第12話 歴史をなぞってみる
―――グレービア王国誕生から621年
この年、新たなる魔法属性が発見される。
光魔法と闇魔法の上位属性である『聖属性』と『影属性』だ。
しかし、この二つの属性は発見者であるリュネールが研究を続けたものの、今なおリュネール以外のものが使ったという話はなかった。
……リュネールの奴、どうやら『聖魔法』も『影魔法』も使いこなすことはできなかったようだな。
おそらく既存の『聖王魔法』や『暗黒魔法』と混同したのだろう。
天使に認められて覚えることができる『聖王魔法』
魔族にしか使うことができない『暗黒魔法』
どちらも光魔法や闇魔法の上位みたいに見えるからな…。
だが、実際は光の上位は『聖』だし、闇の上位は『影』なのだ。
このことを踏まえたうえで研究すれば、少しは世間の人々も使えるものがいたかもしれないな……。
本屋で早苗ちゃんたちの読みたそうな本や、俺の目的の本以外に気になった本を購入して、俺たちは宿屋へ帰って来た。
その後何ごともなく夕食を食べ終えてから、自分たちの部屋へ帰り俺はこうして王国史を読んでいる。
俺がいなくなってから何が起きたのか、そしていつ王国は滅んだのか気になっていたからだ。
……俺が暮らしていたグレービア王国は滅んでいた。
その原因が何だったのか、俺は今それを確かめている。
―――グレービア王国誕生から622年
この年、第三王女ハーネスティアと婚約中だったリュネールが正式に結婚。
リュネールの功績を称え宮廷魔導士に任命する。
リュネールの研究は王宮魔術師たちと進めていくことになる。
この年の暮れ、王太子が第二夫人によって殺される。
……リュネールが王城に入ってすぐに王太子が殺されるか。
何かありそうだが、リュネールが裏で暗躍…とは考えにくいかな。
王族と貴族で対立しているのはよく噂になっていたし、暗殺なんてものは過去よくある話だしな……。
グレービア王には確か10人の子供がいたよな。
男6人女4人で特に野心を持っていたのが第2王子という噂があったな……。
―――グレービア王国誕生から623年
この年、第2王子を王太子とすることを王族会議で決定。
宮廷魔導士リュネールが暗殺者を撃退、犯人はリュネールの元弟子であるレオンと判明。
またレオンには召喚された勇者や英雄の指導義務も無視していた経歴有り。
しかし、弟子の不始末に心痛めたリュネールの嘆願をもって異世界追放の刑に処せられる。
……いろいろ言いたいことがあるが、もう終わったことだ。
だが、この年に俺は追放になったのか……。
リュネールに魔法の研究を盗まれて以降、人との接触を避けて引きこもっていたからな……。
―――グレービア王国誕生から625年
この年、グレービア王死去。
それから1週間後、王太子がグレービア王に。
この年の8の月、魔王『デビルオード』が誕生。
それに伴い世界中の魔物が活性化し凶暴化したため、世界中の英雄が立ち上がり勇者育成が激化する。
……グレービア王か、俺の覚えている表情はあの謁見の間での怒りの表情だけだったな。
特に親しかったわけでもないし、どうでもいいか。
でも、魔王誕生か。
確か俺が追放になった時、グレービア王国には勇者はいなかったはずだ……。
―――グレービア王国誕生から626年
この年、魔王に対抗するため勇者召喚をするも失敗。
王国始まって以来の失敗に、宮廷魔導士をはじめ宮廷魔術師たちの責任が追及される。
その後2度の勇者召喚をおこない、3人の勇者の召喚に成功する。
……勇者召喚の失敗って聞いたことないぞ?
勇者召喚は、召喚呪文を発動する中心人物と補助する何人かの人物の一定の魔力があれば成功するはずだ。
もしかして、リュネールの魔力が一定に到達していなかったのか?
……まさかな。
―――グレービア王国誕生から629年
この年、ようやく世界中の勇者や英雄たちと王国の勇者たちが合流。
そのまま、魔王討伐へと動くものの魔王が強すぎ封印が精一杯だったため、エブル島に魔王を封印することに成功。
封印管理をラーバン教会に任せ、勇者と英雄は解散となった。
ラーバン教会は北の地を活動の場としている教会だったな。
信仰している神様の名前は忘れたけど、呪いとか封印術に定評のある神様だったような……。
魔王の封印を管理するにはうってつけというやつか。
その後、世界中で召喚した勇者を送還して平和な時代が続くんだな……ん?
―――グレービア王国誕生から635年
この年、王国の南側で大飢饉が発生。
南側の貴族たちが王に訴えるも聞き届けられず、領主や貴族たちで対処するものの反乱が勃発。
貴族の一部が反乱軍に加わり、王も無視できない規模になりようやく王国軍を動かす。
だが反乱軍に民衆が参加し、王都に向かって進軍を始める。
……王族の怠慢か? それとも王に意見するものがいなかったのか。
―――グレービア王国誕生から636年
この年、王都から少し離れた第二王都と呼ばれる『グリービア』で反乱軍と王国軍が激突。
戦いなれていない宮廷魔術師たちの暴走により、町は壊滅状態へ。
死者の数も反乱軍より、グリービアの住人が多く王国軍でも問題になる。
宮廷魔導士のリューネルに責任が集中し追い込まれたリューネルは、王城で暴走。
城にて対応や会議に出ていた貴族を全員殺害。
会議場にいたところをまとめて狙われたようでグレービア王も巻き込まれ死亡。
異変を感じた近衛騎士たちとの死闘の後、リューネルは討伐される。
だがその後、王位継承に揉めたため反乱軍の勢いが回復しこの年の終わりには王都が陥落。
―――グレービア王国誕生から637年
この年、グレービア王国は滅亡。
反乱軍の王都陥落とともに王城に攻め込み、王城を占拠。
その後、臨時の王が誕生し隣国『ディリタニア王国』との間に合併交渉がおこなわれ、残った貴族たちとの話し合いの結果翌年合併。
現在『ディリタニア王国』の一領地としてグレービアは存在している。
……なんともあっけない最期だったんだな。
それにリューネルの最後も分かったし、これで俺が付けていた呪いの腕輪がなぜ外れたのかもわかった。
呪いの腕輪の効力は、追放されてから日本で俺が魔法を使えるまでにかかった時間しかなかったんだな。
あの何時間かの間に、こっちでは国1つが滅んでいた……。
その後の30年で外れたのは経年劣化というやつだろう。
でも、召喚陣が発動したのは分からないな……。
何かあるのかもしれないが、いつか分かるだろう。
それにしても、グレービア王国滅亡から2000年以上たっているとは思えないほど世の中は変わり映えがしてないな……。
俺は、宿の窓から月明かりに照らされた街並みを見て思うのだった。
第12話を読んでくれてありがとうございます。




