いざ空想世界へ【後編】
☆
慧が通されたのは応接間━━ではなく幼馴染みの部屋だった。
女の子女の子をした広い部屋である。
貴族の娘、あるいは某王国のお姫様が住んでいそうな、ピンクを貴重とした部屋。
部屋に入った途端、いいかおりがした。
何度も訪ねているが緊張感が抜けることはない。
なにせ相手は世界でも有数のお金持ちの櫻井グループのお嬢様。
今話題のオンラインRPG━━ロスト・オブ・フロンティア・・・・通称R×Fを運営していて、いくつもの企業を抱えているのが櫻井グループ。
そのお嬢様である少女の印象は清楚で可憐、女神様や妖精、それとも天使か、とたとえてもあながち嘘とは思えない。
長い黒髪、白い肌。
顔のつくりは美しいが、体のつくりは・・・・
「ふふ。慧君。そのため息はなにかな?」
椅子がわりにベットに座っていた少女━━櫻井結愛は立ち上がり、慧に近寄った。
「はは、何でもありませんよ。結愛様」
中学生で成長がとまったような体型の結愛に笑って見せる。
感情が凍結したような笑みを返した結愛は慧の額をぺちこん、とした。
「敬語禁止。様もなし。私と慧君は幼馴染みなんだから」
幼馴染みといってもギャルゲーみたいなのとは違う。
二人の両親は親友同士で家族ぐるみのつき合い。
誕生日は1日違いで生まれた病院も一緒。
しかし保育園も通っていた小中学、高校も違うから王道の幼馴染み、というわけではない。
会えるのもたまに━━しかもほとんど一方的に会うことになっている。
今日のような拉致然といったのもその1つだ。
そういったことは日常茶飯事なので慧は文句を言わない。
「結愛。用件は?お医者さんごっこをしたいからという理由はなしで。もういい年だし」
「慧君はエッチ」
「いやいや、いつもお医者さん役は結愛だったし」
「慧君慧君。ついに手にいれたの。慧君のぶんを」
結愛は興奮したように慧を見上げた。
目がキラキラしている。
「手に入れたって何を?」
聞いた慧のお腹に軽い衝撃が襲った。
慧が視線を下に向けると1人の少女の姿。
年齢は12、3のはずなのだが実年齢より幼い感じの少女。
栗色の髪を両耳上あたりで軽く縛り、大きな目がじっと慧を見上げていた。
結愛を子犬にたとえるならこの少女はウサギだ。
慧が頭を撫でると少女は気持ち良さそうに目を閉じた。
「こんにちは。心愛ちゃん」
名前は櫻井心愛。
結愛の妹である。
「いらっしゃい、ご主人様」
「・・・・・・」
幼い少女にそう呼ばれて軽い衝撃を受ける。
慧の脳裏に1人のメイドさんの姿が浮かんだ。
「心愛ちゃん。そう充希に言えみたいなことを言われた?」
「そうすればお兄ちゃんが喜ぶって充希さんが」
━━いたいけな少女に何を教えているんだ。
「心愛ちゃん。充希さんの言うことは真に受けなくてもいいからさ」
「慧君。本音は?」
「まんざらでもない」
「・・・・・・・」
気のせいだろうか、結愛に牙のようなものが見えたような?
「それで手に入れたものって?」
「それは」
姉の言葉を遮って心愛は口を開いた。
「ギアだよ、ギア。R×Fのギア。これでお兄ちゃんもプレイできるね」
やや興奮した感じで。