Analysis of Ascension Part2
会場の場は異様な雰囲気に包まれていた。
レンズを通してこの混沌な状況は、それを見ているワイドショーのレポーター、そして国民にまで伝わっていた。
それは、もちろんこの中継がカメラを通して日本全国に生中継されていることだ。
天皇陛下のお言葉は、日本国民にダイレクトに伝わるという状況だ。
いや、しかしこのパンデミックの状況下で、日本という国の象徴である天皇という存在が、何かしらの声明を行うというのはそれほどおかしいことではないのかもしれない。
いやむしろ一部の人々は期待していただろう。
この視線の先にいる存在、いわゆる人類のマスターとも呼ぶべき男がコロナの救世主となることを…
誰も何を言っていいかわからない状況の中、シーンは静かに動き出す。
「まず先に、ここからは一人の人間として発する言葉、それ以下でもそれ以上でもない。
それを確認した上で、まずいきなり登場した上でこのようなパフォーマンス驚かせてしまって申し訳ない」
その男の、一見謝罪とも取れる行動は、逆にこの場により一層の緊張感を与えた。
それは、ここから何かとてつもないことが発生し、今いるこの日常が何か別の次元に突入するかのような前触れであるともとれる、何か得体のしれぬ不安のようなものがこの会見を共有する人間たちの間で芽生え始めていた。
『今日ここで人間宣言を撤回する!!』
もし…こんなことが、今、目の前いるこの天皇陛下とよばれる一人の人間が突然こんなことを言い放ったらどうなるのだろう?
けど既にこのようなことを思っている時点で、今私たちの前で座っているこの存在は人間を超えていると認めているようなものじゃないか。
なら今さら神だとかマスターだとか人間だとかいう肩書は意味なんてものをなさないのではないか…
そんな当てもない考えを会見場にいた一人の記者、名前も性別も分からない、そんなモブのような存在の彼彼女、そうそれは誰も同じ。私たち人間では分からないのだ。
今この場所に天皇陛下が、現れる意味が。
だからこそ誰もなにも質問しない。
記者はジャーナリスト業を、放棄している。
ここは会見を行う場所ではなくなっていた。
事態は既に次のステージへと進行していた。
「外出を控えてくれ」
天皇陛下から発せられた言葉は意外だった。