな……。
「私は、財宝とか興味ないな~」
「私も」
「同じく、ですので先ほどと同じくお断りさせていただきます」
ほのかちゃん、早苗ちゃん、響子ちゃんの順で断っていった。
まあ彼女たちは明日も、町に買い物に行くって言っていたし、あるかどうかわからない財宝より買い物なんだよね……。
トリスタン少年は、早苗ちゃんたちの態度が変わらないと判断し、あきらめたのかケリー君の側に移動した。
「ケリー様、彼女たちはあきらめてギルドに紹介してもらった方がよろしいかと思います。
誰かのおかげで、彼女たちの態度は変わらないようですので……」
そう言いながらトリスタン少年は、クリフ少年をチラ見する。
当然、クリフ少年はそんなトリスタン少年の態度に怒ってかみついた。
「トリスタン、俺が悪いと言いたそうだな……」
「やめろ! とりあえず魔術師はギルドに手配するとして、あの女たちには後で後悔してもらえばいいだろう」
ケリー君が仲介に入って、何か物騒なことを言っているな……。
クリフ少年は、その言葉の意味を理解したのかすぐに機嫌が直ったようだ。
……もしかして、毎回こんな対応をしているのか?
少年たちは、別の受付へ行くとさっさと魔術師の手配をしてギルドを出ていった。
やっぱり、何か悪いことを考えていたのかクリフ君がギルドを出るとき、早苗ちゃんたちを見て悪い笑みを浮かべていたよ。
何というか、わかりやすい少年たちだな……。
「店長、購入する魔法書を決めたよ」
俺の横から、早苗ちゃんが購入する魔法を決めたと報告してきた。
「それで、何と何にしたんだ?」
「私は空間魔法と、生活魔法」
「私は、空間魔法と治癒魔法を」
「私は、空間魔法に風魔法でお願いします」
早苗ちゃん、響子ちゃん、ほのかちゃんの順で報告してくれた。
俺はこの順番に受付嬢に購入する魔法書を伝えると、受付嬢の後ろの席で仕事をしていた別のギルド職員に紙を渡し、魔法書をとってきてもらうようだ。
「では、魔法書が来るまでに清算を済ませておきましょうか。
え~と、空間魔法書3冊と生活魔法書に治癒魔法書、風魔法書で合計で金貨13枚になります」
「あの、内訳を教えてもらえますか?」
「はい、空間魔法書が1冊金貨2枚です。生活魔法書が金貨1枚に、風魔法書が同じく金貨1枚。
治癒魔法書が少し値が張って金貨5枚となり、合計金貨13枚となります」
そうか、治癒魔法書は他の魔法書と比べて高くなるんだな。
やはり、用途の差が魔法書の値段の差になっているのかな……。
早苗ちゃんたちは、値段よりも魔法書が手に入ることにワクワクしているようだ。
帰ったらさっそく読みふけるのかな?
俺が魔法書の代金を払い終わって少しすると、受付嬢のもとに魔法書が届いた。
「お待たせしました、こちらがご購入されました魔法書でございます。
タイトルをご確認してお持ち帰りください」
さっそくカウンターに置かれた魔法書のタイトルを確認して、それぞれが受け取っていく。
そして、そのまま腰のポーチへ仕舞いこんで俺たちは魔術師ギルドを後にする。
「ありがとうございました」
受付嬢のあいさつを受けて、ギルドの正面出入り口でちらりと受付嬢を見て外へ出ていった。
この後は、町を散策する予定だが早苗ちゃんたちはすぐにでも魔法書を読みたそうにそわそわしているみたいだ。
ここはいったん宿に戻った方がいいな。
早苗ちゃんたちに宿に戻ると告げると、嫌な顔をされずに宿へ戻っていく。
どうやら本当に、魔法書を早く読みたいようだ……。
第15話を読んでくれてありがとうございます。




