第10話 冒険者ギルド
俺たち4人が町に入りまずしたのが今日泊まる宿を探したこと。
何をするにも、まずは拠点が必要だという俺の意見を聞いての行動だ。
幸い、町に入ってすぐのところにいろんな宿屋が営業している。
こういう町では東西南北にある門の辺りに宿屋が集中している。
貴族様が利用する高級宿は町の中央辺りにしかないし、どこかのギルドと提携している宿なんかは、そのギルドの側に建っているものだからな。
俺たちはこの町は初めてだから、門の側の宿屋を選んだ。
『風来坊亭』という宿屋だが、ここを選んだ理由は宿の部屋数の多さだ。
3人部屋と1部屋をとれる宿がここしかなかったというオチもあるが……。
とにかく、宿は決まったので身分証を作りに冒険者ギルドへ向かう。
「店長、冒険者ギルド以外には行かないんですか?」
早苗ちゃんたちは、俺の後をついてくるように歩いていたが気になったのだろう、しばらくすると質問してくるようになった。
「勿論、他のギルドも回るつもりだけどまずは冒険者ギルドで身分証を作るんだよ。
冒険者ギルドは他のギルドと比べて歴史があるからね。
おそらく俺が知っている時代から何年過ぎていようが、今も存在しているだろうと思うのは冒険者ギルドだけだろうからね」
「そういえば、この世界は店長の知っている世界から何年も後の世界でしたね……」
「そうなんだ。 ……でも、そんな後の世界なのによくお金が使えたわね?」
響子ちゃんの疑問ももっともだ。
「お金の価値は、この世界だとそうそう変わらないよ。
これでも俺は、この世界に100年以上いたんだ。
その間にもお金のデザインは変わっても価値は変わらなかったよ」
そう、デザインは大きな事件なんかがあると変わっていたな。
俺を追放した王様の先々代は、確か暗殺されたとかでそのことを忘れないためにデザインを変えた記憶がある。
でも、すべてのお金が旧デザインから新デザインに変わるには時間がかかるから、すべてのお金が新デザインに変わり人々に受け入れられるまで俺を追放した王様の代までかかっていたようだったな。
「それなら店長さん、お金の価値について教えてくれる?」
「ああ、この世界のお金は銅貨・銀貨・金貨・白銀貨・白金貨と別れている。
銅貨1枚が日本円で約10円の価値だよ。銅貨100枚で銀貨1枚になる。
だから銀貨1枚が約1000円ということだね」
「へぇ~、500円玉のようなコイン1枚にいろんな価値があるんだね」
「ほのか、何のんきな感想を言っているのよ。
店長さんに宿で私たちに渡してくれた金貨1枚があったでしょ?
あれ価値にして約10万円よ、10万円」
「……10万円……」
三人ともさっき上げた金貨1枚を出して、まじまじと見つめている。
こんな通りでお金を見せびらかすような真似は危険なんだよ?
「三人とも、お金は腰のポーチにしまった方がいいよ? 失くしたり掏られたりしたら困るでしょ?」
俺の指摘で、三人とも慌てて金貨1枚を腰のポーチにしまい込む。
その腰のポーチは空間魔法が付与されている外付けアイテムボックスだから、掏られる心配はない。
盗られたら終わりだけど、しっかりと腰に巻き付けてあるし大丈夫だろう。
早苗ちゃんたち三人にお金の価値などを話しているうちに、目的の冒険者ギルドに到着した。
「……ここがファンタジーで有名な冒険者ギルド」
響子ちゃんの感想だけど、他の2人も同じような思い何だろう。
響子ちゃんと同じような顔で冒険者ギルド入り口で驚いている。
「三人とも、中に入るよ?」
三人は緊張しているのか頷いただけで、俺の後ろをついて冒険者ギルドの中へ入っていく。
今の時間帯なら、ギルド内は人が少ないはずだからと入ってすぐに見渡すと、やっぱり人は少なかった。
冒険者ギルドの内装は、俺が追放される前と変わり映えしてなかった。
正面に通達掲示板がありその両サイドが依頼掲示板だ。
入って右側にある受付に近い掲示板が低ランクの依頼が貼ってあり、高ランクは左側に貼り出されている。
そして、掲示板の右側に銀行と同じような受付が並び、左側は高ランクのための受付と素材買取場への通路が続いている。
また、左側にはギルド経営の雑貨が売られている店があった。
右側の受付は5つに分かれていてそれぞれに受付嬢がいて書類仕事をしている。
また、銀行のように待つことがあるのかソファも用意されていた。
さらにその先には、2階への階段があった。
「店長、店長」
俺の袖を引っ張りながら、早苗ちゃんが俺を呼ぶ。
俺がどうしたの?という顔をすると、早苗ちゃんは掲示板を指さして質問してきた。
「店長、あの掲示板の真ん中に縦長に細く空いているけど、あれって何か意味があるの?」
「あの真ん中は『通達掲示板』といって、ギルドからのお知らせとか国からのお知らせとかを張る場所になっているんだよ。
ちなみに、右側に低ランク、左側に高ランクの依頼が貼ってあるんだ」
「へぇ~、見やすいようになっているんですね……」
「ねえ、何時までも眺めてないで登録を済ませない?」
響子ちゃんが、入り口から少し外れた位置でギルド内を眺めている俺たちに注意する。
確かに、こうしていると怒られそうだな……。
響子ちゃんの注意を聞いて、俺たちは右側の受付へと移動する。
俺たちが並んだ受付は掲示板から4番目の受付だ。
そこの受付嬢がさっきからじっと俺たちを見ていたのでそこに並んでしまった。
「冒険者ギルド、パルセール支店にようこそ。
登録ですか? ご依頼ですか?」
ここってパルセールという町なんだな、門の兵士たちも何も言わなかったから初めて知った……。
「俺たち4人の登録をお願いします」
「わかりました。
では、こちらの用紙に必要事項を記入してください。
最低でも、お名前だけはご記入をお願いします」
そういうと、受付嬢は俺たちの前に用紙を並べて何かをとりに席を立った。
残された俺たちは、話し合いながら記入をしていく。
「名前は書かないといけないのはわかるけど、この職業って?」
「それは、ステータスを見た時に職業が表示されていたら記入ってことだな」
俺が響子ちゃんの質問に答えると、早苗ちゃんもほのかちゃんもステータスを表示させて確認している。
ステータスオープンをこっちに来た時に注意しておいたから、誰でも見えるようにステータスを表示させることはない。
「店長さん、年齢ってなんで書くの?」
「……そういえばなんでだろうな」
俺も考えたことなかったな、ギルドカードに記載されるわけでもないのに。
そんなことを考えていると、小型の丸い水晶を抱えて持ってきた受付嬢が答えてくれる。
「記入用紙の年齢は、年齢制限がある依頼のためなんです。
見た目と年齢が一致しない種族もいますから、書ける人は一応書いてもらっています」
なるほど、年齢制限のある依頼ってのがあるのか。
おかしな依頼もあるものだな……。
いくつか質問をしながら登録用紙を記入し終わると、今度は水晶に手を置き魔力の登録、その後ギルドカードの発行となった。
受付嬢からギルドランクの仕組みや注意事項を聞き終わると、自分のギルドカードを受け取る。
4人とも初級ということで、クレジットカードほどの大きさのギルドカードは半分から左側が鉄の色になっている。
ランクが上がると、この鉄の色が銅になり銀・金・ミスリルと変わっていく。
また、魔法でそう見せているだけなのでこのカードを売ってもお金にならないそうだ。
知らずに売ると罪になるそうで、気を付けてくださいと注意された。
そんなことしないよって早苗ちゃんたち三人は笑っていたが、おそらく過去に売りに出したヤツがいたのだろう……。
さて、これで身分証はできた。
俺は当初の目的である俺が追放されてからの歴史を調べるとするか。
第10話を読んでくれてありがとうございます。




