屋上より
オレンジとピンクを混ぜたような空だ。
ゆっくりと自分たちの色を塗り広げていくように、雲に滲み、風に流れる。
そのうち、このキャンパスには青や紺が上書きされ、夜が訪れるだろう。
その色を見ることは、もう、ないのだけれど。
私はただぼうっと、空を見ていた。
別にきれいだとは思えなかった。
なにもないこの街に、ただただ広がるその色は、どちらかというと物悲しく、息苦しいものに思えた。
靴は履いていようと思った。あちらの地面を素足で歩くのは大変だろう。買ったばかりの白いスニーカーは私にはどこか不似合で、眩しかった。
一歩、前へ踏み出した。
なさけない。足が震えていた。
震えに気づいてしまうと、すぐに不安が押し寄せてきた。感情に流されるように涙が止まらない。
そのうちに、私はしゃがみこんだまま動けなくなった。
「マナミ!」
あわただしい足音と私を呼ぶ声。涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、私は顔を上げた。
ひどく青い顔をしたアンナが、そこにいた。この顔を、もう何度もさせてきたのだと思うと、私は少し申し訳ない気持ちになった。
アンナは膝をつくと、私の背中に腕を回した。私は何も言わずされるがままだった。
「マナミ、だいじょうぶだよ。だいじょうぶだから。」
「アンナ……。」
何が大丈夫なのだろう。私にはわからなかった。私を抱きしめるアンナの手はおびえるように震えていて、なぜだかまた涙が出た。
「アンナ、私ね、一歩進めたの。あと少しであっちに行けるの。」
私の言葉を聞くと、アンナは何も言わずに抱きしめる力を強めた。
「マナミ、ごめんね、ごめんね。」
アンナも泣いていた。泣きながら、ごめんね、ごめんね、と謝り続けていた。
滲む空はいつの間にか暗くなっていて、私は少し安心して、微笑んだ。
屋上の柵は手を伸ばせば届く距離に。