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鏡の国、まねっこ中毒人間者

作者: Athla

「なぁ、 本当に大丈夫だからさ!! ミナにも入ってほしいんだけど?」

「無理無理!! そこね、 スマホで調べたら、 鏡にお化け映ってる画像見ちゃったもん!!」


 私とマナ姉さんは、とある心霊スポットに向かっていた。

 最近廃園になった裏野ドリームランド。 廃園になった噂も、子供の行方不明事件が多発して客足が遠のいたという話だ。

 他にも怖い話を沢山聞く。


「大丈夫だよ!! 私が手を繋いでおくから、怖くないだろう? ミナがいると私勇気出て、 アトラク制覇できるから。 そしたら、カイに自慢できるし!!」


 カイというのは、姉さんの小さい頃からの男友達だ。 私も何度か遊んでもらった。 親友以上、 恋人未満と言うのが二人の関係にはぴったりと当てはまる。 彼は怖い話が大好きで、姉さんもいつからか似てきた。


 裏野の曰く付きアトラクションに行き、無事に帰って来れるか、という賭けを今回はしたんだって。


 行くのはミラーハウス。 入った人の人格が、出てきた時には、別人みたいに変わってしまうらしい。


「昔、一回…… まだ開園してるとき行ったことあるけど、博物館モチーフで、 怖くなかったから!!

 あー、ほら、 ミナの大好きなロボット、沢山いた!!」


 いい年してだだっ子みたいに首を振っていたけど、 その一言で揺れが止まった。



 自他共に認めるロボ好きなのだ、私は。 将来、自分でロボットを創ってみたい!! と、現在は工学部に在籍中。 物理はあんまり得意じゃないけど、頑張っている。



「じゃあ、行く。 お姉ちゃん、お願いだからはぐれないでね?」


 もちろん、と頼もしく笑う姉が運転する車は、ギキッと夜風の中で止まった。




 私達は、ここをもう遊園地として認識していない。 肝だめしの格好の塲として、不純にとらえている。


 だというのに、赤茶な門はランプを色とりどりに煌めかせ、お出迎えをしてくれた。 今の私は、それにすら体を震えさせてしまう。


「お、おねえちゃん。 従業員いないし、 電気止まってるはずなのに!! 勝手に電気ついたよ!?」


「落ち着いて。 たぶん、 人が来たら反応するセンサーでも付いてたんだろうね。 電源ついたのは…… 内部に充電式のバッテリーあって、まだ電力残ってるんじゃない? それか、まだ電気通ってるとか」


「うぅ…… まぁ、ここ、閉園前から色々噂あったもんね。 こういうこと見込んで止まってなかったりするのかなぁ?」


 お姉ちゃんは、適当に目を泳がせている。 その場の思い付きをすぐ口にするのも、カイさんそっくりだ。 まぁ、 せっかくの気づかいを無駄にするのもなんだかなぁ…… と思って、 話をあわせておく。



  頷きながら入り口をくぐると、ライトの丸い輪の中へ幻想的に浮かびあがる遊具の数々。


「綺麗…… メリーゴーラウンドとか、一段と!!」


「おっ、ミナ。 目の付け所が鋭いねぇ!? それさ、誰も乗っていないはずなのに、勝手に回り出すんだって!!」


 …………聞くんじゃなかった。


「速く行こうお姉ちゃんミラーハウスどっち!?」



「えー、見ようよー!! 凄い綺麗って噂じゃ聞くし!? にしても、ミナってば、相変わらず怖いと早口になるよね。 かっわいい!!」


 小さな子供みたいな声をあげる姉を引きずって、歯車が目立つミラーハウスへ駆けていく。



 手が氷みたいに冷たいのは、 やっぱり彼女も怖いからだと思ってた。

 

 ちっとも、手は濡れていなかったのに。




「着いた!!  姉さん、 ほら、 着いたよ?  なにボーっとしてるの?」


 まさか熱中症だろうか。 夏生まれで夏風邪は引いたことない姉が有り得ないと思うけど、顔のところで手を振ってあげる。 そうするとすぐに気づいて、苦笑いする大切な家族。


「いや、 ごめん。 なんか、懐かしいなって」


「小さい頃来たんだっけ?  私、 記憶無いなぁ……」


「ミナはお留守番で来てなかったから。 風邪引いちゃったんだよ。 かわいかったなぁ…… 

 その頃に閉園になるって決まってさ、 最後だからって私が父さんに無理言ったんだよ。

 話逸れた、悪い。 さ、行こうか? 可愛い妹の初めての肝だめし!!」


 姉さんの懐かしそうな顔は、いつもの向日葵みたいな笑顔に戻る。 手を繋いで、 重い木の扉を開けた。


 ドアをくぐる。 姉の言う通り、 そこは博物館のような空間が拡がっていた。 目の前には数台のロボット。 どれも同じ型のようだ。

  中央のロボの下にキャプションの貼られた台座があったので、 近づいて読んでみる。


「まねっこ中毒ロボット、人間者。 3回何かのものまねが出来ますよ。 3回目のものまねで何か起こります。 今現在は、 …… 回目で、 マ……?

 駄目、所々掠れてて読めない。 にしても、 これなら怖くないかも!! 」


  その言葉に姉は嬉しそうに笑ってくれた。 つられて、 私も楽しくなった。 だというのに。



  その声が合図でもあったかのよう、

 ーー ガシャンッッッ

 と鏡の付いたシャッターが、 ドアのところで閉まった。

「ちょっと!! ここ、閉園しているでしょう!? なんで、 なんで、 閉じ込められるの?!」

  鏡を強く叩いてみるけど、 部屋が全面鏡張りなので、ドアがあった場所と壁の区別がつかない。


  「ミナ、ミナ!! 落ち着いて!! 大丈夫だよ? 明かりもついてるし。 それに、 ミンナがいるから。 こわくない、 こわくない。 私は、ここにいるしさ。」


  抱き締めてくれる姉に安心して、 体の力がぬける。 少し頭も冷え、 スマホを見ると電波は確かに繋がっていた。

 そこに、 また恐怖が襲い掛かってくる。


  明かりが差し込まれた。 眼前のロボから。


  そして、声が響く。

「ミナぁ…… わたしは、ここ。 マナねぇは、 ここだよ……」


  悲鳴をあげそうになったけど、 聞き覚えのある声だったから思いとどまる。 呼ばれたのは、 私の名前。 そして、 あれは確かに、 小さい頃のマナねぇさんの声だった。 でも、 姉さんは確かに目の前にいる。イタズラ好きな彼女の仕掛けたドッキリかもしれない。 そう考え、小声で確認を取ってみる。


「お姉ちゃん。 何かドッキリ仕掛けなかった?」


  その言葉には、 真面目な声が返ってきた。

「そんなのしてない。 私が小さい頃に来たとき、 録音機能でも付いてたか?」


「だ、だよね…… きっとそうだよねうん!!」


「違うよ…… その私は、 ニセモノ!! まねっこ!! 速く、 速く逃げて!! ア…… bu …… NA…… 」


 泣きそうな小さな姉の声は、途中で聞き取れないような音に変わって消えた。


「まねっこ? …… ねぇ、 マナ姉さんは…… どこ?」


  気付けば口から溢れていた問いかけに、 返事はない。

  動かずにいる姉に近づいて、揺さぶってみる。 何処からか、 ギシミシと音が軋んだ。 姉が、 姉だと何時からか信じていたモノが振り替える。

 

  目前の錆び付いた腕が触れて。

  私の脳内に声が響く。 そうやって、 一つの意識ーー 固定観念のようなものーー がソレから刷り込まれていった。


  【 さあ、 サア、 Sa、 まねっこしなくちゃイキテケナイヨ】



「久しぶり、 カイ」

  高級なホテルのレストランで、男女が一組、 挨拶を交わしていた。 青年は、 女性の向かいに腰かけて笑いかける。


「あぁ、 久しぶりだな。 仕事でお互い忙しかったけど、 元気そうで安心した。 ミナちゃんは、 どう?」


  その言葉に、 彼女は形容しがたい笑みを浮かべる。 喜んでいるような、 さみしがっているような。 そうして、 口は開かれた。


「あー、 大丈夫だよ。 なんか最近、 私に似てきてさ!! 可愛いよねー!!」


  姉妹をよく知っている彼は、一瞬で見抜いた。 空元気だ。 第一、 大丈夫という言葉を放つものが、 完全に平気な訳はない。


「あのさ、 お前。 まさか、 妹ちゃんの変化、 裏野のミラーハウス行った後からとか言わないよな?」


  恐る恐るの問いに、 苦笑いが返される。

「そう、 なんだよ。 ね、 やっぱり、 あの噂って、 本当だったのかな?」


  重い吐息が肺から押し出され、 青年はどこか強張った顔で遠くを見始める。 そのまま、 向かいに座る彼女に聞かせているのか、 独り言かのように語りだした。


「お前が小さい頃さ、閉園寸前の裏野に行ったよな。 あの時ミラーハウスから帰って来たお前は、 だんだんと俺に似てきた。

  昔は、 とても怖がりで、 フワフワしてて女の子ぽかったのに。


 マナ。 お前は覚えているのか? 昔の自分がどんな風だったか」


  その問いに、 あの日から長年、 兄のような青年のまねっこをしているモノは、 首をかしげ、 口を開いた。


「あれ? そうだっけ?」


  そうして、無意識に思うのだ。 さあ、 昔の自分のまねっこをしないと、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖かったです。夜中に読んだ私が間違っていた。ただでさえ怖がりなのに!しばらくは鏡とロボットに怯えることになりそうです、どうしてくれるんですかあ!(褒め言葉) ただ怖いだけじゃなく、ロボット…
2020/05/13 02:53 退会済み
管理
[一言] ホラー企画のページから来ました♪ ロボットという題材が斬新で目を惹きました。まねっこしなければ生きていけない、というところに切なさも感じ、じゃあ本当の自分はどこだろう、という怖さもあり、読み…
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