ナビ(1)
☆
日曜日。
午前0時。
れいのごとく拉致されたのは前日の午後6時。
慧は現在、結愛の部屋にいた。
櫻井家での夕食ははじめてではないが今日は居心地の悪い思いをした。
結愛心愛姉妹の両親がなぜかニコニコニヤニヤしていたからだ。
何か悪寒のようなものを覚えた。
「結愛、いまさら言うのも何だけど前日に俺を迎えにくる必要はなかったんじゃないか?」
R×Fは逃げない。
午前7時からでも十分できるはずだ。
「私と心愛は楽しみにしていたの。1秒でもはやくやりたくて」
結愛の目は輝いている。
いつもは午後9時前に寝る心愛も目がパッチリしていた。
二人とも言っても聞かないので慧はため息をし、R×Fのギアを見た。
慧のギアは携帯のストラップとしてついている。
電気の光で青く耀いて見えた。
「俺のギアは青か」
「私たちとお揃い」
言って結愛は髪飾りを指差した。
「私はヌイグルミだよ」
心愛は熊のヌイグルミを抱き締めて笑った。
「赤じゃなくて二人も青なのか」
「そのほうが何かと便利だし。何かあったらすぐに頼れる」
「お兄ちゃん。赤いギアは人間種族が主に住んでいてわりと争いが多い場所に送る。
青いギアは他種族が住む場所。他種族間の争いは少なくて、一番の特徴はダンジョンが突然、生まれること。だからそういったクエストも多いの」
「『ダンジョンマスターに俺はなる!』的な?」
「それを目指す人もいるね。攻略したダンジョンのマスターになったらダンジョンはその人のものになって、他者を受け入れなくなる。ダンジョン内の宝箱は空(笑)みたいな?」
「青いギアを持ってプレイすれば他種族のいずれか?」
「人間種族からはじめることもできるけど、ほとんどは他種族。人間種族よりかわいいから」
「じゃあ二人も?」
「私たちのことはあとのお楽しみ」
二人のことだからかわいいキャラクターなのだろう。
それを見るのは楽しみだ。
「ダンジョンにもぐる時は気をつけて。ダンジョンから魔物も生まれるから」
「了解。確かR×Fではクエストとかダンジョン攻略をせずにのんびりライフを満喫していいよね」
「慧君。男なら冒険」
「俺は平和主義者だから」
「・・・・残念」
「まあ、せっかくのファンタジーだから楽しむよ」
「慧君がやりたいようにやったらいいと思うよ。でも最低限のルールを教えて」
「大丈夫。簡単なルールは覚えたから」
「慧君は思った以上に楽しみなんだね。私も嬉しいよ」
結愛は笑いながら髪飾りのギアに触れた。
「本格的にR×Fをはじめる前に先にいく場所があるの。そこはナビステーション」
「ナビステーション」
「自分のキャラクターや初級の職業を決める場所。そして1人1人にナビがついているの」
「ナビ?」
「よく携帯小説なんかでスキルアップやレベルアップとか、○○拾得とか、それを告げている子を私たちはナビと呼んでいる」
「あぁ。いわゆる天の声みたいな?」
「中にはそう呼ぶ人もいるね」
結愛はニコニコしている。
「じゃあ慧君。ギアに触れてから意識を集中させて。そうすればつくから」
結愛の言葉は途中から光に飲まれて聞こえなくなった。
一瞬の浮遊感。
体の組織が変化するような不思議な感覚。
そして━━
☆
気づいた時、慧は白い空間の世界にいた。
いや、世界━━というより、広い箱の中。
そんな感じだ。
何もない。
床に変なノイズのようなものが走っている。
静かな場所。
本来なら不安になるところだろうが、慧は考える素振りも見せずに一歩一歩前へと進んだ。